子爵令嬢は溺愛前に罠を仕掛ける。

鏑木 うりこ

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9 デート?

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 私の住んでいた国からリオネル様の国へ移動する際に通る関所のうちで、リオネル様が選択したのはハンベルという賑やかな街だった。
 この街は街の中に国境が通過していて、どちらの国にも属し、どちらの国にも属していない中間地帯が設けられている。つまりは国境を越える際の待ち時間を快適に過ごせるようにカフェや遊技場、レストランや宿屋も立ち並んでいる。

「ハンベルが楽し過ぎてこの中間地帯を目的に遊びに来る人達も大勢いるらしいね」
「そうなんですね」
「それにパトリシア嬢は貴族から平民に身分が変わったばかり。多分、出国手続きに時間がかかるだろう。少しのんびりすればいいよ」
「ありがとうございます」

 リオネル様の言われた通り、少し待たされることになりそうだった。関所に手続きに行くと、確認に時間が欲しいと言われてしまったのだ。

「書類は問題ありません。お嬢さんの身分も今は平民ですから、出国も問題ありませんが規則ですので」
「わかってるよ、確認が取れたら宿へ連絡をくれるかい?」
「了解いたしました」

 この街では良くある事例らしく、関所の係官も手慣れた様子で承ってくれた。

「パトリシア嬢、そういう訳だから今日は私とデートだね」
「デ、デート……!」

 私、デートなんてしたことありません!

「あ、あの……私、何をしたら」

 気がついた時には家が傾きかけていたから余暇を楽しむ暇なんてなかったし、買い物も最低限だった……そんな私がデートなんて。
 私が戸惑っていると、リオネル様は小さく笑ってる手を差し出してくれた。

「実は私もよく分からないんだ。アレックスが手配してくれたプランなんだけど、私も女性とデートなんてしたことなかったから……」
「まあ……リオネル様もですか?」
「パトリシアも初めてかい? そりゃ初めて同士楽しもうと」
「……はい!」

 何をしたら良いか分からないけれど、リオネル様となら何をしても楽しそうだ。

「まずアレックスによると、街歩きに便利な服を買うと良いらしいよ」
「えっも、申し訳ありませんが、私……その手持ちが」

 持っていた現金のほとんどを返済に使ってしまった。これから叔母様の家に着くまでの路銀も残しておかねばならない……無駄遣いは厳禁なんだ。

「アレックスのメモによると、私が私好みの服を買ってパトリシア嬢に着てもらうんだ。とても楽しみなんだが、だめだろうか?」
「そ、そんな申し訳ないです」
「……駄目、なのかい?」 
「えっと……」

 私よりずっと背も高くしっかりとした男性であるリオネル様が寂しそうに眉を下げて尋ねてくるのを無碍にすることなんてできずに、小さな声で了承するしかなかった。

「あ、あの……何も分かっていない不束者ですが、よろしくお願い致します……」
「勿論だとも!」

 


 
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