【完結】悪役令息の祖父のワシが神子をハメたら殿下がおかしくなった。溺愛とかジジィには必要ないです、勘弁してくだされ

鏑木 うりこ

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番外編

23 可哀想な平民なんていない2

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「カレリオはしばらく学園には行かぬ。アルフォンス、カレリオについて屋敷に居てくれ」

「わ、分かりました。大旦那様」

 アルフォンスはその時初めてダグラス・バンドールに声をかけられた。前侯爵のダグラスは頭を打ってから人が変わった。なんとも……親しみやすく、貴族全としない人物になっていた。

 そして使用人達は変わって行く。

「大旦那様がね」

「大旦那様が」

「大旦那さまー」

 感じが悪いなと思っていた執事が放逐された。偉そうだったメイド長が心を入れ替えて働き始めた。庭師はきちんと給料を貰えるようになったし、屋敷が明るくなって行く。そしてみんな口々に「大旦那様」の話をするのだ。

「こないだお庭で~大旦那様が毛虫を見て飛び上がってたのよ」

「ああ、みたみたー「キャッ!」って言ったんだよ、あのおじいちゃん」

「ふふ、知ってる知ってる。近くに私居たんだけどね?見たか?って聞いて来たから見ましたって答えたらどうしたと思う?」

「えー何どうしたの?」

「これで黙っておいてくれって500ゴールドくれたの。私は孫じゃないわよって」

「500ゴールド!美味しいオヤツ食べられるじゃない。可愛い買収ね!」

 でも今喋ったら駄目じゃなーい。あーしまった~とメイド達の他愛ないおしゃべり。誰もかれも笑っているからきっと毛虫の話は広めても大旦那様は本気で怒ったりしないのだろう。

 自分の知っている貴族とは少し変わった大旦那様の登場にアルフォンスの中の「何か」が揺らぎ始める。そして、学園でカレリオがカズハに噴水に突き落とされる事件が発生してしまう。アルフォンスの目から見ても悪いのは完全にカズハであり、被害者はカレリオだった。護衛としての責務を果たせなかった後ろめたさと……噴水に突き落とされ呆然とするカレリオ。それをあざ笑うかのようなカズハと事の真偽を確かめようともせず、カレリオを詰り助けもしなかった婚約者であるはずの王太子。

「寒い……寒いよ……おじいさま……助けて……」

 急いで屋敷へ戻る馬車の中で毛布にくるまりながらもカタカタと真っ青な顔で震え続けるカレリオを抱きしめる。思ったより細くて小さい体。まだ成長途中のカレリオが自分を虐める?そんな事するはずもないではないか?

「もう少しですよ、カレリオ様。もう少しでお屋敷につきますから」

「寒いよ……」

 カレリオはそのままベッドに運び込まれ、魘されている。嫌な報告だったが、しなければならない。アルフォンスは叱責やクビも覚悟であった事を全て話した。しかしダグラスはアルフォンスに罰を与えることはなく、引き続きカレリオの護衛として働くことを望んだ。

「カレリオは意外とピンクの花などを好む。持って行ってやってくれ」

 そう言われ、はっとした。自分はカレリオが花を好むなんて知らなかったと。自分は主人であるカレリオの事を知ろうとしなかった。
 庭にもピンクの花はほとんどなく、庭師ですらカレリオの好みを知らなかった。この家の使用人全てがそんな感じだったのかもしれない。広い庭から一株だけあったピンク色のバラを貰い、ベッドサイドのテーブルに飾った。熱が落ち着いて眠っているカレリオはとても小さく儚く……いとおしく見えた。


「カレリオ、侯爵家を継げるほどの知識を早急に身に着け、カナンの作った不正や借金を埋めなさい。アルフォンス、カレリオを補佐するように」

 カレリオの熱が下がり、症状も落ち着いてくる頃になるとダグラスがカレリオの代わりに学園に行って、王太子の素行調査をするのだという。皆心配だったが、本人はとてもやる気に満ち溢れていて、止めようもなかった。残されたカレリオは学園の勉強ではなく、実践的な勉強を始めることになった。

「……えーと……あ、あの……」

 病み上がりなのに、机に向かっているカレリオは戸惑いながらもアルフォンスに声をかける。

「あ、あの……お花、ありがとう……毎日新しいのに替えてくれたのは君だろう?アルフォンス」

 照れているのか、使用人に感謝を伝えるのは初めてなのか……それより自分の名前を始めて呼んでくれた主人に心をわしづかみにされた瞬間だった。


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