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17 ひまわりに話しかけているような
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「どうして、私の当主届が不受理なの~~!」
「……それはユリシアが出した届けは、お父様……現当主の長年の不在による所の当主変更だから、です」
「そうよ~何も間違ってないわ!」
頬を膨らませて叫ぶユリシアだけれど、決定的なミスがあることに気が付いていないようだ。
「あの書類は、現当主が10年間見つからない場合に使う書類です……あなた達は少し前……ええ、記入日を見ると10日前に出された物でした」
「それくらい前に出したかしら……?でもあの人がいなくなって10年くらい経ってるじゃない」
サリーさんが記憶を辿りながら思い出しているようだけれど……そう、それでは駄目なんだ。
「10年くらい、そんな曖昧ではこの国の法務省が通してくれるわけないんです。今の大臣は厳しいと有名ですし。お父様がいなくなったのは10年くらい前……そして失踪届を出したのがその後……まあいうならば明日で届を出してからちょうど10年となりますね。ですから、10年たっていないのに、変更届を出しても不受理で返されているんです。私が使っていた執務机の上に見えるように置いておきましたけれど、確認はされていないのですか?」
「書類……? 私、見てないわ。お姉様の執務机の上には確かいっぱい書類があったけど、お金を探す時に全部床に散らかしちゃったわよねえ、お母様?」
「ふんっ、書類なんていつも通りパトリシアが片付ければいいんだしね」
いえ、もう片付けませんけれど……。
「そういう訳で、ユリシアは当主を継げていないんです。クロムウェル伯爵にお父様の失踪時期について、適当なことをいったのではありませんか? もうとっくに10年以上たっていると。失踪届を出してから10年ということをすっかり忘れて……。ユリシアの出した当主変更届が、今日以降のものだったらなんの問題もなく当主変更出来ていたでしょうね」
「そ、そうなのか!? レーゼン夫人」
「え? そ、そう~だった……かしら? ね、ねえ? ユリシアどうだったっけ?」
「私は知らないわよ~お母様。お姉様がそういうんならそうなんじゃないかしら~? でもぉ今日でいいなら今日出せば問題ないってことでしょ? お姉様、書類を書いてくださいな」
ユリシアがさも当然というように言い放った言葉に、私だけではなくリオネル様も度肝を抜かれている。
「パ……パトリシア嬢? あそこにいる君の元義妹は一体何をいっているんだい? 私は理解できないよ」
「お見苦しいものを……しかし、私も理解できないので説明はできないのです、申し訳ございません」
「パトリシア嬢……本当に大変だったんだね。これからはそんな苦労はさせないからね」
本当ですね、人間に話しているはずなのに、庭に立っているヒマワリに話しかけるより話を聞いて貰えている気がしないんですから、私だって疲れてしまいます。こんな苦労はもうしたくないですね。
「ユリシアさん。何度も言いますが、私はもうレーゼン家の人間ではありません。ですから、レーゼン家に関わる書類に手を付けることはありません」
「えー? そうなの~? じゃあダニエル様、お願いしますわ」
「え? 私……? 書類なんて書いたことないぞ、家に帰って執事にでもやらせればいいだろう」
「わーい、それでお願いします~」
どうやら話がまとまってきているようだから、あえて口は閉ざしておく。私が除籍届けを出したことでレーゼン家は消滅してしまった。消滅した家門の当主変更届を出した所で、何も得られるものなんてないと思うけれど。そのことにリオネル様も、アレックスも気が付いている。けれど、二人とも口の端を笑みの形に固定して笑顔を作りながら知らんぷりしていた。
「……それはユリシアが出した届けは、お父様……現当主の長年の不在による所の当主変更だから、です」
「そうよ~何も間違ってないわ!」
頬を膨らませて叫ぶユリシアだけれど、決定的なミスがあることに気が付いていないようだ。
「あの書類は、現当主が10年間見つからない場合に使う書類です……あなた達は少し前……ええ、記入日を見ると10日前に出された物でした」
「それくらい前に出したかしら……?でもあの人がいなくなって10年くらい経ってるじゃない」
サリーさんが記憶を辿りながら思い出しているようだけれど……そう、それでは駄目なんだ。
「10年くらい、そんな曖昧ではこの国の法務省が通してくれるわけないんです。今の大臣は厳しいと有名ですし。お父様がいなくなったのは10年くらい前……そして失踪届を出したのがその後……まあいうならば明日で届を出してからちょうど10年となりますね。ですから、10年たっていないのに、変更届を出しても不受理で返されているんです。私が使っていた執務机の上に見えるように置いておきましたけれど、確認はされていないのですか?」
「書類……? 私、見てないわ。お姉様の執務机の上には確かいっぱい書類があったけど、お金を探す時に全部床に散らかしちゃったわよねえ、お母様?」
「ふんっ、書類なんていつも通りパトリシアが片付ければいいんだしね」
いえ、もう片付けませんけれど……。
「そういう訳で、ユリシアは当主を継げていないんです。クロムウェル伯爵にお父様の失踪時期について、適当なことをいったのではありませんか? もうとっくに10年以上たっていると。失踪届を出してから10年ということをすっかり忘れて……。ユリシアの出した当主変更届が、今日以降のものだったらなんの問題もなく当主変更出来ていたでしょうね」
「そ、そうなのか!? レーゼン夫人」
「え? そ、そう~だった……かしら? ね、ねえ? ユリシアどうだったっけ?」
「私は知らないわよ~お母様。お姉様がそういうんならそうなんじゃないかしら~? でもぉ今日でいいなら今日出せば問題ないってことでしょ? お姉様、書類を書いてくださいな」
ユリシアがさも当然というように言い放った言葉に、私だけではなくリオネル様も度肝を抜かれている。
「パ……パトリシア嬢? あそこにいる君の元義妹は一体何をいっているんだい? 私は理解できないよ」
「お見苦しいものを……しかし、私も理解できないので説明はできないのです、申し訳ございません」
「パトリシア嬢……本当に大変だったんだね。これからはそんな苦労はさせないからね」
本当ですね、人間に話しているはずなのに、庭に立っているヒマワリに話しかけるより話を聞いて貰えている気がしないんですから、私だって疲れてしまいます。こんな苦労はもうしたくないですね。
「ユリシアさん。何度も言いますが、私はもうレーゼン家の人間ではありません。ですから、レーゼン家に関わる書類に手を付けることはありません」
「えー? そうなの~? じゃあダニエル様、お願いしますわ」
「え? 私……? 書類なんて書いたことないぞ、家に帰って執事にでもやらせればいいだろう」
「わーい、それでお願いします~」
どうやら話がまとまってきているようだから、あえて口は閉ざしておく。私が除籍届けを出したことでレーゼン家は消滅してしまった。消滅した家門の当主変更届を出した所で、何も得られるものなんてないと思うけれど。そのことにリオネル様も、アレックスも気が付いている。けれど、二人とも口の端を笑みの形に固定して笑顔を作りながら知らんぷりしていた。
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