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53 追う者

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「どう思う?」

「分からんが、どちらの王もが執着している「ナナ」とやらに興味があるな」

 激突する王達、その王達の周囲でも激しい戦闘が始まっている。しかし、グレイアッシュに切り込んだのはグレイデール軍だけではなかった。この大混乱の隙に利を得ようとする近隣諸国は二国の騒乱を見逃さなかった。

「どこだ!いないぞ!!」

「天使の間から逃げ出す事などできないはずなのに、何故いない!?」

「ま、まずい……アレが逃げたと知られたら俺達は殺されるッ!」

 グレイアッシュのアリディスにナナを連れてくるように命じられた兵士は天使の間を開けて驚いた。中でいつも小さく震えているはずのナナの姿がなかったのである。部屋の中に変わりはない。なのに、かき消えたようにナナの姿はなかった。
 兵士、いやこの城で生きている人間でナナが逃げた古い隠し通路の存在を覚えている者は誰もいなかった。12枚目のタイルもただの古ぼけたタイルにしかみえないし、ぴったりしまった入り口は芸術のように壁にしか見えなかったから。

「さ、探せ!近くにいるはずだ!!」

「お前達もだ!」

 天使の間の前でずっと立っていた衛兵も駆り出して、ナナの捜索に当たった。入口も開け放たれ、警備の兵士もいなくなった天使の間に、グレイアッシュの兵士と同じ鎧兜をつけていながら、動きが違う二人組がするりと忍び込んだ。

「……まあなんていうか不思議な死者の匂いがするんだな、「ナナ」は」

 くんくんと鼻を鳴らす。そこには生きているはずなのに、死者にほど近い不思議な残り香をかぎ取った。

「……良い匂いだな……」

「は!?」

 少しだけ背の低い方が驚いて相方を見る。

「お前、良い匂いって……まさか「ナナ」だぞ!?どっちの王も執着しているんだぞ」

「だからこそ気になる……。おい、この壁の奥に匂いが続いてる。あるんじゃないか?」

 嘘だろ、冗談だと言ってくれ、と言いながら壁を二人は調べ始めた。うっすらとほんのうっすらと残り香を嗅ぎ取ってこの先に通路があると確信する。

「……これだ。全然分からんが、直に触ったんだろう。匂いが残ってた……開けるぞ」

 辺りを見回し自分達しかいない事を確認してから、12枚目のタイルに手をかけた。カコン、と軽い音がして壁から通路が現れる。

「……巧妙だが古い仕掛けだ」

「忘れられた通路なんだろうか。良く「ナナ」はこんなものに気が付いたな」

 二人は隠し通路にそっと入り、また匂いを手掛かりに元の壁に戻る仕掛けも作動させる。また元の壁に戻り、誰もここに忍び込んだとは気が付かないだろう。

 真っ暗闇の中、二人は匂いを頼りに迷うことなくナナを追う。

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