【完結】生き残りたい俺は死者と語る。

鏑木 うりこ

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56 疑問

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 森を抱えられて走り抜けた。

「舌ぁ噛むと痛ぇから、口は閉じといてね?」

 言われた通り口を開かなかった。俺を抱えているのにこの鎧の兵士はすごい速さで森の中を駆け抜ける。一緒にいる男もそうだ。まるで森の中の蔓や朽木なんかないなのように、平地と同じくらいの速さで駆けていく。
 普通の兵士ってこんなに森を早く走れないよね?この二人は随分と森の中に慣れているみたいだった。

 おかしいと言えば、グレイアッシュの城壁から離れて逆の方向に向かっているのもおかしい。俺を城に連れ帰るんじゃなかったの??

「フォーリ!見えた」

「ヒュウ!手回しサイコー!」

 かなり城から離れた所に10人ばかり馬に乗った人がいて、二人に気づいたようだ。

「来た!フォーリ様!ご無事だ!」

「テン!何やってんだ!何でフォーリ様を止めないっ馬鹿っ!」

 なんか、怒ってる……そして、やっぱりなんかおかしい。

「おーい!見てくれー「ナナちゃん」を盗んで来ちゃったー!」

「は?!」「げっ?!」「マジか!」「フォーリ様!それはヤバいッス」

「細かい事は後!逃げるよ!」

 あ、あれ?なんか、なんか変だ。俺はグレイアッシュの城に戻されるのかと思ってたけど、何か違う所に連れて行かれるらしい……?

 俺はフォーリと呼ばれた人の馬に乗せられ、どんどんグレイアッシュから離れて行く。良かった……のか?いや、分からない。グレイアッシュなら俺は殺される確率は低かっただろう。でもこの人達の所に連れて行かれて殺される可能性はさっぱり分からない……怖い、とても怖い。
 俺がガタガタ震えていると

「寒いのか?ああ、グレイアッシュの鎧は冷たいか……もうここまで来たら鎧は要らないな」

 馬を休憩させると立ち止まった森の空き地で、フォーリは鎧を脱いだ。そして揃いの兜も脱ぐと頭の上にぴょっこりと立ち上がる耳があって俺はまじまじとそれを凝視した。

「……じゅ、獣人……」

 銀色のぴょんと立った狐の耳。俺は初めて獣人を見た。地獄街に獣人は一人もいなかったし、話では聞いた事はあるけれどら実際に見たのは初めてだった。

「うん、知ってる?俺は銀狐の獣人フォーリ。宜しくね?ナナちゃん」

 目を細めて、狐っぽく笑うフォーリは少しずる賢そうな笑顔だった。

「ほら、ナナちゃん。触ってごらん?狐族自慢の尻尾だ。ふわふわのもふもふだぞ?」

「う、うう……」

 す、凄い!ふわっふわであったかくて……な、何だこれ?!お城の布団もふわふわだと思ったけれどそれの遥か上をいく触り心地!す、凄い!狐凄い!
 だ、駄目だ。この誘惑に抵抗できないっ!

「あ、あ、あふ……す、凄い」

「だろう!だろう!ほら、干し肉をお食べ。お腹空いてるでしょう?」

「むぐ……硬い……」

「良く噛んで?」

 口の中に乾燥した肉を押し込まれたけれど、俺はもふもふに気を取られて何の警戒もせずに齧っていた。


「おい、アレ、やばくねぇか?」

「フォーリが尻尾触らせてるぞ?」

「あの誰にも尻尾を触らせなかったフォーリが?!」

「しかもエサやってる」

「は?もう求愛してんの?!」

「おい!テン、どうなってんだ!あのフォーリの抱っこしてる可愛い人間。アレは噂の「ナナ」なんだろ??」

 尻尾に埋まる事に夢中だった俺には聞こえなかったが、後ろの方で小さな騒が起こっていたらしい。

「最初からいい匂いとか言い出してて……多分、ダメだ、アレは」

「駄目?!」

「いや、人間にしては確かに可愛いとは思うよ?!でもあのグレイアッシュとグレイデールの「ナナ」だろう?」

「ナナだよ……あの目と顔を見たら分かるだろ。グレイデール王そっくりだ」

「げぇ!でもあのフォーリのメロメロっぷり……つがいなのか?」

「つがいでなくても、つがいにするだろうな。あのつがいどころか人を寄せ付けなかったフォーリが……喜ぶべき所なのか、悲しむべき所なのか」

「あー……俺、先触れ行って来まーす……」

「頼んだ……」


 
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