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5 羽根があれば飛んでくるのかしら?
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「ま、待ってアレックス。私がリオネル様の所に行ける訳ないでしょう? 私がリオネル様にお会いしたのはもうかなり前よ。それにリオネル様にだって婚約者の方はいらっしゃるだろうし……」
アレックスの話に少し浮かれかけたが、リオネル様は立派は貴族の子息。隣国、カラカス侯爵家の三男たのだから当然家柄の釣り合いが取れた婚約者のご令嬢がいらっしゃるはずだ。そんな方の元に私がいって良いはずがない。
私は多分がっかりした顔でそういってしまったのだろう。一瞬でもあり得ない素晴らしい提案に夢見てしまったんだ。それなのにアレックスは笑顔の上に笑顔を重ねた。
「リオネル坊っちゃまに婚約者はおられませんよ。何せ三男です、カラカス侯爵家の財産はほとんど継げませんから、ご令嬢達からは相手にされておりませんでした」
笑いながらいうアレックスに私は心底驚いた。あの優しくて知的なリオネル様が相手にされないなんて有り得ない話だったから。
「まあ! なんて見る目がない方ばかりなのかしら」
「やはりパトリシア様は素晴らしいお方だ。流石坊っちゃまの選んだ方です」
「えっ……と、ありがとう、なのかしら?」
褒められたようだけれど、疑問がたくさん残ってしまい素直に喜べなかった。それでもアレックスは半ば強引に私に荷物をまとめるようにいってきた。
「私も業務の引き継ぎをして参ります。きっと2.3日中には迎えが来ますので」
「えっそんなに早いの?」
「リオネル坊っちゃまに羽根があれば飛んでくるでしょうな」
まさかそんな、とは思ったけれどアレックスが嘘をついているようにも見えない。
「……それなら……私も書類を書かなくては。あの人達にやられっぱなしっていうのも何だか悔しいもの」
「ほう! それはようございますな。私もお手伝い致します」
「ふふ、ありがとう」
執事として私を支えてくれたアレックスとステンの人柄は信じるに値する。そんな人達が是非といってくれるのだ、私はこの提案にありがたく乗せてもらうことにした。次の日にはステンが満面の笑みで私とアレックスの元に駆け寄ってくる。
「パトリシアお嬢様! リオネル様の所に伝書鳩を飛ばしましたらすぐにお返事が来ましたよ。鳩より早く迎えに行きたい、だそうです」
「あら? リオネル様にはやっぱり羽根があるのかしら?」
「あはは! 生やして飛んでくるかもしれませんよー?!」
ステンが飛ぶ鳥の物真似をしてみせるのが
可笑しくてつい笑ってしまう。
「お嬢様、元気になりましたね」
「そうね、ここ数年家のことで顔をしかめて生きてきた……それから解放されたんですもの、清々しい気分だわ」
「それはようございました」
きっとダニエル様から婚約破棄を言い渡されなかったらいまでも眉間に皺を寄せて赤字だらけの書類と睨めっこをしていただろう。そう考えるとダニエル様に感謝をしなくてはならないのかしら?
「ステン。リオネル坊っちゃまに返信を書いてくれ。お嬢様をお迎えに上がるのは4日後にして欲しいと」
「何かあるんですね? アレックスさん」
そうだった。私が考えついたアレックスにあの人達が後悔する作戦を教えたんだった。
「もちろん。あいつらは痛い目を見た方がいい。パトリシア様をあれだけいたぶって何もないなんて失礼しますにも程があるからな」
「そうですね! すぐに手紙を書いて鳩を飛ばしますー!」
ステンは挨拶もそこそこにまた走って消えた。早いのは良いけれど、廊下を走っては駄目だと思うわ。
でもそんなステンの後ろ姿も微笑んで見送れる心の余裕ができたことは事実だった。
アレックスの話に少し浮かれかけたが、リオネル様は立派は貴族の子息。隣国、カラカス侯爵家の三男たのだから当然家柄の釣り合いが取れた婚約者のご令嬢がいらっしゃるはずだ。そんな方の元に私がいって良いはずがない。
私は多分がっかりした顔でそういってしまったのだろう。一瞬でもあり得ない素晴らしい提案に夢見てしまったんだ。それなのにアレックスは笑顔の上に笑顔を重ねた。
「リオネル坊っちゃまに婚約者はおられませんよ。何せ三男です、カラカス侯爵家の財産はほとんど継げませんから、ご令嬢達からは相手にされておりませんでした」
笑いながらいうアレックスに私は心底驚いた。あの優しくて知的なリオネル様が相手にされないなんて有り得ない話だったから。
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「やはりパトリシア様は素晴らしいお方だ。流石坊っちゃまの選んだ方です」
「えっ……と、ありがとう、なのかしら?」
褒められたようだけれど、疑問がたくさん残ってしまい素直に喜べなかった。それでもアレックスは半ば強引に私に荷物をまとめるようにいってきた。
「私も業務の引き継ぎをして参ります。きっと2.3日中には迎えが来ますので」
「えっそんなに早いの?」
「リオネル坊っちゃまに羽根があれば飛んでくるでしょうな」
まさかそんな、とは思ったけれどアレックスが嘘をついているようにも見えない。
「……それなら……私も書類を書かなくては。あの人達にやられっぱなしっていうのも何だか悔しいもの」
「ほう! それはようございますな。私もお手伝い致します」
「ふふ、ありがとう」
執事として私を支えてくれたアレックスとステンの人柄は信じるに値する。そんな人達が是非といってくれるのだ、私はこの提案にありがたく乗せてもらうことにした。次の日にはステンが満面の笑みで私とアレックスの元に駆け寄ってくる。
「パトリシアお嬢様! リオネル様の所に伝書鳩を飛ばしましたらすぐにお返事が来ましたよ。鳩より早く迎えに行きたい、だそうです」
「あら? リオネル様にはやっぱり羽根があるのかしら?」
「あはは! 生やして飛んでくるかもしれませんよー?!」
ステンが飛ぶ鳥の物真似をしてみせるのが
可笑しくてつい笑ってしまう。
「お嬢様、元気になりましたね」
「そうね、ここ数年家のことで顔をしかめて生きてきた……それから解放されたんですもの、清々しい気分だわ」
「それはようございました」
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