【完結】異世界はなんでも美味しい!

鏑木 うりこ

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52 俺の悪意

「ぐはっ!」

 血を吐いてそいつは動かなくなったけれど、俺は放置した。そいつは命令に従っただけだって分かっているけれど、俺の感情は割り切ることなんてできない。イスは相変らずぼーっとしながら立ち尽くしているし、騎士は動かないし。俺はその辺の瓦礫に腰を下ろした。
 半分は綺麗なまま、半分はなくなっている屋敷は中々シュールで昨日までそこにあったものや人が一瞬で消えるのはとても不思議だと思う。屋敷の前の雑草園はまったくそのままなのに、主人だけが消えて、イスの腹の中だ。

「い、一体何が……!」

 王宮の方から兵士達が、騎士団の方から騎士達が大勢やってくる。そりゃそうだろうな、この屋敷を破壊したのはイスで、竜の巨体で飛んできてやったに違いない。離れとはいえ、王宮の敷地内に黒竜が降り立ったんだ、騒ぎにならないはずはない。

「リクト、今ここに黒竜が来なかったか!!」

「ん」

 俺は人の姿をしたイスを指差す。黒い髪に……まあ目の色は遠目じゃ分からんだろうが、真っ黒な爬虫類のどでかい尻尾が生えた生物を指差せば、ソレがなんだか普通分かるよな?

「まさか、そいつ……が?」

 面倒くさいから説明とかしたくないんだよね。でもやってくる人数は増えるし、俺達を遠巻きにしてるし、さらに皆真っ青な顔してるから大体正しく伝わっていると思う。

「……リクト、フィン様の姿が見えない」

 ……驚いた、フィンのことを気にかけてくれていたなんて!お前良い奴だな、俺の好感度はちょっと上がったぞ。

「フィンは毒の食材で殺された」

「なっ……」

 壁にめり込んで動かない騎士を指差す。そいつを見て動揺する奴、しない奴を俺は観察している。

「……アデルか?なんで彼がここに?王太子殿下の方に行って……っ!」

「そういうことみたいだ。殿下からのプレゼントはまあ大当たりだったよって伝えておいて欲しいくらいだな」

「……ご遺体は」

「こいつが食った」

 ざわり、とどよめきで辺り一帯が揺れたような気がした。

「な……」

 言葉を失うってこういうことだという典型例みたいな感じになったけれど、俺はやっぱりフィンを殺されたことを恨んでたし、根に持っていたみたいだ。

「フィンはしかも記憶をイスに残して行ったらしいよ?今、ぼーっとしてるコイツ。フィンの記憶を食って消化しているんだって。死ぬ間際、フィンはこいつと取引をした。さて、どんな取引だったのかなぁ?」

 俺は取引の内容を知っているけど、知らんぷりした。うんと怖がればいい、泣き叫んで、ごめんなさい、殺してすいませんとフィンに謝ればいい。そんな暗い想いがむくむくと膨れ上がってあふれ出た。だって楽しかったんだ、ここでフィンと暮らしてたのは。それを壊されて黙っていなくたっていいよな?なんせ俺は好きにしていいんだし。

「こいつ、フィンの記憶で何を見るのかなぁ……?俺との生活は楽しかったんだってさ。他はどう思ってたんだろうね?ここに閉じ込められて3年だったっけ?さて、フィンは何を考えてここにいたんだと思う?」

 俺はきっと生まれてこの方、一番邪悪な笑顔ができたと思う。
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