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48 僕は下弦で妖怪激臭女に襲われる

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「はあ」
  
 僕は月を見上げる。月は欠けて来た。つまり下弦に入ったんだ。窓の外にはサワサワと心地よく揺れる大木が育っており、飛び移れそうだ。
 ああ、あの太い枝に2人で腰を下ろして月を見上げたらなんてロマンティックなんだろう。絶対損な事してくれないだろうけど。

「……ファイさん……」

 つまり、ファイさんは今エロいのだ。まだ下弦が始まって1日目だから、ちょっと恥ずかしそうに

「し、仕方がないだろう?!」

 って怒りながら拳を振り上げるんだ。それでも躊躇いながらそっと足を開くんだ。

「やらなきゃ困るからな!」

 僕のせいじゃないけれど、本当に素晴らしい呪いに引っかかってくれた物です!「ぷれーやー」は皆何かしらの力を持っていてとても強く、美しい人が多い。
 そんな人を伴侶に出来るなんて夢のような話。しかもどうも王族などの所謂「高貴な血筋」が良いって。
 煮凝りのような泥々した血に新しく強い力を吹き込んでくれるよう……。

「ってぇ、僕の知り合いの人たち、皆男同士じゃないですかー!あはは!子供なんて出来ませんよねぇ!」

 僕とファイさんの子供かー……いたらとても可愛いんだろうなー。きっとファイさんに似て、ワイルドに鹿や熊なんかを狩っては食べるんだろうな。

「最高だなぁ~」

 少しだけ欠けた月を見ながらため息をついていると

「陛下失礼致します」

 と、控えめに扉がノックされた。

「こんな夜半に本当に失礼なので、帰ってください」

 僕とファイさんの楽しい思い出に臭い宰相の娘が割り込んで来た。帰れ!

「陛下、その様な事をおっしゃらずに……分かっていますよのよ?陛下は照れていらっしゃるのでしょう?どうやら陛下はこれまで高貴な淑女と触れ合う機会が少うございましたから」

 意味がわからない。何で僕が照れないといけないんだ?それに僕はファイさんが大好きで大好きでしょうがないのに、なんでこの臭い女性は薄着なんだ?窓が開いててよかった。

「臭いって言ってるでしょう、それ以上近づかないでください。鼻が腐りそう」

 窓の側、風上にいても臭うんだ、どんだけ得体の知れない物を振りかけてるんだ?
 僕の言う事も聞かず、その女性は部屋に入って来る。後ろについて来た侍女らしき2人の女性が深々と礼をして扉を閉めた。
 途端に臭いが逃げ場を失って、僕はげほげほと咳き込む。

「まあ!陛下、大丈夫ですか?わたくしが手当して差し上げますわ」

 2.3歩こちらに近づいてきたので僕は

「ぎゃーーーー!来るな!妖怪激臭女ぁーーー!」

 と、大声で叫んで窓から必死で飛び出した。

「ファイさーん!早く助けに来てくださいーー!ここには悪い人しかいませんーーーー!」

 勢いをつけて飛んだから、見事に木にしがみ付いた僕を、城の衛兵はギョッと見上げた。

「へ、陛下?!一体何を?!」

「知らないよ!僕は陛下じゃないし、あの部屋に閉じ込められてるし、臭い宰相の娘は薄い服で自称高貴な女性は……ゲヘヘヘって迫って来るし!もう何だよこの国!最悪じゃないか!僕を恋人の所に返せーーー!きっと今頃僕を恋しがって泣いてるはずなんだからーーー!」

 少し、話は盛ったかもしれない。ファイさんはまだ泣いて無いと思うけど、それ以外は大体事実だ!

「へ、陛下に、よ、夜這い……?宰相様の令嬢が……?」

「あ、でもあの方確かに……つけすぎ、臭いの分かる」

「陛下には恋人が……?引き離された?」

 ストレスの余り、かなり大声で叫んでしまったかもしれない……。夜警の衛兵達がざわざわと噂を繰り返す。

「もー助けてよー!君たちの方が話を聞いてくれそうだよー僕は陛下じゃ無いって言ってるのに誰も聞かないんだぁ……」

 涙ぐみながらするすると木を降りると、衛兵達は皆心配そうに慰めてくれた。

「そうか、大変だったな」

「なんだ、君はもしかして陛下に似てるから連れて来られたクチかい?」

「俺たちの宿舎に来いよ、寝る所は余ってるからな。夜露くらいは凌げるさ」

「うえええーありがとう兵隊さん」

 頑張れよ、俺達も上司に聞いてみるからと肩をポンポンと叩かれ、慰められた。良い人もいるんだよ、この国はさー!僕は衛兵さんの宿舎でその日はゆっくりぐっすり眠る事が出来た。



 
 
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