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59 逃げちゃいたい俺

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「どこへ向かっているんだ?」

「えーと……」

 神様からの指示はない。だから俺は自分の行きたい所に行く事にした。そう、前世でもう少しで完成するはずだった俺の可愛いもふもふ領だ。
 俺以外人間のいない、獣人と動物達の夢の楽園だ!もう行きたくて行きたくてしょうがなかったのに、今までアデレードのせいで自由に外に行けなかった。
 だが、今は違う!あいつは遠くの国に置いてきたし、勇者として旅が出来るんだ。お姉神様からの指令もないし、好きな所にちょこっと寄ったって良いだろう!?

「ここ、なんですけど」

 地図を広げて指を指す。

「我が父の領土の一部ですね。小さな獣人の村があるはず」

 冷静に言うのはルディウス・エゼルギル。魔法使い枠の俺より5.6上だろうか。青い髪に水色の目をしていて、見た目からして水魔法が得意ですって感じだ。
 大公、ギルバートの三男だという事だが、立場は微妙だろうな。まず父親の大公自体の立場も微妙だ。現王の弟であるが、王には息子が二人もいる。
 つまりは大公であるギルバートにはよっぽどの事がない限り王位は回って来ない。むしろ王から疎まれていると言っても良い。派閥で大公派と言うのが少なからずいる事を俺は知っている。
 しかし、そんな大公の息子であっても、三男の役割は長男のスペアのスペア以外の何者でもない。スペアのスペアのスペアみたいな立ち位置。

 それを逆転させるような事を囁かれたのだ。あの間違いなく変態のギルバートに。

「ジュード・ウィタスを籠絡せよ。我がエゼルギル家に連れてくるのだ。そして私に差し出すが良い。報酬はこの家の家督だ」

 って言ったに違いない!だってそんな目で俺を見てるもの!
 あくまで紳士的に、友好的に。勇者を支える魔法使いとして。友人として、仲の良い仲間であるように。
 そしてその水色の瞳の奥は、どうやって屈服させようかと言う陰謀と、どうやって父に取り入ったのだ?と言う強い侮蔑の色が隠しきれていない。

 というか、こいつら3人ともおんなじ目をしている。俺を年下だと思って侮っている。いつでも縄でもかけて、自分の家に引き摺り込めると思っているんだ、3人とも。
 ま、だから、牽制しあってちょうど良いんだけどね。馬鹿みたいだ。

「そこに何かあるのか?」

 少し脳筋っぽいゼファスト・ゴドウィンが首を傾げる。金髪に青い目の爽やか青年だが、こいつも父親から似たような事を言われているんだろうな。
 こいつの父親は前世の俺を縛り上げてはぁはぁしていた変態だが、こいつはどうなんだろう?変な血を受け継いでいるんだろうか?受け継いでなきゃ良いな。

「オーディナル神からのご啓示もありませんし、勇者様の御心のままに進まれるのも良いかもしれませんね」

 やばい血を継いでいないのなら、この神官のアザレア・シトリーだろう。養子って言ってたからね。しかしだからこそ義父の為に!って力が入ってる気がするのが困った所だ。茶色の髪に緑の目の優しそうな感じなのにやっぱり目の奥が怖い。

 全員腹に一物あって、動物が逃げちゃうタイプ。俺も逃げたい!

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