【完結】月とふくふく吸血鬼。囚われの優しいあなたが帰る場所

鏑木 うりこ

文字の大きさ
23 / 31

23 勇者の力

しおりを挟む
「つまり、エセルはオーリに一目惚れして、一緒について行きたくて隷属を受け入れたってことかな」
「ち、違う!無理やり捕まったの。べ、別に兄さんと同じ顔で僕のこと叱ってくれたのにゾクゾク来たわけじゃないよ!」

 はぁ……聞いてないけど。嬉しそうに一生懸命否定するエセルを見るのは久しぶりだ。

「そうなのか?エセル」
「ち、違うよ!兄さんは優しすぎてちょっと物足りないな~とか思ってなかったし、強くってかっこいいし、やっぱり僕を叱り飛ばせるオーリはやっぱりかっこいいなあとか、僕、意外と意地悪されるの好きだなあとか、全然そんなことない!」

 そうだったんだ……全然知らなかった。

「……エセルは私のことが好きなのか?」
「はぁ?嫌いな奴と一緒になんていたくないし!あと、兄さんと同じ顔はやっぱり好きだしさあ……ちょっと乱暴に名前とか呼ばれるとゾクゾク来ちゃうとかそんなことないし!」
「エセル、答えろ」
「あああん……好きィ……抱いてぇ!! 」

 ……えー……。緊張が全部どこかに吹っ飛んで行ってしまった……なんだったの……。ひっくり返りたい気分だったけれど、こうちゃんとにゃんこちゃんがワンワン泣きだしてしまったのでそれどころじゃなかった。

「あーん!良かったあ良かったあ、折角ルドガーさまに大事なものが出来たのに、ルドガーさまが死んじゃうかと思ったー」
「よかったあああ~あーん!」
「わわわわ……!」

 泣き出す二人の元に緊急事態を聞きつけて子供達が走ってきた。

「にゃんこちゃん、こうちゃんどこかいたいいたい?」
「撫でてあげるだいじょうぶ?」
「にゃーにゃ、こーちゃ、いたい?」
「えんえんしちゃ?」
「ぶぷー?」

 5人の子供達の登場に流石のこれにはエセルも驚いている。

「……本当にルドガーそっくりだ……ちょっとどうやったか詳しく教えてくれない?」
「……サキュバスの核のせいだよ、エセル。大体お前が悪い!」
「え~何のことかなあ?」

 私は、きっと300年とちょっとぶりにエセルに反撃できる。虎の威を借る?そりゃ借りるでしょうよ。

「……エセル。オーリに言いつけるからね」
「ぴぎゃっ!」
「あは、あはは!あははは!ルドガーはいい奴だな!気に入った仲良くしよう」

 オーリは本当にいい奴で、勇者と呼ばれるだけある人格者だった。

「うーん、間違いなくルドガーは吸血鬼だし、子供達も半吸血鬼だ。でもここまでくる間に君たちの人となりを聞くことができてね。倒す必要なんてないって再確認したんだ。エセルの話だけでも馬鹿みたいにお人好しの兄さんだって気が付いたし」
「馬鹿は余計です、オーリ」
「つい!その代わりといっては何だけれど、エセルのことは任せて欲しい。悪い方向に力は使わせないよ、私の仕事を手伝ってもらうし、エセルに刻んだ隷属は生涯切れない。私が死ぬと同時にエセルも消滅する、そういうきつい契約を結んだ」
「ええっ!?そんなことできるのか」
「真祖吸血鬼を放置なんて怖い事しちゃいけないだろう?」
「うむ、そうだぞ」

 エセル、それはお前が言う事か?エセルはずーっとオーリの膝の上に乗ってときたまオーリの指を甘噛みしたりして甘え続けている……本気で、本当にオーリのことが好きで好きで堪らないんだ。だからそんなにきつい隷属も抵抗なしに受け入れちゃったんだ。

「良いのか、オーリ。エセルのこと任せちゃって……エセルはなんかちょっと気持ちが悪い変なことをするよ」
「大丈夫だ。そんなときは思いっきり叱ってきたから。もう慣れたよ」

 ……エセルに足りなかったものは叱ってくれる誰かだったのか。私はエセルに逆らえないから、叱ることなんてできなかったな。

「オーリ、エセルのことよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ」
「……悪かったね、兄さん。いろいろ……もう戻せないものとかいっぱいあるけれど、これから僕は兄さんの生き方に口出ししない……できないが正解かな?」
「……うん」

 こうして私はずっと受け続けていたエセルの支配下から抜け出した。変わったことはよくわからなかったけれど。

「……よいしょ……あ、出れた」
「わああい!凄いです、ルドガーさま!」

 とうとう境目に植えているりんごの木を超えて、屋敷の敷地から外に出ることができるようになったのだ。

「……ふふ、でも内緒にしておうかな?吸血鬼が自由に出歩けるようになったら怖がる人がいるかもしれない」
「そういうものですかねえ?」
「そういうものだよ」

 オーリとエセルにレオンとホークも紹介した。

「ルドガーちゃんの方が色気がある。俺はルドガーちゃんの方が好きだぁこれが人妻ってやつだな!」
「黙って、ホーク」
「私は別に色気は要らないので」
「オーリも真面目に取りあわないで」

 ホークはそう言っていたけれど、レオンは首を傾げていた。

「色は似てるけど、全然似てないじゃないか。ルドガーは可愛いけど、オーリはかっこいい感じだろう?流石勇者だよな」
「やっぱり似てないって。私はオーリみたいにかっこよくないからね」

 なんだか皆に変な目で見られたけれど、私は本当にオーリみたいにかっこよくないってば!

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...