【完結】ポツン食らった悪役令息が大っきい人と幸せになる過程

鏑木 うりこ

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05 俺ではなく、私として

「ふう……」

 やっと自分の部屋で一人になれた私は大きくため息をついた。昨日の夜会のぽつーんから、今日の婚約解消まで「とりあえず」の処理を終わらせるのに忙しかったからだ。

「アウラリス・ディーズかぁ……」

 窓辺によって窓ガラスに映る自分の姿をぼんやりと確認する。アウラリスは非常に見た目麗しい美しい悪役令息だ。水色の長い髪をサラサラと揺らしながら歩いてくる様はまるで大和撫子を思わせる。Ωの生まれであるにも関わらず、芯の強さも見え隠れするようなディーズ家唯一の子供。
 家族から溺愛され、自由に育だちわがままではあるが、それを補って余りある美しさを有している。

「可愛いし、かっこいいし、クールな所もあるからファンも多い子なんだよねー!」

 妹の評価はそんな感じだった。分かる気はする。

「んで、Ωでしょ……やっぱりうひひであははな……」

 その情報を思い出してゾッとした。聖女を虐めて、さらには命まで危険に晒したアウラリスの末路は良く聞かなかったけれど、どうやら18禁で腐女子の妹がニヤニヤしちゃうエンディングになるようだ……断固阻止したい。

「そういえば「俺達」はどうなったんだろう……」

 何とか記憶の中をひっくり返して、確認してみる。うっすらと思い出せるのは、は、ここに来る前の俺達のこと……あまり裕福な家庭じゃなかった母さんと俺と妹はそれぞれ働き出し、出勤時間もバラバラなら、アパートに帰るのもバラバラなそんな生活を送っていた。
 たまたまその日はみんな同じくらいに仕事が片付き、近くのファミレスで久しぶりに揃って夕食でもしようか、なんて計画していた。最寄駅で待ち合わせ、揃って道路を横断していたら……暴走車両に突っ込まれた……暗くなりかけた辺りなのに、車のライトが妙に眩しくて大きかったことを最後にあっちの世界での記憶は途切れている。

「母さんも妹も一緒に跳ねられた気がする……二人は無事なんだろうか。それとも俺と一緒でこの世界にいるとか……?」 

 まったく何の情報もないが、もしこの世界にいて困っているなら助けてあげたい。俺は悪役令息で、オメガで、どうやら男と結婚させられるらしいが貴族という金持ちの恵まれた家庭に生まれた。だから没落しなければ金の心配はしなくていい一生を送ることができるだろう。

「そのためには没落は避けないとな」

 これは絶対条件になった。

「そして元のアウラリスは……」

 ぺったんこの胸に手を当ててみても、中に「俺」以外の存在を感じることはできない。体や頭の中にこの世界の常識や記憶はあるが、悲しい以外のアウラリスの思いや感情がほとんど残っていないのだ。うっすらとあれが好きだった、これは嫌だったというものはある……まるで残り香のように儚い想いばかり。それもどんどん消えていっている気がする。

「アウラリスは壊れていなくなってしまったんだろうな……」

 そうとしか思えない。もしかして以前からリズティーアやダレンと何か諍いがあって、最後にギリギリでアウラリスを繋ぎ止めていたモノがあの夜会で一人ぽつんと取り残された時に切れてしまったのかもしれない。あんなにアウラリスのことを心配してくれる両親もいるのに……そちらの愛より婚約者や義兄に重きを置いてしまったんだろう。アウラリス本人はもういないから真偽の程は分かりかねるが、そう考えるのがしっくりくる状況だと思う。

「この世界で「俺」、大丈夫かなぁ……」

 ふう、とため息をつくと目の前のガラスに映っためちゃくちゃ美しいアウラリスも憂い顔でため息をついた……可愛いな、本当に。

「こんな勝ち組の顔になってみたいって思ったこと、確かにある……なんか上手くやれそうな気がしてきた!」

 この顔で「俺」はない。今日から自分のことはしっかり「私」と認識して何とか生きていこうと思う。せっかく美形になったのに簡単に死んじゃうのも嫌だった。




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