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53 先生は酷い方です
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「セ、セラフィーナさん……?」
「はい、なんでございましょうか? セルジオ先生……いえ、セルシオール殿下」
知らなかった時ならいざ知らず、今の私はセルジオ先生が高貴な方だと知ってしまった。なら今まで通りの態度を取る訳にはいかない……。距離を、適切な距離を取りつつ無礼のないようにしっかりした行動をしなくてはならない。私と王弟殿下では生きる世界が違うんだ……これ以上踏み込んではいけない。
「あ、あの……セラフィーナさん」
「なんでございましょうか?」
私は大丈夫。多分、大丈夫。溶けて傾きかけていた心をまっすぐにしただけ。ああ、でもどうして私と婚約なんて言い出したんだろう、そんな無理なことできる訳ないのに。私があまりに可哀想だったのかな? そうよね、婚約者からも無碍に扱われ、唯一の爵位さえ取り上げられようとしていたんだものね。だからきっと可哀想に思って助けてくれたんだ。
でもそれならあんなこと言わず、別の方法にして貰いたかった……本気で、素敵な婚約者ができたと喜んでしまったのに。セルジオ先生となら一方的に怒鳴られることもなく、勉強も一緒にして、植物のことを学び仲良く暮らしていけるって想像してしまった。今はその夢に描いた想像の欠片がとても痛くて苦しい。ああ、でも助けてもらったのに方法までなんてあまりに烏滸がましい……これじゃジュリアナのことを図々しいなんて軽蔑できない。私も十二分に図々しいじゃない……。
「あの……?」
さりげなくさりげなくセルジオ先生から距離を取り、伯父様の方へ寄って行く。いきなり離れるのはちょっと感じが悪いだろうし……だからといって近くにはいたくない。だって傍にいたら頼ってしまいそうになるし、何より悲しい。
ああ、こうなると私はこの短期間にかなりセルジオ先生の方へ心を傾け……好きになっていたんだなと自覚した。こんなに嘆かわしい自覚があるものかとため息が出そうになるが、ぐっと堪える。分をわきまえなければ。
そんな私のため息を代弁するかのような大きなため息が王妃殿下から漏れた。
「……セルシオール様は……困った御人ね? セラフィーナ」
「……いえ、そのようなことはございません」
セルジオ先生が悪い事なんて何もない。私がいけないんだ……私が自分でなんとか出来なかったからきっと、そう。私は黙って頭を下げるだけにしておけばよかったのに、つい口ごたえめいた返答をしてしまった……だって、セルジオ先生は悪くないんだもの。
「いいえ、困るわ。私と陛下はどう叩いても宥めすかしても梃でも何ともならなかったセルシオール様が婚約したい人ができたと弾んでいらっしゃったから、その素晴らしい女性を一目見ようとこの場にやってきたのに、振られようとしてるなんてとても困るわ」
「!?」
「あ、義姉上……? ふ、振られるとはどういうことですか、私はセラフィーナさんとの婚約を兄上と義姉上にも報告したくやってきたのに」
「はあ……これだから殿方は困るのよね。そう、そうね……マリアンヌ。あなたはどう思う? 忌憚ない意見を教えて欲しいわ」
狼狽するセルジオ先生をよそに王妃殿下は何故かマリアンヌに話しかけた。一体どうして?
マリアンヌも真剣な顔で王妃殿下の問いに答え始める。
「従姉であり、私が姉のように慕っているセラフィーナは間違いなく王弟殿下との婚約はできないと思っておりましょう。もし、私が同じ立場で婚約者となった人がそのような高貴な生れを偽っていたのなら……自分には不相応であると辞退するでしょう」
「な、ど、どうして!?」
マリアンヌに慌てて問いかけるセルジオ先生は、あの可愛いマリアンヌにギリッと音がするほど睨まれた。
「当たり前ではございませんか! 何も知らされず、そのようなご身分を伝えられれば、身を引くのが低位貴族でございます! ああ、可哀想なセラフィーナお姉様。今、その繊細な心の内は嵐の如く悲しみが吹き荒れているに違いないでしょう。ああして表面だけでも取り繕って……立っていらっしゃるのが精一杯のはずですわ! セルジオ先生は酷い方ですっ!」
違うわ、そんなことないわ。私は大丈夫よ。セルジオ先生は何も悪くないの。私が勝手に想っただけよ。
全部、口からそう吐き出したかったけれど、唇は少し震えただけで言葉を紡いでくれなかった。
「はい、なんでございましょうか? セルジオ先生……いえ、セルシオール殿下」
知らなかった時ならいざ知らず、今の私はセルジオ先生が高貴な方だと知ってしまった。なら今まで通りの態度を取る訳にはいかない……。距離を、適切な距離を取りつつ無礼のないようにしっかりした行動をしなくてはならない。私と王弟殿下では生きる世界が違うんだ……これ以上踏み込んではいけない。
「あ、あの……セラフィーナさん」
「なんでございましょうか?」
私は大丈夫。多分、大丈夫。溶けて傾きかけていた心をまっすぐにしただけ。ああ、でもどうして私と婚約なんて言い出したんだろう、そんな無理なことできる訳ないのに。私があまりに可哀想だったのかな? そうよね、婚約者からも無碍に扱われ、唯一の爵位さえ取り上げられようとしていたんだものね。だからきっと可哀想に思って助けてくれたんだ。
でもそれならあんなこと言わず、別の方法にして貰いたかった……本気で、素敵な婚約者ができたと喜んでしまったのに。セルジオ先生となら一方的に怒鳴られることもなく、勉強も一緒にして、植物のことを学び仲良く暮らしていけるって想像してしまった。今はその夢に描いた想像の欠片がとても痛くて苦しい。ああ、でも助けてもらったのに方法までなんてあまりに烏滸がましい……これじゃジュリアナのことを図々しいなんて軽蔑できない。私も十二分に図々しいじゃない……。
「あの……?」
さりげなくさりげなくセルジオ先生から距離を取り、伯父様の方へ寄って行く。いきなり離れるのはちょっと感じが悪いだろうし……だからといって近くにはいたくない。だって傍にいたら頼ってしまいそうになるし、何より悲しい。
ああ、こうなると私はこの短期間にかなりセルジオ先生の方へ心を傾け……好きになっていたんだなと自覚した。こんなに嘆かわしい自覚があるものかとため息が出そうになるが、ぐっと堪える。分をわきまえなければ。
そんな私のため息を代弁するかのような大きなため息が王妃殿下から漏れた。
「……セルシオール様は……困った御人ね? セラフィーナ」
「……いえ、そのようなことはございません」
セルジオ先生が悪い事なんて何もない。私がいけないんだ……私が自分でなんとか出来なかったからきっと、そう。私は黙って頭を下げるだけにしておけばよかったのに、つい口ごたえめいた返答をしてしまった……だって、セルジオ先生は悪くないんだもの。
「いいえ、困るわ。私と陛下はどう叩いても宥めすかしても梃でも何ともならなかったセルシオール様が婚約したい人ができたと弾んでいらっしゃったから、その素晴らしい女性を一目見ようとこの場にやってきたのに、振られようとしてるなんてとても困るわ」
「!?」
「あ、義姉上……? ふ、振られるとはどういうことですか、私はセラフィーナさんとの婚約を兄上と義姉上にも報告したくやってきたのに」
「はあ……これだから殿方は困るのよね。そう、そうね……マリアンヌ。あなたはどう思う? 忌憚ない意見を教えて欲しいわ」
狼狽するセルジオ先生をよそに王妃殿下は何故かマリアンヌに話しかけた。一体どうして?
マリアンヌも真剣な顔で王妃殿下の問いに答え始める。
「従姉であり、私が姉のように慕っているセラフィーナは間違いなく王弟殿下との婚約はできないと思っておりましょう。もし、私が同じ立場で婚約者となった人がそのような高貴な生れを偽っていたのなら……自分には不相応であると辞退するでしょう」
「な、ど、どうして!?」
マリアンヌに慌てて問いかけるセルジオ先生は、あの可愛いマリアンヌにギリッと音がするほど睨まれた。
「当たり前ではございませんか! 何も知らされず、そのようなご身分を伝えられれば、身を引くのが低位貴族でございます! ああ、可哀想なセラフィーナお姉様。今、その繊細な心の内は嵐の如く悲しみが吹き荒れているに違いないでしょう。ああして表面だけでも取り繕って……立っていらっしゃるのが精一杯のはずですわ! セルジオ先生は酷い方ですっ!」
違うわ、そんなことないわ。私は大丈夫よ。セルジオ先生は何も悪くないの。私が勝手に想っただけよ。
全部、口からそう吐き出したかったけれど、唇は少し震えただけで言葉を紡いでくれなかった。
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