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21 どうしてもできないから
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「あ、あの……離して」
「嫌だ」
確かに俺から見ても美人だと思ったエーデリア姫と比べ続けられたのは辛かったと思う。でも、王太子殿下だって別に不細工な訳ではない。金髪に緑の目、少し目つきは鋭いけれど、優しすぎるよりいいと思う。確固たる理由のない噂で劣っているなんていわれているけれど、良く勉強して人の話もきちんと聞いているらしいし、将来国を背負って立ってもなんら問題のないほどの人物だ。
そんな人がまるで駄々っ子のようなことを口にしながら、俺から離れてくれない。しかもかなり力が強くて、本当にきちんと体も鍛えてるんだなと妙なところで感心してしまった。でもこの状況は俺にとっては心地のいいものじゃない……どうせ抱きつかれるなら女性の方がいいのに、なんて考えモヤモヤした気持ちになってくる。
いや、飛び降りに見えたんなら慌てて止める気持ちも分からなくもない。なんせ大事な勇者様のオマケだ。勇者様の機嫌を損ねるのは避けるべきところだもんな……そうでなくても青葉の機嫌は良くない、らしい。必須スキルが見つからない上に、俺の良くない噂にも物凄く腹を立てているらしいし……それに俺も青葉に会うことを何となく避けている。
勿論、青葉のことを嫌いになんてなっていない、ずっと大事な妹だ。でも周りから必要とされて、その力もある青葉を見ると俺の擦り切れた一握りの自尊心が悲鳴を上げるんだ。今の俺には辛すぎて、自分が情けなくて……。
「頼む……私を否定しないでくれ、お前だけでも」
小さくか細く聞こえてしまった呟きに、俺は応えるしかなかった。
優秀な妹。誰からも頼りにされ、愛されるとても輝いた存在。その妹が嫌な奴ならまだ救いはあった、憎めば良いんだから。でも優秀な妹は完璧で、不出来な兄の味方をし、どこまでも庇う。恨むこと、憎むことも憚られる優しさ。それでも他人は比べることをやめないし、あの素晴らしき存在の血縁、兄なのだからと過剰な期待を向け続ける。俺はまだ逃げる道を選ぶことができた。だが、この震える王太子はどうだろう。生まれてすぐに持たされた責務は逃げ出すことを許さないし、彼の性格上逃げることを己に許さなかった。
全てのマイナスの感情を、自分の内側に隠し持つしかできなかったんだろう……俺と似た環境、いや俺より酷い状態の王太子殿下を突き放すことは俺には到底できなかった。
触れ合う人の体温は暖かく、冷たく凝った心を少し癒すようだ。子供でも何でも人とのハグは気持ちを柔らかくほぐすって何かで見た記憶がある。後ろから抱えられたままがハグとは言い難いけれど、じんわり温もりは伝わってくる。
それが少し熱すぎる気がするけれど、俺はこの人を振り払えない。それがどんな意味を孕んでいても、どうしても否定することはできなかった。
「嫌だ」
確かに俺から見ても美人だと思ったエーデリア姫と比べ続けられたのは辛かったと思う。でも、王太子殿下だって別に不細工な訳ではない。金髪に緑の目、少し目つきは鋭いけれど、優しすぎるよりいいと思う。確固たる理由のない噂で劣っているなんていわれているけれど、良く勉強して人の話もきちんと聞いているらしいし、将来国を背負って立ってもなんら問題のないほどの人物だ。
そんな人がまるで駄々っ子のようなことを口にしながら、俺から離れてくれない。しかもかなり力が強くて、本当にきちんと体も鍛えてるんだなと妙なところで感心してしまった。でもこの状況は俺にとっては心地のいいものじゃない……どうせ抱きつかれるなら女性の方がいいのに、なんて考えモヤモヤした気持ちになってくる。
いや、飛び降りに見えたんなら慌てて止める気持ちも分からなくもない。なんせ大事な勇者様のオマケだ。勇者様の機嫌を損ねるのは避けるべきところだもんな……そうでなくても青葉の機嫌は良くない、らしい。必須スキルが見つからない上に、俺の良くない噂にも物凄く腹を立てているらしいし……それに俺も青葉に会うことを何となく避けている。
勿論、青葉のことを嫌いになんてなっていない、ずっと大事な妹だ。でも周りから必要とされて、その力もある青葉を見ると俺の擦り切れた一握りの自尊心が悲鳴を上げるんだ。今の俺には辛すぎて、自分が情けなくて……。
「頼む……私を否定しないでくれ、お前だけでも」
小さくか細く聞こえてしまった呟きに、俺は応えるしかなかった。
優秀な妹。誰からも頼りにされ、愛されるとても輝いた存在。その妹が嫌な奴ならまだ救いはあった、憎めば良いんだから。でも優秀な妹は完璧で、不出来な兄の味方をし、どこまでも庇う。恨むこと、憎むことも憚られる優しさ。それでも他人は比べることをやめないし、あの素晴らしき存在の血縁、兄なのだからと過剰な期待を向け続ける。俺はまだ逃げる道を選ぶことができた。だが、この震える王太子はどうだろう。生まれてすぐに持たされた責務は逃げ出すことを許さないし、彼の性格上逃げることを己に許さなかった。
全てのマイナスの感情を、自分の内側に隠し持つしかできなかったんだろう……俺と似た環境、いや俺より酷い状態の王太子殿下を突き放すことは俺には到底できなかった。
触れ合う人の体温は暖かく、冷たく凝った心を少し癒すようだ。子供でも何でも人とのハグは気持ちを柔らかくほぐすって何かで見た記憶がある。後ろから抱えられたままがハグとは言い難いけれど、じんわり温もりは伝わってくる。
それが少し熱すぎる気がするけれど、俺はこの人を振り払えない。それがどんな意味を孕んでいても、どうしても否定することはできなかった。
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