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番外編
91 シシュの葉っぱ4
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「兄上!あの葉っぱはお持ちですか!」
「シシェリア!持っておる!」
兄の口の中に半分に切れた葉っぱをねじ込む。
「口に入れたまま!王と王妃の元に!私は王太子様に!」
「!分かった!」
晩餐会の会場は苦しむ声に埋め尽くされていた。
「……私があの時、しっかりお止めすればこんな事には!」
王の一家が揃った晩餐会に酔った王弟殿下が乱入した。すぐに警備の者に取り押さえられるが
「お前達がいるから!」
小さな小瓶を叩きつけて中身をぶちまけたのだ。途端に紫色の煙が大きく広がって「これは吸い込んではいけないものだ」と警鐘がなった。全員は助けられない、この中で最優先で救わなければならない者を救う。
「王太子!王太子妃!失礼します!」
鹿様の葉っぱを半分に千切って無理やり口の中に押し込む。
「神獣様の葉です、御身をお守りくださるはず!」
「嘆かわしや」
「でも鹿様のお陰で死者は出ませんでした。お力添えありがとうございます」
王弟殿下の起こした事件はたくさんの貴族たちに大きな爪痕を残したが、鹿様の凄さがみんなに伝わった。
部屋に充満する毒の煙で人々が苦しむ中、庭に現れた鹿様は
「フー…‥」
薄く長く息を吐くと紫の煙は窓から逃げるように出ていき、空中で散って無害なものに変わってしまう。
「シシュや、扉を開けよ」
「!はいっ」
中庭に面したバルコニーを開け放つと、優美な動きだが、するはずの蹄の音は一つとして聞こえない。鹿様は倒れた王弟殿下の傍までやってくると、悲し気に見下ろした。殿下は毒の煙が出る瓶を割った。一番近くにいたのが自分だから、一番毒の被害を受けたのは本人なのだ。
「ねじくれ、歪んでしまった心をしておる。精進せよ、それまでお主の声は預かっておく」
この先、王弟殿下は喋る事が出来ないだろう。いつか、心の底から謝罪し、人々の為に働き、それが実る時に取り戻すかもしれない。鹿様は許してくださる方だ。
「後に病む者もおるであろう。それは報い、還るもの。いい機会じゃ、痛みを享受すると良い」
皆、ぽかんと鹿様の言葉を聞いていた。後始末を手伝ってから戻るがよいと鹿様の目が語っていたので、俺は頭を下げた。鹿様の白いお尻が闇に溶けて消えた途端、ゴホゴホとせき込んだり、血を吐いたりするもが続出する。
「兄上、ご無事ですか」
「あ、ああ……シシェリア。お前の給料はものすごい良い物だったんだな」
鹿様の葉を咥えていた俺と兄、王と王妃、王太子と王太子妃以外の人間は長い間この毒に苦しめられた。
「シシェリア、我らがこうして無事なのはお前のお陰だ。何か褒美をとらせたい」
たくさんの貴族があの毒の後遺症で苦しんでいるという。鹿様のお言葉通り、しっかり受け止めて欲しいと思う。俺は王に呼ばれ、そんなことを言われたが
「特に欲しいものはございません。私の欲しいものは王にですらどうしようもできないものですので」
「ほう?何が欲しいのじゃ、言うてみよ」
少しだけ不快そうに、でも何を言うのか楽しみだと王は薄く笑っている。
「もふもふでございます」
「もふもふ‥…、とな?」
うわー!なにこれ、凄いもふもふ~~~!その笑顔が俺は欲しい。
「私の髪の毛を手触りのいいもふもふにしてもらう事が、私の望みなのです」
ふむ、それではワシにはどうしようも出来んな、と王は笑った。
「せ、先輩の毛、す、すごいもふもふだ!す、すごい!すごい!」
こう言って毎日抱きつかれたい、そうすればあの森に居る腹黒い奴らも、魔王にも勝てるはずだ。
「シシェは……なんじゃ、毎日元気じゃのう」
「良いじゃないですか、ライバルは皆強烈なんです。私も頑張らないと勝てませんから」
今日もせっせと鹿様のお世話をしている。もしかしたら鹿様が俺をもふもふにしてくれるかもしれないしな。
「う、うむそうじゃの……たまには森に戻ってみてもいいかもしれんのう」
「あ、良いですね。行くときは手触りのいいうさぎのぬいぐるみでも持っていきましょう。喜んでくれるはずです」
大きなぬいぐるみを抱える姿はとても愛らしいだろうな。
鹿様がちょっと呆れた目をしているけれど、構うものか。毛の少ない俺達は工夫しないとジュードの心を掴めないんだから。
「しまった、葉っぱじゃぬいぐるみは買えないぞ!王からお金を貰えばよかったなあ」
俺はまた失敗したようだった。
番外編 シシュの葉っぱ 終
「シシェリア!持っておる!」
兄の口の中に半分に切れた葉っぱをねじ込む。
「口に入れたまま!王と王妃の元に!私は王太子様に!」
「!分かった!」
晩餐会の会場は苦しむ声に埋め尽くされていた。
「……私があの時、しっかりお止めすればこんな事には!」
王の一家が揃った晩餐会に酔った王弟殿下が乱入した。すぐに警備の者に取り押さえられるが
「お前達がいるから!」
小さな小瓶を叩きつけて中身をぶちまけたのだ。途端に紫色の煙が大きく広がって「これは吸い込んではいけないものだ」と警鐘がなった。全員は助けられない、この中で最優先で救わなければならない者を救う。
「王太子!王太子妃!失礼します!」
鹿様の葉っぱを半分に千切って無理やり口の中に押し込む。
「神獣様の葉です、御身をお守りくださるはず!」
「嘆かわしや」
「でも鹿様のお陰で死者は出ませんでした。お力添えありがとうございます」
王弟殿下の起こした事件はたくさんの貴族たちに大きな爪痕を残したが、鹿様の凄さがみんなに伝わった。
部屋に充満する毒の煙で人々が苦しむ中、庭に現れた鹿様は
「フー…‥」
薄く長く息を吐くと紫の煙は窓から逃げるように出ていき、空中で散って無害なものに変わってしまう。
「シシュや、扉を開けよ」
「!はいっ」
中庭に面したバルコニーを開け放つと、優美な動きだが、するはずの蹄の音は一つとして聞こえない。鹿様は倒れた王弟殿下の傍までやってくると、悲し気に見下ろした。殿下は毒の煙が出る瓶を割った。一番近くにいたのが自分だから、一番毒の被害を受けたのは本人なのだ。
「ねじくれ、歪んでしまった心をしておる。精進せよ、それまでお主の声は預かっておく」
この先、王弟殿下は喋る事が出来ないだろう。いつか、心の底から謝罪し、人々の為に働き、それが実る時に取り戻すかもしれない。鹿様は許してくださる方だ。
「後に病む者もおるであろう。それは報い、還るもの。いい機会じゃ、痛みを享受すると良い」
皆、ぽかんと鹿様の言葉を聞いていた。後始末を手伝ってから戻るがよいと鹿様の目が語っていたので、俺は頭を下げた。鹿様の白いお尻が闇に溶けて消えた途端、ゴホゴホとせき込んだり、血を吐いたりするもが続出する。
「兄上、ご無事ですか」
「あ、ああ……シシェリア。お前の給料はものすごい良い物だったんだな」
鹿様の葉を咥えていた俺と兄、王と王妃、王太子と王太子妃以外の人間は長い間この毒に苦しめられた。
「シシェリア、我らがこうして無事なのはお前のお陰だ。何か褒美をとらせたい」
たくさんの貴族があの毒の後遺症で苦しんでいるという。鹿様のお言葉通り、しっかり受け止めて欲しいと思う。俺は王に呼ばれ、そんなことを言われたが
「特に欲しいものはございません。私の欲しいものは王にですらどうしようもできないものですので」
「ほう?何が欲しいのじゃ、言うてみよ」
少しだけ不快そうに、でも何を言うのか楽しみだと王は薄く笑っている。
「もふもふでございます」
「もふもふ‥…、とな?」
うわー!なにこれ、凄いもふもふ~~~!その笑顔が俺は欲しい。
「私の髪の毛を手触りのいいもふもふにしてもらう事が、私の望みなのです」
ふむ、それではワシにはどうしようも出来んな、と王は笑った。
「せ、先輩の毛、す、すごいもふもふだ!す、すごい!すごい!」
こう言って毎日抱きつかれたい、そうすればあの森に居る腹黒い奴らも、魔王にも勝てるはずだ。
「シシェは……なんじゃ、毎日元気じゃのう」
「良いじゃないですか、ライバルは皆強烈なんです。私も頑張らないと勝てませんから」
今日もせっせと鹿様のお世話をしている。もしかしたら鹿様が俺をもふもふにしてくれるかもしれないしな。
「う、うむそうじゃの……たまには森に戻ってみてもいいかもしれんのう」
「あ、良いですね。行くときは手触りのいいうさぎのぬいぐるみでも持っていきましょう。喜んでくれるはずです」
大きなぬいぐるみを抱える姿はとても愛らしいだろうな。
鹿様がちょっと呆れた目をしているけれど、構うものか。毛の少ない俺達は工夫しないとジュードの心を掴めないんだから。
「しまった、葉っぱじゃぬいぐるみは買えないぞ!王からお金を貰えばよかったなあ」
俺はまた失敗したようだった。
番外編 シシュの葉っぱ 終
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