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30 成るべくしてそうなった
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コリアンナ・セルウィッチは公爵令嬢であり、筆頭公爵ではないにせよ公爵家の一人娘として大切にそして……少々、いやかなり我が儘に育てられた。それは高位貴族にありがちな政略結婚により愛のない両親の間に生まれた唯一の子供であったという事もあり、彼女自身だけの問題ではなかった。
それでもやはり彼女の責任は大きい。5歳の頃から、王太子ジュリアンとの婚約者であった事も彼女の横暴さに拍車をかける事であり、それを諫めるはずの両親はコリアンナへの関心は薄かった。言えば何でも買い与えられ、気に入らなければ使用人に八つ当たりをし、辞めさせる。それがコリアンナの日常。最初は親身になってくれる使用人もいたが、彼らも限界を迎え、コリアンナが10歳になる頃には既に彼女の下僕しか周りにいなかった。
たまにお茶会で会うジュリアンもコリアンナの横暴さに閉口して、会いたがらず最低限の交流しか持たない。そのまま大きくなりついに学園へ入学したコリアンナは今まで通りの同じく振る舞った。
気に入らなければ怒ってクビにする。
ただ、学園の教授達にそれが通じない者が数人いたが、その教授の授業を受けないように、会わないようにすればなんとかなった。だからコリアンナの学園生活は彼女が思うように進んでいた。ただ、婚約者のジュリアンには相変わらず避け続けられていた。
「きっとコリアンナ様にお会いするのが恥ずかしいのではないでしょうか?コリアンナ様は美しいから」
「どんなことをしても公爵令嬢であるコリアンナ様を蔑ろにすることなど、王太子殿下とで出来ませんよ。何せ釣り合う令嬢がいないのですから」
特にコリアンナは美しいという訳ではない。むしろ特徴的な顔をしていると言っていい。父親にそっくりの丸い鼻とそんなに太っている訳ではないのに、たるみやすい顎が本来の体重より重そうに見せている、そんな女生徒だった。
「あらあら、そんなことありませんわ」
そう口にするが、コリアンナは絶対の自信を持っていた。このまま順調に学園を卒業し、王太子妃として立派に務め、更には王妃としてこの国の頂点へ上り詰める。それが当然であり、当たり前だと信じて疑っていなかった。
だからジュリアンが冷たい目で自分を見ても、いずれは打ち解け夫婦になるのだと確信していたのだ。
しかし、マリー・ロンドが現れて、コリアンナの絶対的自信が揺らぎ始めてきた。
「マリーは可愛い上にものすごい努力家で、それを鼻にかけない……本当にすごい女性だ」
マリー・ロンド。目立たないはずの茶色の髪の毛の一年生。それなのに、一度見ると忘れられない印象を持つ。美しい訳ではないのに目が離せない、そんな不思議な女生徒。しかしたかが田舎の子爵出という事でコリアンナは無視していたが、自分の婚約者である王太子ジュリアンの目に止まったとなると話は別である。
しかもジュリアンとその他の教授の意向で、マリーは高位クラスへ編入することになったというのだ。
「マリー・ロンドです。よろしくお願い致します」
圧倒的に非友好的な視線に晒されても、マリーが下を向くことはなかったし、そんな視線もくだらないという風に全部受け流す。マリーは心底強かった。
そして誰かがマリーに下らない悪戯を始めた。
「あーら、ごめんなさぁい?」
最初はペンでインクを数滴、白いブラウスへ飛ばすだけだったが、ドンドンエスカレートしていった。本当ならこのクラスで一番家柄が良いコリアンナが諫める事であったが、コリアンナには思いやる気持ちが欠けていたのでそれをすることはない。
「あらあら」
それしか言わないコリアンナ。知っていながら諫めないという事は了承したという事。虐めは公爵令嬢の後ろ盾を得て大きくなってゆく。
「醜い」
「そうですね」
ジュリアンですら顔を顰めるような責め苦だったが、マリーはさらりと受け流している。ついには汚れが落ちないブラウスですら平気な顔で着用する。ないものはないし、汚れが落ちない物は落ちないのだと。
「どうせまた同じことを繰り返されるのですし。その情熱を他のレベルアップにお使いになればいいのに」
「マリーは強いのね……」
「そうかしら?普通よ」
マリーは本当にそう思っているかもしれないが、同室のイザベラは慄いている。
「どうせあのクラスでは私は一番家柄が低いし、別に婚約者を探しに来たわけじゃないし、中央で暮らしたいわけでもないからかもね」
ふふっと笑うマリーをみてイザベラはマリーが早く下位のクラスに戻れると良いなと思い、マリーも戻りたいと思っていたが、事は王太子ジュリアンの思う方向へ進んでいたのだった。
それでもやはり彼女の責任は大きい。5歳の頃から、王太子ジュリアンとの婚約者であった事も彼女の横暴さに拍車をかける事であり、それを諫めるはずの両親はコリアンナへの関心は薄かった。言えば何でも買い与えられ、気に入らなければ使用人に八つ当たりをし、辞めさせる。それがコリアンナの日常。最初は親身になってくれる使用人もいたが、彼らも限界を迎え、コリアンナが10歳になる頃には既に彼女の下僕しか周りにいなかった。
たまにお茶会で会うジュリアンもコリアンナの横暴さに閉口して、会いたがらず最低限の交流しか持たない。そのまま大きくなりついに学園へ入学したコリアンナは今まで通りの同じく振る舞った。
気に入らなければ怒ってクビにする。
ただ、学園の教授達にそれが通じない者が数人いたが、その教授の授業を受けないように、会わないようにすればなんとかなった。だからコリアンナの学園生活は彼女が思うように進んでいた。ただ、婚約者のジュリアンには相変わらず避け続けられていた。
「きっとコリアンナ様にお会いするのが恥ずかしいのではないでしょうか?コリアンナ様は美しいから」
「どんなことをしても公爵令嬢であるコリアンナ様を蔑ろにすることなど、王太子殿下とで出来ませんよ。何せ釣り合う令嬢がいないのですから」
特にコリアンナは美しいという訳ではない。むしろ特徴的な顔をしていると言っていい。父親にそっくりの丸い鼻とそんなに太っている訳ではないのに、たるみやすい顎が本来の体重より重そうに見せている、そんな女生徒だった。
「あらあら、そんなことありませんわ」
そう口にするが、コリアンナは絶対の自信を持っていた。このまま順調に学園を卒業し、王太子妃として立派に務め、更には王妃としてこの国の頂点へ上り詰める。それが当然であり、当たり前だと信じて疑っていなかった。
だからジュリアンが冷たい目で自分を見ても、いずれは打ち解け夫婦になるのだと確信していたのだ。
しかし、マリー・ロンドが現れて、コリアンナの絶対的自信が揺らぎ始めてきた。
「マリーは可愛い上にものすごい努力家で、それを鼻にかけない……本当にすごい女性だ」
マリー・ロンド。目立たないはずの茶色の髪の毛の一年生。それなのに、一度見ると忘れられない印象を持つ。美しい訳ではないのに目が離せない、そんな不思議な女生徒。しかしたかが田舎の子爵出という事でコリアンナは無視していたが、自分の婚約者である王太子ジュリアンの目に止まったとなると話は別である。
しかもジュリアンとその他の教授の意向で、マリーは高位クラスへ編入することになったというのだ。
「マリー・ロンドです。よろしくお願い致します」
圧倒的に非友好的な視線に晒されても、マリーが下を向くことはなかったし、そんな視線もくだらないという風に全部受け流す。マリーは心底強かった。
そして誰かがマリーに下らない悪戯を始めた。
「あーら、ごめんなさぁい?」
最初はペンでインクを数滴、白いブラウスへ飛ばすだけだったが、ドンドンエスカレートしていった。本当ならこのクラスで一番家柄が良いコリアンナが諫める事であったが、コリアンナには思いやる気持ちが欠けていたのでそれをすることはない。
「あらあら」
それしか言わないコリアンナ。知っていながら諫めないという事は了承したという事。虐めは公爵令嬢の後ろ盾を得て大きくなってゆく。
「醜い」
「そうですね」
ジュリアンですら顔を顰めるような責め苦だったが、マリーはさらりと受け流している。ついには汚れが落ちないブラウスですら平気な顔で着用する。ないものはないし、汚れが落ちない物は落ちないのだと。
「どうせまた同じことを繰り返されるのですし。その情熱を他のレベルアップにお使いになればいいのに」
「マリーは強いのね……」
「そうかしら?普通よ」
マリーは本当にそう思っているかもしれないが、同室のイザベラは慄いている。
「どうせあのクラスでは私は一番家柄が低いし、別に婚約者を探しに来たわけじゃないし、中央で暮らしたいわけでもないからかもね」
ふふっと笑うマリーをみてイザベラはマリーが早く下位のクラスに戻れると良いなと思い、マリーも戻りたいと思っていたが、事は王太子ジュリアンの思う方向へ進んでいたのだった。
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