【本編完結】神に捨てられた糸くずの俺は愛される~不幸な物語なんて変えてやるから安心して

鏑木 うりこ

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58 独占欲は強め

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「ねえ、シャト様。最近いいことありました?」
「え……特にはないよ、セイル君」

 産後の体調管理も兼ねてやってきたセイルが変なことを言う。

「なんだか、前よりつやつや?キラキラしてませんか?気のせいかなあ……あ、もうちょっとで結婚式だからですか?おめでとうございます!」
「え?あ、うん……ありがとうございます」

 俺の診察室でそんな話をセイルとする。最近ミュゼルはついてこなくなったけれど、ちょっと前までは絶対部屋の中までくっ付いて来たな。個室でセイルと俺が二人っきりなのは嫌みたいだ……どんだけだ、あいつ。それよりどっちかっていうと気が重いんだけどキラキラしてるっていうかどんよりじゃねえの?セイルって結構とぼけたところがあるからなあ……。

「絶対可愛くなってますよ、うん!」
「やめて、ミュゼルに睨まれちゃう」
「やだなあ!ミュゼルがシャト様を睨むわけないじゃないですかーアハハ!」

 いや、めちゃくちゃ睨むよ……。診察以外じゃセイルに触らないっつーの!でも診察じゃ触るもんだから、嫉妬してんだよ、あいつ。

「あ、でもミュゼルが俺がシャト様と話をしてるとホルランド殿下が滅茶苦茶怖い顔するって言ってたなあ……それと一緒かなあ?」
「いやそんな」
「呼んだ?」

 うわっ!キター!ついでにミュゼルもキター!こいつらどうなってるんだ!!

「セイル、行こう。殿下とシャトルリア様のお邪魔になるよ」

 いや、邪魔なんかじゃないし……。

「あ、うん。そうだね!お二人ともごゆっくり~」

 ごゆっくりってなんだ、ごゆっくりって!俺が否定する前に仲良く手を繋いでミュゼルとセイルは行ってしまった。まあセイルの体調は万全だったから特に申し伝えることもないんだけど、いやでもさあ……。

「シャト。勇者と恋人になる可能性はないとは分かっているが、やはり二人きりというのはどうかと思うんだが」
「そのすぐ開く扉の向こうにはミュゼルがいましたし、二人きりというほどのことでは」

 実際、セイルが部屋に入って来て、ちょっと話をして……それでおしまいだったんだぞ。ほんの数分なのに、何を言ってるんだこの人は。
 それに扉に張り付いて中の様子を窺ってる奴がいるんですよ、ええ、今日は2名ほど。やっぱりおかしいよな?何でそんなに監視したいのか分からん。
 独占欲?そういう類より程度が酷い気がする。そういえばヘンドリクセン兄弟も独占欲が強い。毎日宰相さんはサンドされていて、常に細くなっている気がする。たまに片っ方しかいない時があるけれど、それは宰相さんに何かお願いされた用事を済ませに行っているらしい。

「本当に、本当ーーに有能なんですけれどね」

 愚痴なんだから惚気なんだか分からないものをツラツラと聞かされたなぁと思い出す。

「ええ、我が国的には非常に美味しい取引と言わざるを得ませんよ。シャトルリア様を取られましたが、別に国交を閉じてるわけでもない。むしろ行き来がしやすいように街道を整備したりして楽になってますからね」

 そうなんだ。俺がいなくなるのは嫌だけれど、ホランの見てる前で誰かに会ったりするのは嫌がっていないから、俺に用事があれば向こうから来てくれれば良い。まあホランなりの譲歩なのかも知れないけれど。
 帝国民のこの付き纏いは本当によく分からない。聞けばミュゼルも帝国の血が濃いみたいだから、セイルに付き纏うのはやっぱり帝国民の血のせいなんだと思う。
 俺の前に立ってじっと俺を見ている青い目は優しくていつも真剣で、そして済まなそうだけれども絶対に曲げない信念を感じる。

「ごめんね、心配なんだ。たった扉一枚隔てただけでもシャトの姿が見えないとそのままどこか遠くへ行ってしまいそうで怖いんだ」

 そうして伸びてくる両手。もう何をするか、何をしたいか分かっているから怖いことはない。いつも通り、指の背で頬を撫でてから下から顎を掬いあげて、苦しくない程度に少しだけ上を向かされる。

「シャト……」

 合図のように俺を呼ぶ声。ここ毎日、一回だけキスをする。後は普通でいつも通りなのにこの部屋で毎日キスをしている。ゆっくり近づいてくる顔を見ていつからか目を閉じるようになってしまった。最初は気恥ずかしさがあったからだった気がするけれど、今はなんだかキスをするために目を閉じている気がする。

「あ……」

 軽く唇が触れていたのは一瞬で、すぐに唇が割り開かれぬるりと舌が侵入して来る。

「ん、んあっ……」

 逃げようとしても追いかけ回されて、狭い口腔内じゃ逃げる所なんてないのに。一番最初の軽いふれあいは何だったんだろうと思う位、まるで食べられてしまうかのよう深く吸い上げられて、息ができない。苦しい、空気が頭に回らないからぼーっと霧がかかったような、そんな気持ちになってしまう。
 そして最後に必ず聞かれる。

「嫌じゃないかい?」
「……ん」

 慣らされているのか、確認なのか。その両方なのか。結婚式の日は確実に近くなっている。



 

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