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1 丸くふくふくとした吸血鬼
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銀の月はまあるく、そしてふくふくと。夜空に浮かぶ銀の月。青を纏ってふくふくと。
そのまん丸なお月様のような動く物は言った。
「私の名前はルドガー。ルドガー・ハウンゼン。この地に住み着いてもう300年になる吸血鬼です」
むふっと笑う顔についたぷよんぷよんのお肉がぷるん、と躍る。ふくふく。
「私は争いを好まない質でして。ほら、見えるでしょう?我が家と我が土地をぐるりと囲むように植えられているりんごの木。あそこから先は滅多なことがない限り出ないと約束しよう」
今は春だから白い花をつけた木がこの周りに咲いているのが見えた。ああ、あれは確かにりんごの木だ。
「滅多な事とは?」
私はまんまるの言葉を繰り返す。まんまるはお肉でつぶれた細い目を少しだけ開く……青い目で笑った。
「私が勝てないような勇者が来たり、天変地異が起こってここにいては死んで……ああ、死ぬという表現は相応しくないな、消滅してしまう事案かな?ちなみにここに居を構えてから一度も外には出ていない」
「信用に値する実績だ」
私はまんまるの言葉を信じた……まんまるは嘘をついていないと思う。ツヤツヤでプルプルしたルドガーは人が良さそうに笑うし、この屋敷は庭にまで子供が入り込んで、そんな子供達のためにつけられたようなブランコが3つもある。しかもどれもたくさん使った跡があるし、何度も補修した後もあった。長年子供が出入りしている動かぬ証拠。
「ただね、食べ物は欲しい。人とてそうだとは思うが腹が減れば凶暴になる。吸血鬼も然りだ。だから、毎日食べ物を届けておくれ」
「人間を差し出せというのか?」
「平たく言えばそうだが、安心して欲しい。私に真祖の能力はない。誰かを吸血鬼にすることはできないんだ」
「それも300年間の結果か? 」
「そうだ」
なるほど、この吸血鬼ルドガーの肥具合は腹ペコにならないための過食だったようだ。ルドガーの丸い顔は皆の安心のために丸いんだ。
「血の気の多いやつを2.3人送ってもらう……周りの奴らは知ってる事だから、勝手にやってくれると思う」
「そうなのか」
「うむ。土産目当てでな、毎日たくさん来るぞ」
ならば、問題ない。私は笑ってルドガーに握手を求める。
「では、契約しよう。このハウズ領新領主、エリック・ハウズはこの土地をルドガー・ハウンゼンの物と認め、契約の元幾久しく手を取り合い暮らしてゆくことを」
「よろしく頼むよ、エリック・ハウズ子爵」
こうして契約は交わされ、新領主である私と仲良くやっていけそうだとまん丸ぷくぷくのヘンテコルドガーはにっこり月のように笑ったのだ。
それから私はこのルドガーと仲良くやってきている。
「ルドガー様ぁ、夜ですよー」
「ふわぁ~よく寝たぁ」
吸血鬼らしく、ルドガーは夜に起床する。ルドガーを起こすのはこれまた吸血鬼らしく黒猫だったり、蝙蝠だったりが人の姿に変化した者たち。人型のルドガーに合わせてか人間の姿を模していてメイドのように仕えている。
「ルドガー様、早く顔を洗って。お食事の皆さんが待ってますよー」
「わーい。今日は誰が来てるのー?」
「タムとトムとチムです」
「ありゃあ……こないだも来たよねぇ?あ、お母さんが病気って言ってたっけ」
「そーなんですよー」
じゃばじゃばと顔を洗って、タオルを持って隣に立っていた黒猫メイドに声をかける。それがルドガーの一日の始まりだと教えてもらったことがある。
「洗えた?」
「はいにゃ!今日もお月様みたいにまん丸ですにゃ!」
「むふっ!」
ルドガーは吸血鬼らしく鏡に映らないから自分の顔を見ることはできないのだ。
そのまん丸なお月様のような動く物は言った。
「私の名前はルドガー。ルドガー・ハウンゼン。この地に住み着いてもう300年になる吸血鬼です」
むふっと笑う顔についたぷよんぷよんのお肉がぷるん、と躍る。ふくふく。
「私は争いを好まない質でして。ほら、見えるでしょう?我が家と我が土地をぐるりと囲むように植えられているりんごの木。あそこから先は滅多なことがない限り出ないと約束しよう」
今は春だから白い花をつけた木がこの周りに咲いているのが見えた。ああ、あれは確かにりんごの木だ。
「滅多な事とは?」
私はまんまるの言葉を繰り返す。まんまるはお肉でつぶれた細い目を少しだけ開く……青い目で笑った。
「私が勝てないような勇者が来たり、天変地異が起こってここにいては死んで……ああ、死ぬという表現は相応しくないな、消滅してしまう事案かな?ちなみにここに居を構えてから一度も外には出ていない」
「信用に値する実績だ」
私はまんまるの言葉を信じた……まんまるは嘘をついていないと思う。ツヤツヤでプルプルしたルドガーは人が良さそうに笑うし、この屋敷は庭にまで子供が入り込んで、そんな子供達のためにつけられたようなブランコが3つもある。しかもどれもたくさん使った跡があるし、何度も補修した後もあった。長年子供が出入りしている動かぬ証拠。
「ただね、食べ物は欲しい。人とてそうだとは思うが腹が減れば凶暴になる。吸血鬼も然りだ。だから、毎日食べ物を届けておくれ」
「人間を差し出せというのか?」
「平たく言えばそうだが、安心して欲しい。私に真祖の能力はない。誰かを吸血鬼にすることはできないんだ」
「それも300年間の結果か? 」
「そうだ」
なるほど、この吸血鬼ルドガーの肥具合は腹ペコにならないための過食だったようだ。ルドガーの丸い顔は皆の安心のために丸いんだ。
「血の気の多いやつを2.3人送ってもらう……周りの奴らは知ってる事だから、勝手にやってくれると思う」
「そうなのか」
「うむ。土産目当てでな、毎日たくさん来るぞ」
ならば、問題ない。私は笑ってルドガーに握手を求める。
「では、契約しよう。このハウズ領新領主、エリック・ハウズはこの土地をルドガー・ハウンゼンの物と認め、契約の元幾久しく手を取り合い暮らしてゆくことを」
「よろしく頼むよ、エリック・ハウズ子爵」
こうして契約は交わされ、新領主である私と仲良くやっていけそうだとまん丸ぷくぷくのヘンテコルドガーはにっこり月のように笑ったのだ。
それから私はこのルドガーと仲良くやってきている。
「ルドガー様ぁ、夜ですよー」
「ふわぁ~よく寝たぁ」
吸血鬼らしく、ルドガーは夜に起床する。ルドガーを起こすのはこれまた吸血鬼らしく黒猫だったり、蝙蝠だったりが人の姿に変化した者たち。人型のルドガーに合わせてか人間の姿を模していてメイドのように仕えている。
「ルドガー様、早く顔を洗って。お食事の皆さんが待ってますよー」
「わーい。今日は誰が来てるのー?」
「タムとトムとチムです」
「ありゃあ……こないだも来たよねぇ?あ、お母さんが病気って言ってたっけ」
「そーなんですよー」
じゃばじゃばと顔を洗って、タオルを持って隣に立っていた黒猫メイドに声をかける。それがルドガーの一日の始まりだと教えてもらったことがある。
「洗えた?」
「はいにゃ!今日もお月様みたいにまん丸ですにゃ!」
「むふっ!」
ルドガーは吸血鬼らしく鏡に映らないから自分の顔を見ることはできないのだ。
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