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10 大切にされているのでしょうか
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「このワンピースはどうだろう? 栗色の髪のパトリシア嬢には水色のワンピースが似合うと思うのだけれど」
「わ、私も……そちらの方が、好みです」
「そうか! 私もこれを着てもらいたいって思ったんだ。マダム、このワンピースとこれに合う帽子と歩きやすい靴を合わせて。あとバッグも欲しいな」
「リ、リオネル様……! 買い過ぎです」
「そ、そうかな……?」
アレックスが指定してくれたお店はこじんまりとしていたけれど、並んでいるお洋服はドレスからカジュアルまで色々あった……そしてどれもこれも私の好みにぴったりだったのは驚いた。
「長い間、パトリシアお嬢様の傍にいさせていただきましたからね。お嬢様の好みは把握しておりますよ」
「そ、そうだったの……」
派手過ぎず、凝り過ぎず。それでいて着心地が良いなんて本当に嬉しい。もし私がお金持ちならいっぺんに何着も買ってしまいそうなほど気に入ってしまった。
「ついでに向こうに見える若草色の縞のワンピースと、あちら側の薄紫のも……」
「リオネル様!? 一日でそんなに服は着れませんよ」
「どれもパトリシア嬢に似合いそうなので、明日か明後日か……その後でもいいので着てもらえたらと」
そこまでたくさん買っていただく訳にはいかないので、辞退したけれど、店を出た時の荷物はだいぶ多かった……本当に買わなかったんですよね……? どこからともなく現れたアレックスがたくさんの箱を持っているけれど、本当に服や帽子が入っている訳ではないのよね……?
「ね、ねえ。アレックス。その箱の中身は……」
「ほほほ、私には分かりかねますなぁ」
「アレックス!?」
笑いながら荷物を持ち去ってしまった……ど、どうしたらいいのかしら……。
「パトリシア嬢? 宜しければ次へ行きたいのですがいいでしょうか?」
「え……あ、はい」
ああいう曖昧な笑いをする時のアレックスはのらりくらりと話の真実を躱すことが多いから今聞いても無駄だろう。もっと落ち着いた場所で問い詰めないと。
「どうやら温室があって、植物園があるようなのです。そこへ行ってはどうかと、アレックスの計画書に書かれていました」
「植物園ですか? 見てみたいです」
私が消えゆくアレックスの後ろ姿を見送っていると、リオネル様が声をかけてきてくださった。そうだ、今はアレックスよりリオネル様の方が大切だ。もう戻らないと決めたレーゼン家の庭は最低限の手入れしかしていなくて、手間のかからない木が何本かあるだけだった。いつもきれいな花でもあれば少しは気がまぎれるんじゃないかな、なんて思っていたから植物園には興味がある。
「では行こう」
「……はい」
差し出された手にすこし驚いた。こうやって男性に手を差し出して貰ったことは暫くなかったから……ついこの前まで婚約者だったダニエル様はこんな紳士的なことをしてくれたことはなかった。たったこれだけのことで自分は大切にされているんだと思ってしまう……嬉しくて涙がでそうだった。
「わ、私も……そちらの方が、好みです」
「そうか! 私もこれを着てもらいたいって思ったんだ。マダム、このワンピースとこれに合う帽子と歩きやすい靴を合わせて。あとバッグも欲しいな」
「リ、リオネル様……! 買い過ぎです」
「そ、そうかな……?」
アレックスが指定してくれたお店はこじんまりとしていたけれど、並んでいるお洋服はドレスからカジュアルまで色々あった……そしてどれもこれも私の好みにぴったりだったのは驚いた。
「長い間、パトリシアお嬢様の傍にいさせていただきましたからね。お嬢様の好みは把握しておりますよ」
「そ、そうだったの……」
派手過ぎず、凝り過ぎず。それでいて着心地が良いなんて本当に嬉しい。もし私がお金持ちならいっぺんに何着も買ってしまいそうなほど気に入ってしまった。
「ついでに向こうに見える若草色の縞のワンピースと、あちら側の薄紫のも……」
「リオネル様!? 一日でそんなに服は着れませんよ」
「どれもパトリシア嬢に似合いそうなので、明日か明後日か……その後でもいいので着てもらえたらと」
そこまでたくさん買っていただく訳にはいかないので、辞退したけれど、店を出た時の荷物はだいぶ多かった……本当に買わなかったんですよね……? どこからともなく現れたアレックスがたくさんの箱を持っているけれど、本当に服や帽子が入っている訳ではないのよね……?
「ね、ねえ。アレックス。その箱の中身は……」
「ほほほ、私には分かりかねますなぁ」
「アレックス!?」
笑いながら荷物を持ち去ってしまった……ど、どうしたらいいのかしら……。
「パトリシア嬢? 宜しければ次へ行きたいのですがいいでしょうか?」
「え……あ、はい」
ああいう曖昧な笑いをする時のアレックスはのらりくらりと話の真実を躱すことが多いから今聞いても無駄だろう。もっと落ち着いた場所で問い詰めないと。
「どうやら温室があって、植物園があるようなのです。そこへ行ってはどうかと、アレックスの計画書に書かれていました」
「植物園ですか? 見てみたいです」
私が消えゆくアレックスの後ろ姿を見送っていると、リオネル様が声をかけてきてくださった。そうだ、今はアレックスよりリオネル様の方が大切だ。もう戻らないと決めたレーゼン家の庭は最低限の手入れしかしていなくて、手間のかからない木が何本かあるだけだった。いつもきれいな花でもあれば少しは気がまぎれるんじゃないかな、なんて思っていたから植物園には興味がある。
「では行こう」
「……はい」
差し出された手にすこし驚いた。こうやって男性に手を差し出して貰ったことは暫くなかったから……ついこの前まで婚約者だったダニエル様はこんな紳士的なことをしてくれたことはなかった。たったこれだけのことで自分は大切にされているんだと思ってしまう……嬉しくて涙がでそうだった。
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