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13 人聞きの悪いことを大声で叫ばないで下さい。
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「静かにしなさい。他の宿泊客の迷惑になっていますよ。警邏の者を呼ばれたくなければ大声を出すのはやめることです」
「うるさいわねっ……一体誰なの! 私は貴族なのよ」
「貴族のすることとは思えませんね。嘆かわしい」
リオネル様が最初にサリーさんに声をかけると何とも高慢な返事が返ってきた。確かにレーゼン家は貴族の家だったけれど、子爵でありギリギリ貴族の体面を保っていただけの家なのに。
「お母様! この人、お姉様を連れて行ったかっこいい人よ! ご機嫌麗しゅう、素敵な方」
この張り詰めた空間でまったく空気が読めないユリシアがリオネル様に走り寄ってきた。そのまま腕に縋りつきそうな勢いだったのをアレックスがさっと間に割って入った。
「んもうっ何よ、アレックス。邪魔、どいて~。私は素敵なリリオ様……リロル様だっけ……? とお友達になるんだから」
「どきませんし、お友達にはなれません。不敬です」
「まっ執事の癖に私に逆らうなんてクビにしちゃうんだからね!」
「私はあなたの家の執事ではございませんし、あなたに私をクビにできる権限はございません。お下がりくださいそしてお帰り下さい」
「な、なまいきぃ~~! 執事のくせに!」
ユリシアは基本的に人の話を聞かない。聞かないからリオネル様の名前もうろ覚えのままなんだろう。まあ、覚えていても後々厄介になるだろうから、このままでいいのかもしれない。
「パトリシア! やっと出てきたわね。あなた、うちのお金を全部持ち逃げしたわね! さっさと返しなさい」
サリーさんが唾を飛ばしながら叫んでいる。なんて人聞きの悪いことをいうんだろう。
「私は家のお金は持ち出してなんかいませんよ。何にいくら払ってどうなったか、きちんと詳細を書類にまとめて置いてきました」
「嘘をつかないで! じゃあどうして買い物ができなくなったのよ! 馬車を呼ぼうとしてもこないし、店に入っても金はあるのかってうるさいし、手形で払うっていっても断られるし!」
「あらまあ」
それはそうだろう。新規でレーゼン家の手形を発行してくれる銀行なんてないし、ツケ払いを了承してくれる店もなくなっているはずだ。
「なんでよ!」
「さあ……詳しいことは分かりませんが、お店や銀行には借金を払うついでに私はレーゼン家から抜けることしかお話していませんよ」
「じゃあどうして銀行は手形を発行してくれないし、店はツケ払いを認めてくれないのよ!」
私は平静な顔で聞き流したけれど、リオネル様は小さく吹き出していた。
「パトリシア嬢がいなくなったら、絶対に払って貰えないって思われたんだろうね……なんて信用のない人達なんだ」
「なっ!」
サリーさんは信じられないという顔をしたけれど、リオネル様の予想通りだ。今までの支払いをする際に銀行の貸付係や、商店街の会長から確認されたのだ。
「パトリシア様がレーゼン家からお離れになるということは、今後あの家はあの女達が仕切るということですか?」
「ええ。私はもうこの国に戻ってこないつもりです。ですから、あの人達が作った借金の取り立てにこられても追い返すことになります、今までとは違います」
「そ、そうですか。分かりました。各部署に通達しておきます」
お金にうるさい商人や銀行には数日のうちにすぐさま話は回ったことだろう。サリーさんとユリシアがくだらない散財をしてもレーゼン家としての借金ならば、私が最終的には支払うと思っていた人達……物を売らないでと頼んでも、貴族様に立てつけません、などといって商品をどんどん渡していた。そんな尻拭いはもうしたくない。
「うるさいわねっ……一体誰なの! 私は貴族なのよ」
「貴族のすることとは思えませんね。嘆かわしい」
リオネル様が最初にサリーさんに声をかけると何とも高慢な返事が返ってきた。確かにレーゼン家は貴族の家だったけれど、子爵でありギリギリ貴族の体面を保っていただけの家なのに。
「お母様! この人、お姉様を連れて行ったかっこいい人よ! ご機嫌麗しゅう、素敵な方」
この張り詰めた空間でまったく空気が読めないユリシアがリオネル様に走り寄ってきた。そのまま腕に縋りつきそうな勢いだったのをアレックスがさっと間に割って入った。
「んもうっ何よ、アレックス。邪魔、どいて~。私は素敵なリリオ様……リロル様だっけ……? とお友達になるんだから」
「どきませんし、お友達にはなれません。不敬です」
「まっ執事の癖に私に逆らうなんてクビにしちゃうんだからね!」
「私はあなたの家の執事ではございませんし、あなたに私をクビにできる権限はございません。お下がりくださいそしてお帰り下さい」
「な、なまいきぃ~~! 執事のくせに!」
ユリシアは基本的に人の話を聞かない。聞かないからリオネル様の名前もうろ覚えのままなんだろう。まあ、覚えていても後々厄介になるだろうから、このままでいいのかもしれない。
「パトリシア! やっと出てきたわね。あなた、うちのお金を全部持ち逃げしたわね! さっさと返しなさい」
サリーさんが唾を飛ばしながら叫んでいる。なんて人聞きの悪いことをいうんだろう。
「私は家のお金は持ち出してなんかいませんよ。何にいくら払ってどうなったか、きちんと詳細を書類にまとめて置いてきました」
「嘘をつかないで! じゃあどうして買い物ができなくなったのよ! 馬車を呼ぼうとしてもこないし、店に入っても金はあるのかってうるさいし、手形で払うっていっても断られるし!」
「あらまあ」
それはそうだろう。新規でレーゼン家の手形を発行してくれる銀行なんてないし、ツケ払いを了承してくれる店もなくなっているはずだ。
「なんでよ!」
「さあ……詳しいことは分かりませんが、お店や銀行には借金を払うついでに私はレーゼン家から抜けることしかお話していませんよ」
「じゃあどうして銀行は手形を発行してくれないし、店はツケ払いを認めてくれないのよ!」
私は平静な顔で聞き流したけれど、リオネル様は小さく吹き出していた。
「パトリシア嬢がいなくなったら、絶対に払って貰えないって思われたんだろうね……なんて信用のない人達なんだ」
「なっ!」
サリーさんは信じられないという顔をしたけれど、リオネル様の予想通りだ。今までの支払いをする際に銀行の貸付係や、商店街の会長から確認されたのだ。
「パトリシア様がレーゼン家からお離れになるということは、今後あの家はあの女達が仕切るということですか?」
「ええ。私はもうこの国に戻ってこないつもりです。ですから、あの人達が作った借金の取り立てにこられても追い返すことになります、今までとは違います」
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