【完結】この手なんの手、気になる手!

鏑木 うりこ

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動物に異様に好かれる手

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「嘘のようなのだが、信じろと?」

「一度で良いので実際に見ていただければ!」

 相談を受けた守備隊長は、半信半疑で基地を訪れ、獣人たちの様子に驚くしかなかった。
 皆、怪我一つなく、毛艶も美しかった。こんな美しい毛並みは貴族が愛玩しいる獣人に匹敵、いやそれ以上だ。
 そして全員機嫌が良い。何かいい事があったのか?と思うほどだ。

「そのシロウという少年には会えるか?」

「止めた方が良いでしょう。どうもシロウは人間に虐待され続けていたようで、人間を物凄く恐れております」

 守備隊長は人間だ。それどころか城に勤めている者はほとんどが人間で、差別の対象の獣人はほとんどいない。

「何ともならんか?」

「お勧めはしません。やっと失った言葉が戻ったほどですから……しかし……ここではまずいでしょうな」

 マール医師もどうしたものか、と顎を撫でた。

「まずいのは獣人達がシロウがここまで貴重で恐ろしい存在だと気がついていないことです。どこで喋ってしまうか……」

 隊長の執務室に集まった3人はため息をついた。

「その少年がいればいくらでも獣人を戦場に送り返せる」

「死んでさえいなければ、多分」

「治すのに限界はあるかも知れませんが、そういうことでしょうな」

 3人のため息は深かったが、数日後事件が起こった。

 城へ急いで向かう馬車の中には気絶したシロウが守備隊長に抱えられて乗っていた。一緒にマール医師が沈痛な面持ちで同乗している。
 気絶させてまで城に連れていかねばならない事件が起こったからだ。


「その子が!レオニーを助ける事が出来るかもしれないというの?!」

「落ち着いてください、ミシェル様」

「落ち着いてなど!落ち着いてなどいられませぬ!レオニーを!息子を助けて!!」

 あまりの女性の金切り声にシロウの意識が浮上する。ここは、どこ?目に入る天井や壁は、ジェス達と過ごした兵舎と違って綺麗で高そうな物だった。

「シロウが目を覚ましました!」

 その声にはっとする。そうだ!逃げなくては!

「い!嫌だ!嫌だ!!行きたくない!」

 シロウを抱えていたのは守備隊長だったが、その手から必死で逃げ出す。

「怖い!こわい!城なんて行きたくない!!人間は嫌だ!!」

 闇雲に走り、部屋の隅でガタガタと震える。

「助けて……ジェス!助けて!みんなぁ!!」

 流石に呆気に取られたが、ミシェルはシロウに近づいた。

「名も知らぬ少年よ!連れてきて本当に申し訳ないと思っています!でも一刻を争うのです!このままでは!私の、私の息子が死んでしまうのです!!少年よ!どうか、どうかお願い!息子を!レオニーを診てやって下さい!お願いします!!」

 うずくまるシロウの前でミシェルは床に這いつくばって、頭を床に擦り付けた。

「ひっ……」

 シロウは少しだけ、その人を見た。

「……ら、ライオン……?」

 その人は女性だった。美しいドレスを着たまま、床で頭を下げている。その頭には丸い耳がある。獣人だとすぐに気がついた。

「ミシェルさま!」

「ミシェルさま!」

 彼女に声をかける侍女たち、しかし止めようとしない。ミシェルは獅子の獣人であった。

「あの……一体」

 見ると奥にベッドが一つあり、苦しそうな息遣いが聞こえて来る。
 しかもかなり早い。もうすぐ死ぬ、そんな気配すらした。

「……死にそう……?」

「私の息子のレオニーです。襲われて斬られてしまいました!お願いです!どうか、どうか!助けてやってください!」

 死ぬのは可哀想だな……ふらりとシロウは立ち上がる。ベッドに近づくと、まだ子供の獣人が真っ青な顔で寝かされていた。
 
「子供のライオンだ……」

 ゼェゼェと息をするのをしばらく見ていた。

「がっ!ゲフッ!!」

「レオニー!!!」

 真っ赤な血を吐いた。ミシェルが駆け寄る。ああ、この子は死ぬんだ。

「レオニー!レオニー!!お母様ですよ!お母様を1人にしないで!レオニー!!」

 シロウは呟いた。

「この子が死ぬと1人になっちゃうんですか?」

 侍女が沈痛な面持ちのまま、そっと口を開いた。

「ミシェル様は……人質として……嫁いでこられました……」

「ここでミシェル様のお味方はほとんどおりません」

「そう……」


「がふっ!」

 レオニーは血を吐く。命の火がきえようとしている。

「レオニー!レオニー!!いやーーーー!」

「ちょっと、ごめんね?」

 シロウは手を伸ばした。

「ああ、半分なんだね?大丈夫、きっと良くなるよ、痛かったね。あとちょっとの辛抱だよ」

 手が淡い薄緑の光に包まれる。その光は下へと落ちてゆき、レオニーの胸の辺りに降り注いだ。

「大丈夫、君の獣の部分が君を生かしてくれる。大丈夫だよ」

 光が消えると、レオニーの呼吸は落ち着いていた。

「多分、大丈夫……だと、思います」

「レオニー!レオニー!」

「血を……血を失いすぎているんです。目はしばらく覚めないかも。でも傷は塞がってます」

 シロウはしどろもどろにミシェルに告げる。

「レオニーは!レオニーは助かるのですよね!」

「はい」

 それは大丈夫とシロウは答え、ミシェルは安堵のあまり泣き崩れた。
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