【完結】生き残りたい俺は死者と語る。

鏑木 うりこ

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45 死の天使

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 天使の間に天使がいる。でもそれは死を呼ぶ天使だ。使用人の間でそう囁かれている。

 若い女が苦手だと言うその天使は、隣の国から平民出だと言う。確かにあの天使の間の天使に少し似ている青年だと思うが、疑問は残る。
 しかし、国王がいたく気に入り、毎日愛で、天使だと言うのだから誰も何も文句はつけられない。

「ナナ」

 そう呼び、連日通い詰める。勿論正妃様以下、たくさん居られる即妃様達の心中は穏やかではない。

「どうせすぐに飽きられる!」

 お上品に口元を隠し、笑う方々。そう、国王様は遠征からお帰りになる度に、気に入った者を連れ帰り、側妃として召し上げている。
 連れて来られた者はしばらくは毎日お通いもあり、幸せだろうが、それは国王の興味があるうちだけ。
 もし、王が次の遠征に行かれれば間違いなく新しい者を連れて来られ、元の寵妃様は天使の間を追われ、後宮の片隅に追いやられる……アンヌ妃がそうであったように。
 寵愛を失った側妃は悲惨で、元の家柄が良ければ問題は少ないが、アンヌ妃のように小さな子爵家上がりの方は大変らしい。
 今まで王の権威の笠の下、威張り散らしていたツケが一気に回って来る。陰湿ないじめが後宮内で起こり、沢山の怪我人や死人を生む。
 そして全ての嫉妬は新しい寵妃に注がれるのだが、今回は特に酷い。

「なんなの!あの男!」

 事もあろうに、王様が今回連れて帰った「寵妃」は男だった。それだけでお妃様達のご機嫌はいつもに増して真っ逆さま。
 連れ帰る寵妃が男だと知ったアンヌ様は

「平民出の汚い男になど、私が劣る訳がございません!」

 と、天使の間から出る事を拒んだ。物凄い癇癪で城に残った者では手に負えなかったが、王の帰還と共にやはり追い出された。

「私に!私にお会いして下されば、そのような下人など取るに足らぬとお気づきになるはず!!」

 叫び声が城中に響き渡る。しかし、国王はアンヌ様とは会わず、連れ帰った男にご執心だった。

「哀れね、ふふ」

 他の側妃様達に冷笑され、唆される。

「その下人が居なくなれば……ふふ」

 アンヌ様は毒を手に入れ、ナナと呼ばれる男の食事全てに毒を入れた。
 とばっちりを受けたのは料理人とメイド達だ。毒を入れろと言われて断ればその場で殺されかねない。ガタガタと震えながら指示に従う。
 一口食べれば即死するような強い毒もあったが、男は全ての食事を拒否して生き残った。

 そして王に訴えたのだ。食事は食べられません、と。

 そんな事を言えばメイドや料理人の首が飛ぶ事を知りながら、いけしゃあしゃあと言ってのけた!
 皆、本当にそんな事はしたくなかった、仕方がなくした事なのに一切の庇い立て、口添えなしにそう言った。

 王はすぐさま粛清し、その度に使用人はぐっと減る。アンヌ様がとうとう毒杯を賜るまで、使用人の軽い生命はいくつもいくつも使い捨てられた。アンヌ様もアンヌ様だが、その男もどうかしている。平民ならばメイドや料理人が断れない事くらいすぐにわかるはず。同じ立場の人間なのに、人の心がないのだろうか!


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