猫鍛冶屋(にゃんスミス)の猫武器(にゃんアームズ)なしの快適異世界生活

鏑木 うりこ

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4 トラックからの~最高かよ

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「不思議だったんですが、土日以外の日は下村さんはどうやって猫成分を補給してたんですか?」
「ゲームですね。猫が出てくるゲームやってました……ほら、狩人と猫が一緒に武器とか作る奴」
「あー! スマホゲームの。あれって武器を作るのがメインでしたっけ?」
「猫と一緒に鍛冶屋できるんですよー可愛くてねぇ!」
「なるほど、人によってはゲームの楽しみ方も色々ですもんね」

 確かにそんな話をしたことはあったと思う。平日に猫成分不足の俺はゲームの猫くらいでしか摂取できないんだからしょうがない。

「あーあ、一日中猫と一緒にいたいなー。鍛冶屋が羨ましいぜ、俺も猫と鍛冶屋やりたい」
「にゃっ」
「そん時の相棒はやっぱりとんかちかなぁ? とんかちとの生活、最高だろうなー」
「にゃっ!」

 とんかちもそばにいてずっと撫で回していた気がする。
 事件が起こったのは俺が転職を決めた後、三回目の閉店間際の猫カフェだった。その日もおはようからお休みまでカフェに入り浸っていた俺が店員さんと猫達に見送られて終わるはずだった。

「と、とんかちっが! 下村さんっとんかちを止めてっ」
「とんかちっ! 駄目だ、戻れっ」

 俺が店を出る瞬間だった。いつもは大人しく俺が出ていくのを見送ってくれるとんかちがドアの隙をついて外に飛び出した。

「とんかちっ!」

 店の前はそうでもない小道だが、少し進めば幹線道路にぶち当たる。

「とんかち! くそっ」

 俺はとんかちのグレーの体を追いかけて走り出た。そっちはまずい、止まってくれ、とんかちっ!俺の願いはとんかちに届かない。

「駄目だっ! 危ないとんかち、戻れっ」
「にゃーーっ」

 運動不足でガタガタな足を懸命に動かして、ゴキゴキ鳴る肩の俺が何とか追いついて、とんかちのしなやかな体を抱き上げた時はもう遅かった。

「うわぁーーっ!」

 真っ暗な中で飛び出した俺を大型トラックの運転手は避け切ることなんてできなかったんだ。

 俺ととんかちはトラックに轢かれて即死だった……。



「んだよなー」
「そうだぞ、アキラ」
「とんかちぃ~! どうしてあんなことしたんだあっ!」
「いたたっ! やめろにゃ、アキラ! ヒゲを引っ張るのはマナー違反だにゃ!」

 俺はよく分からん世界でとんかちと暮らし始めていた。これって最高では??

「だからにゃ? アキラがあのままじゃあとちょっとで死んじゃうってわかったんだにゃ」
「えっ! 分かるもんなの?」
「分かるにゃ。特にユキは猫巫女だから絶対10日以内に死ぬっていってたにゃ」
「ユキちゃんが猫巫女?! 詳しく教えてくれ!」
「自分の寿命よりユキの職業の方が気になるのかにゃぁ……これだからアキラは」
「いいからいいから!」

 猫巫女は猫神様に仕える神聖な職業らしくてユキちゃん担の女性もどこかの神社の血統を継ぐ巫女の素質がある人だったらしい。だから気が合ってたのかー。

「アキラが死んだら皆悲しいだろう?」
「えっ! 猫達、皆悲しんでくれるの?!」
「当たり前だにゃ!」
「う、嬉しい……俺、もう死んでもいい」
「死ぬなにゃ……せっかく別の世界にこれたのに」

 俺ととんかちは剣とか魔法とかのあるゲームみたいな異世界に来ていたのだ。
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