【完結】今度こそもふり倒す人生になれなかった平民の男の話〜俺の幸せどこ行った?

鏑木 うりこ

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39 適当にあしらう俺

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「ジュードオオオ!」

「グッ!?」

 馬乗りになったアデレードに首を絞められた。

「違う、私のあの人はそんなことをしなかった!私のあの人はそんなことを言わなかった!」

  しまった、何かアデレードの基準から外れた事を言ったんだ!苦しい、苦しい!俺は死にたくない!アデレードの腕をひっかいて、バタバタと暴れる。俺は……俺はまだ理想のもふらー天国を見ていない!死んで、死んでたまるかーーー!
 けり上げた足がちょうど脇腹に当たったらしく、緩んだ手から逃れ出せた。

「ぜーぜーっ!」

 危ない、目の前が暗くなりかけて落ちる所だった。もう少し絞められていたら普通に神様の所に送られるじゃないか!少し距離を取り、ギッと睨めば、アデレードは絶望した顔を少し綻ばせた。


「ああ、ジュード……私のジュード……!そう、その目だ……ああ、すまない、私が貴方を殺すなんてあり得ないのに!」

 ゆっくりと手を伸ばしてくる。これを払いのけてはいけない。今まで自分の首を絞めていた男の腕を振り払えないのはとても恐ろしいが、これを振り払うとまたおかしくなる。

「ジュード、ジュード殿、愛している……」

 アデレードが壊れて来た。俺は正しくあいつの記憶の中の「ジュード・スタイラント公爵」ではない。もふもふを知った俺はあの頃のガツガツしていたクソみたいな俺とは違う。と言うか今の俺は昔の俺とは別人だ。生まれ変わったんだからな!たまたま記憶がちょこーっとあるだけのもふもふを愛する心優しい人間なのだ。
 そんな俺にアデレードは「ジュード・スタイラント公爵」を求めている。まだ13歳の俺に38歳のスタイラント公爵と同じ振る舞いをしろって言う方が無理なんだ。

 だから当然ながら齟齬が出る。アデレードはそれを容認できなくなってきたんだ。バカだろう、俺の方が普通だ。だが、アデレードは異常な変態だった。

「ジュード……優しくするよ……いつもより、ずっとずっと優しく……」

 アデレードの締めた真っ赤な跡が付いた首に寄って気持ち悪く囁く。どうにかしないと、本格的に命が危なくなってきた。このままいくと俺だけじゃなく、セリカ様の命も危ない。壊れたアデレードが何をするかなんてまだまともな思考の俺たちには想像もできないし、俺が死んだらこの家に取り憑いている真っ黒泥闇が放置されてしまう。
 あの真っ黒泥の恨みの中から

 助けてー!

 って小さな声がまだまだ聞こえてくるんだから!あのモフモフたちを助けずに死ぬわけにはいかない!最近はアデレードの気持ち悪い目より、モフモフ達をいかに救出するかが大切になってきている。しっかし何人囚われているんだ!毎日早く助けて欲しい子を10人以上引っ張り出してるのに、真っ黒泥闇は一向に減らない!

「ジュード!ジュード!うっ」

 あ、もふもふ達の事を考えてたらアデレードが勝手にイッて終わったわ。俺、強くなったんじゃない?そして楽なことにアデレードは事後の睦を欲していない。あいつの好みはツンツンしている「スタイラント公爵」を無理やり組み敷いて、最後に睨まれて蔑まれるのが嬉しいんだ。


 とことん、変態だよな。


 だからあいつのお望み通り、ギリッと睨みつけて冷たそうな態度をとる。お前が毎晩来るせいで、俺は夜の時間にもふもふ救出が出来ないんだぞ!!因みにアデレードが来ているときは頭の上の黒猫もどこかに姿を消している。……あいつにアンアンしてるところを見られるのもイヤなので、そういう気遣いはありがたいけどな。

 早く消えろ!アデレード!俺はこれから深夜のお勤め、もふ救出タイムを堪能してから寝るんだから!


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