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54 夜明けの光
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「そのまま、真っ直ぐよ……」
「お姉様!」
「良いから行くの!」
また一人、城の亡霊が溶けて行く。彼女達にはもう恨みは無く、俺が風船を一つ渡せばそのまま神様の元に帰れるんだ。それなのに、俺を逃がそうと最後の飛ぶ力すら使って道案内をしてくれる。
「俺の……俺みたいのの為に溶けないで!」
「うるさい!ナナちゃんを馬鹿にしないで!ナナちゃんでも許さないわよ!」
俺は、よく分からないけれど怒られた。
「ナナちゃんは良い子なの!生まれてから誰も私の話なんて聞いてくれなかった!それなのにナナちゃんは私の恨み言でも何でも全部聞いてくれた!」
貴族令嬢には多い事らしい。王に嫁ぐ為に完璧な令嬢に育てられる子供達。余計な知識は一切入れず、嫋やかにお淑やかに、それだけを重視する。逆らう事は一切せず無駄口は叩かず……物言わぬ静かな美しい人形である事を望まれる。
そして召し上げられ、大人しく言われるままに抱かれ子を孕み……そして後宮の争いに身を投じる。
「生きて、逃げて。私達と同じにならないで!」
純粋な言葉で俺を逃がそうとしてくれるお姉様。
「お主がいては我らに王の寵が訪れぬわ!平民が城にいるのは不快でならぬ」
ひねくれた言葉もある。それは本心でないのも分かってしまう。
「お姉様方……俺、俺は皆を神様の所に返したかったんだ……」
きっと次は違う人生が待っている。同じ貴族の、同じように嫁ぐ為に育てられたとしても、きっと強くなれる。悪役でも良い、ざまあする側でもいい、される側でも良い。きっと今よりいい人生になるのに!
「早く走りなさい!」
少しだけボタンを掛け違えたのに、幸せとは程遠い最後を迎えた女性たち。次ならきっと今より幸せになれるはず。何年も何十年も何百年も昏い思いにとらわれて、城の中をウロウロとうろつき回る悪霊や亡霊の類なんかよりいい人生に。
「馬鹿なナナちゃん。私達の事より、自分の事を心配なさい。あなたはまだ生きているのよ、死んでしまった私達とは違うの。あなたは生きるのよ、そうでしょう!」
そうだ、俺は生きなくちゃ……何が何でも生き延びなくちゃいけないんだった。
「はい……ありがとうございます、お姉様方……」
「そうよ、走って。下町へ出る出口があるわ!」
俺は走る。お姉様方は消えてゆく。
「ああ、城から離れると力が出ないわ……。ここの出口は駄目よ、騎士がうろついてる。もっと先へ行って」
「次を左に曲がってまっすぐ進んで!もう城壁の外に繋がる道よ。多分外に騎士はいないはず」
「はいっ!」
本来なら城から出られないはずのお姉様方。俺の為にこんな遠くまで来てくれた……。
「生きるのよ、ナナちゃん」
「分かりました……!」
俺は走って走って、とうとう通路の最後まで辿り着いた。
「えっと……あった」
上へ続く古い石造りの階段を登ると朽ちた扉が見えている。多分元は隠し扉だったのだろうが、放置の末に壊れてしまったようだ。
「石造りの洞穴……」
中には枯れ葉やゴミが散乱していたが、俺がかがんで進めるくらいの洞穴に出た。出口は樹木やつる草に覆われているが、薄く夜明けの光が差し込んできている。
「外……!」
久しぶりの外だ。あのアリディス王に捕まってから部屋から出してもらったことはなかったから、久しぶりの外の空気に心が弾んだ。
「やっと、自由……!」
光に向かって進む。手でつる草や生い茂る木々をかき分けると森の中のようだった。木の隙間から城壁が見え、いくつもの煙が上がっている。時折光が眩しく輝いたりしているからあそこで戦いが起こっているんだろう。
「に、逃げよう……」
どこに行けばいいかなんて分からない。でもこの街から離れなければ!俺が辺りを見回し、誰もいない事を確認してから街と反対側に歩こうとしたら誰もいないはずの木陰から声がする。
「残念だが、逃げる事も自由になる事も出来ないんだよね「ナナちゃん」」
「え?」
振り返ると兵士が一人立っていた。ああ、見た事がある。グレイアッシュ軍の鎧だ……。
「お姉様!」
「良いから行くの!」
また一人、城の亡霊が溶けて行く。彼女達にはもう恨みは無く、俺が風船を一つ渡せばそのまま神様の元に帰れるんだ。それなのに、俺を逃がそうと最後の飛ぶ力すら使って道案内をしてくれる。
「俺の……俺みたいのの為に溶けないで!」
「うるさい!ナナちゃんを馬鹿にしないで!ナナちゃんでも許さないわよ!」
俺は、よく分からないけれど怒られた。
「ナナちゃんは良い子なの!生まれてから誰も私の話なんて聞いてくれなかった!それなのにナナちゃんは私の恨み言でも何でも全部聞いてくれた!」
貴族令嬢には多い事らしい。王に嫁ぐ為に完璧な令嬢に育てられる子供達。余計な知識は一切入れず、嫋やかにお淑やかに、それだけを重視する。逆らう事は一切せず無駄口は叩かず……物言わぬ静かな美しい人形である事を望まれる。
そして召し上げられ、大人しく言われるままに抱かれ子を孕み……そして後宮の争いに身を投じる。
「生きて、逃げて。私達と同じにならないで!」
純粋な言葉で俺を逃がそうとしてくれるお姉様。
「お主がいては我らに王の寵が訪れぬわ!平民が城にいるのは不快でならぬ」
ひねくれた言葉もある。それは本心でないのも分かってしまう。
「お姉様方……俺、俺は皆を神様の所に返したかったんだ……」
きっと次は違う人生が待っている。同じ貴族の、同じように嫁ぐ為に育てられたとしても、きっと強くなれる。悪役でも良い、ざまあする側でもいい、される側でも良い。きっと今よりいい人生になるのに!
「早く走りなさい!」
少しだけボタンを掛け違えたのに、幸せとは程遠い最後を迎えた女性たち。次ならきっと今より幸せになれるはず。何年も何十年も何百年も昏い思いにとらわれて、城の中をウロウロとうろつき回る悪霊や亡霊の類なんかよりいい人生に。
「馬鹿なナナちゃん。私達の事より、自分の事を心配なさい。あなたはまだ生きているのよ、死んでしまった私達とは違うの。あなたは生きるのよ、そうでしょう!」
そうだ、俺は生きなくちゃ……何が何でも生き延びなくちゃいけないんだった。
「はい……ありがとうございます、お姉様方……」
「そうよ、走って。下町へ出る出口があるわ!」
俺は走る。お姉様方は消えてゆく。
「ああ、城から離れると力が出ないわ……。ここの出口は駄目よ、騎士がうろついてる。もっと先へ行って」
「次を左に曲がってまっすぐ進んで!もう城壁の外に繋がる道よ。多分外に騎士はいないはず」
「はいっ!」
本来なら城から出られないはずのお姉様方。俺の為にこんな遠くまで来てくれた……。
「生きるのよ、ナナちゃん」
「分かりました……!」
俺は走って走って、とうとう通路の最後まで辿り着いた。
「えっと……あった」
上へ続く古い石造りの階段を登ると朽ちた扉が見えている。多分元は隠し扉だったのだろうが、放置の末に壊れてしまったようだ。
「石造りの洞穴……」
中には枯れ葉やゴミが散乱していたが、俺がかがんで進めるくらいの洞穴に出た。出口は樹木やつる草に覆われているが、薄く夜明けの光が差し込んできている。
「外……!」
久しぶりの外だ。あのアリディス王に捕まってから部屋から出してもらったことはなかったから、久しぶりの外の空気に心が弾んだ。
「やっと、自由……!」
光に向かって進む。手でつる草や生い茂る木々をかき分けると森の中のようだった。木の隙間から城壁が見え、いくつもの煙が上がっている。時折光が眩しく輝いたりしているからあそこで戦いが起こっているんだろう。
「に、逃げよう……」
どこに行けばいいかなんて分からない。でもこの街から離れなければ!俺が辺りを見回し、誰もいない事を確認してから街と反対側に歩こうとしたら誰もいないはずの木陰から声がする。
「残念だが、逃げる事も自由になる事も出来ないんだよね「ナナちゃん」」
「え?」
振り返ると兵士が一人立っていた。ああ、見た事がある。グレイアッシュ軍の鎧だ……。
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