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32 そして……
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「私はキャロラインを何だと思っていたのだろう」
婚約者、幼馴染?違う、あの時私の中でキャロラインは倒すべき敵だった。だから一番傷つける方法を思いついた。衆人の面前であれだけ手ひどく婚約を破棄したのだ。そんなことをする必要などなかったのに。
「謝ろう、キャロラインに。そうすれば許してくれるはずだ」
長年、婚約者として過ごしてきた実績がある。そしてキャロラインは私の事を愛していた。
「そうして戻ってきてもらうんだ。そしたら何もかも元通りじゃないか。父上のお怒りも解けるし、秘密にせねばならない事は守られるはずだ」
父上がこぼした言葉は蘇る。王太子の選択を誤った、という言葉が。セドリックの下には同じ正妃で弟が二人、側妃から一人、弟がいる。第一王子であるセドリックを外しても、代わりはいるのだ……。王太子の座を無くしてたまるかと、セドリックは声を掛けた。
「誰か、誰かいないか?」
隣国、リーインクールにキャロラインを迎えに行ってくれる誰かを捜していた。
レイジット・フィクサはフィクサ侯爵の最初の息子である。フィクサ侯爵は王家に仕え、宰相の地位を賜っている忙しい男だった。レイジットはそんな父は尊敬していたが、レイジットの母、フィクサ侯爵夫人は寂しかったらしい。そしてその寂しさを食べることで埋めていた。
フィクサ夫人は美人だが、ふくよかすぎる体を持っていたし、子供の頃のレイジットはそれはそれはふくよかだった。
「ホンット、レイは~子豚ちゃんよねぇ~」「こぶたちゃん」
「こ、子豚じゃないもん!僕はぁ~~あーん!」
キャロラインとセドリックと同い年であったために良く一緒に過ごしていたし、良くキャロラインに虐められていた。小さい頃のセドリックはほぼ押しの強いキャロラインの言いなりだった。レイジット自身も泣き虫であったし、気も弱かった。
セドリックの弟達と遊んだり、キャロラインの弟のルーザなどから頼られたりするようになると、レイジットは変わっていった。
「レイ、痩せた?あなたの好きなあまーいケーキあるわよ?」「美味しいよ?レイも一緒にたべよ?」
「僕はお茶だけで結構。本を読みながらで構わない?」
痩せて行くと途端にレイジットはお嬢様たちから声をかけられるようになる。素地は良いのだから人気が出るのはすぐだった。銀色の髪に紫の目、知識を蓄える為に本を読みすぎて眼鏡をかけるようになっていった。
「レイ、最近付き合い悪いわよね?」「ああ、うん」
「いつまでも子供気分でいていいものではないですからね」
学園に入る前から頭角を現しだし、フィクサ宰相の後を継ぐのは彼の息子になりそうだと、噂されるほど切れ者に成長していった。
そんなレイジットがセドリックの婚約破棄騒ぎを止められなかったのは、大きな失敗だ。それにルリルーの件もどう読み違えたのか。ルリルーはセドリックからの婚約を必ず受けるだろうと思っていたのに、断って国外追放などになってしまった。
「何故だ?ルリルーはセドリック様の事を愛していたのではないのか?」
優秀な頭を回転させて、過去を思い出してみる。そういえば一度としてルリルーはセドリックの愛のささやきに返事をしたことはなかったし、いつも困った顔をしていただけだった。
「……」
いやしかし、どうなのだろうか……答えを出すのは尚早だと頭を振った。そんな思い悩むレイジットをセドリックは呼び出した。
「お呼びですか、セドリック様」
「すまない、レイジット。君にしか頼めない事なんだ……隣国リーインクールに行ってキャロラインを連れ戻してくれ」
常に冷静であろうとするレイジットだが、流石に動揺した。
婚約者、幼馴染?違う、あの時私の中でキャロラインは倒すべき敵だった。だから一番傷つける方法を思いついた。衆人の面前であれだけ手ひどく婚約を破棄したのだ。そんなことをする必要などなかったのに。
「謝ろう、キャロラインに。そうすれば許してくれるはずだ」
長年、婚約者として過ごしてきた実績がある。そしてキャロラインは私の事を愛していた。
「そうして戻ってきてもらうんだ。そしたら何もかも元通りじゃないか。父上のお怒りも解けるし、秘密にせねばならない事は守られるはずだ」
父上がこぼした言葉は蘇る。王太子の選択を誤った、という言葉が。セドリックの下には同じ正妃で弟が二人、側妃から一人、弟がいる。第一王子であるセドリックを外しても、代わりはいるのだ……。王太子の座を無くしてたまるかと、セドリックは声を掛けた。
「誰か、誰かいないか?」
隣国、リーインクールにキャロラインを迎えに行ってくれる誰かを捜していた。
レイジット・フィクサはフィクサ侯爵の最初の息子である。フィクサ侯爵は王家に仕え、宰相の地位を賜っている忙しい男だった。レイジットはそんな父は尊敬していたが、レイジットの母、フィクサ侯爵夫人は寂しかったらしい。そしてその寂しさを食べることで埋めていた。
フィクサ夫人は美人だが、ふくよかすぎる体を持っていたし、子供の頃のレイジットはそれはそれはふくよかだった。
「ホンット、レイは~子豚ちゃんよねぇ~」「こぶたちゃん」
「こ、子豚じゃないもん!僕はぁ~~あーん!」
キャロラインとセドリックと同い年であったために良く一緒に過ごしていたし、良くキャロラインに虐められていた。小さい頃のセドリックはほぼ押しの強いキャロラインの言いなりだった。レイジット自身も泣き虫であったし、気も弱かった。
セドリックの弟達と遊んだり、キャロラインの弟のルーザなどから頼られたりするようになると、レイジットは変わっていった。
「レイ、痩せた?あなたの好きなあまーいケーキあるわよ?」「美味しいよ?レイも一緒にたべよ?」
「僕はお茶だけで結構。本を読みながらで構わない?」
痩せて行くと途端にレイジットはお嬢様たちから声をかけられるようになる。素地は良いのだから人気が出るのはすぐだった。銀色の髪に紫の目、知識を蓄える為に本を読みすぎて眼鏡をかけるようになっていった。
「レイ、最近付き合い悪いわよね?」「ああ、うん」
「いつまでも子供気分でいていいものではないですからね」
学園に入る前から頭角を現しだし、フィクサ宰相の後を継ぐのは彼の息子になりそうだと、噂されるほど切れ者に成長していった。
そんなレイジットがセドリックの婚約破棄騒ぎを止められなかったのは、大きな失敗だ。それにルリルーの件もどう読み違えたのか。ルリルーはセドリックからの婚約を必ず受けるだろうと思っていたのに、断って国外追放などになってしまった。
「何故だ?ルリルーはセドリック様の事を愛していたのではないのか?」
優秀な頭を回転させて、過去を思い出してみる。そういえば一度としてルリルーはセドリックの愛のささやきに返事をしたことはなかったし、いつも困った顔をしていただけだった。
「……」
いやしかし、どうなのだろうか……答えを出すのは尚早だと頭を振った。そんな思い悩むレイジットをセドリックは呼び出した。
「お呼びですか、セドリック様」
「すまない、レイジット。君にしか頼めない事なんだ……隣国リーインクールに行ってキャロラインを連れ戻してくれ」
常に冷静であろうとするレイジットだが、流石に動揺した。
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