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18 俺は上弦でめちゃくちゃ怒った

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 薬屋の店頭に肉屋のトムが駆け込んでいた。うっせーな!

「キース!頼む何とかしてくれ!」

「トムさん、どうしたの?!」

 慌てた様子にキースも聞き返す。

「「ぷれーやー」が二人来たんだ!この辺に「ファイ・オースティンさんがいるだろうって!」」

「はあ?!「ぷれーやー」って闇魔族に襲われ易いから、隠してるだろ?」

 な、なんだって?!そんな阿呆なプレイヤーがいるのか?!馬鹿なのか?!俺は自分の耳を疑った。

「そのはずなんだが、そいつら、めちゃくちゃでかい声で叫びまわるんだよ!「ファイ・オースティンを早く出せ」って。多分、だけど、ファイの旦那の事じゃねぇかって……」

「う、うーん……違うと言えば違うんだけど……」

 俺は正確には「ファイ・オースティン」じゃない。それは俺のメインアバター竜騎士の名前だ。今の俺はしがない錬金術師のただのファイだ……。

「問題はそいつら、そんな奴居ねえって言っても隠すんじゃないの一点張りで……しかも乱暴な奴らで、女子供も威嚇するし……」

 きゃーーーー!

「?!」

 店の外から悲鳴が聞こえた。くそが!!俺は上級ポーションを引っ掴んで外に走り出た。

「ファイさん?!」

「ファイの旦那!行っちゃいかん!」 



「NPCの癖にうぜぇんだよ!」

「や、やめなよ。ガッシュ、ここにはファイ・オースティンは居ないんだよ」

「うるせー!ヒナ!「白夜の翼」の俺に逆らうのか!」

「ひっ!ごめんなさい」

 そいつらの足元に武器屋の息子が倒れていた。

「ドン!」

「あ、あ、痛いよ……」

 ぐだぐだ喋ってるそいつらを押しやって、俺はドンに駆け寄った。武器屋の息子は利き腕をざっくり斬られている。

「わ、私を庇って……」

 花屋のメイが傍でガタガタ震えていた。メイは気が強いから、何か言ったんだろう。そして手を上げられそうになってドンが庇ったんだ。

「大丈夫だ、ドン。好きな子の前だからって無茶しすぎだろう!職人は腕を大事にしろ!」

 バシャッと上級ポーションをぶっかける。シュウシュウと音がして、ドンの傷は塞がって行った。

「どうだ?」

「痛くねえ……動くよ、動く!ありがとう、ファイさん!」

「ひとまず良かった。立てるか?」

 俺はドンを立たせ、馬鹿どもに向き合った。

「お前ら、なんなの?帰れ」

 見たところ、女がメイジ、男は武装騎士といったところか?レベルは低そうだ。

「あんたが「ファイ・オースティン」?違うな、「ファイ・オースティン」は竜騎士だもんな!弱っちい錬金術師じゃねーもん」

「やめなよ!ガッシュ!錬金術師だって強い人は強いんだよ!」

「うるせーよ!メイジの癖に俺に逆らうな!分かってんのか!俺はあの「白夜の翼」なんだぞ!」

 俺は我慢がならなかった。

「うるせーよ、お前ら!迷惑なんだ!帰れ!あと町の人に手をあげんな!馬鹿じゃねーの!」

 ガッシュと呼ばれた武装騎士は、俺を鼻で笑う。

「たかがNPCに何言ってんの?こいつらが何人死のうがしらねぇよ。勝手に増えて来るじゃねーか!」

 俺はすーっと冷えて行くのが分かった。俺は、ゲーム時代NPCと呼ばれた町の人と仲良くして貰ってる。キースがいたからだろうけど、俺が今までこうして生きてきて、結構楽しく快適に暮らせて、闇魔族にバレなかったのも、皆が俺を助けてくれたからなのは知っている。

 野菜をくれるばーさんも、ちょっとボケたじーさんもおばちゃんもガキも。この町の人は怪しい俺に皆優しくしてくれた。

「お前は「白夜の翼」に相応しくない。帰れ、そして二度と俺の前に現れるな。命の保証はしてやれん」

「は……?錬金術師が何を……」

「や、やめなよ、ガッシュ。その人怖いしめちゃくちゃ怒ってる」

 ヒナと呼ばれたメイジが後ろから諌める。

「どうせ闇魔族に襲われた事がねぇんだろ!お前らが勝手に死んで行くのは知らんが俺を巻き込むな!帰れ今すぐに!」

「ちっ!」

 俺の剣幕に二人はすごすごと街から出て行った。

「ファイ、さん」

「しっかり落とし前つけさせてやるから……悪かったな。俺のせいで」

「ファイさんは悪くないっす!なあ!皆」

「そうとも!ファイの旦那は悪くねえよ!」

 町の人達はそう言ってくれたが、俺の腹は収まらない。

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