百合綴り『それで、いい』~美月と紗良~

大山田

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第二十三話:潮風とお告げ

 駅のコインロッカーに荷物を預けた。
 「身軽って、いいね」と紗良が言った。その声は、過去の重荷から解放された、心の軽やかさを感じさせた。
 持っていくのは、サイコロと財布だけ。

 潮の匂いに誘われるように、ふたりは漁港へと向かった。

 港はにぎやかだった。朝市の名残か、威勢のいい声が響き、観光客や地元の人々で賑わっていた。
 魚の匂いと、炭火で焼かれた香ばしい匂いが混ざり合い、美月の食欲を刺激した。

 お店がずらりと並ぶ通り。
 美月が言う。

「どこに入るか、サイコロで決めようか」

 紗良は、嬉しそうに頷いた。腕まくりをして、まるで儀式のようにサイコロを振る。

 止まった目は「2」。

「二番のお店……あそこだ」

 美月が指差した先には、小さな海鮮食堂があった。店先には干物が並び、中からは威勢のいい笑い声が聞こえてくる。
 席に着いて、メニューにも番号を振る。再びサイコロ。

「四番……海鮮丼!」

 紗良は、目を輝かせた。

「お告げって、すごいね」

 その言葉は、サイコロの目が持つ運命的な意味を信じる、純粋な希望に満ちていた。
 その純粋さが、美月の心に刺さった。この子は、自分の未来を、私の手の中に委ねてしまっている。その重圧が、美月の胸にずしりと乗しかかった。

 料理は、とても美味しかった。新鮮な魚、甘い醤油、ふわりとしたご飯。口いっぱいに広がる海の幸。
 紗良は、何度も「おいしい」と言った。そのたびに、美月は自分のことのように嬉しくなった。

 漁港を歩きながら、ふたりは潮風に吹かれて笑った。
 頬を撫でる風は、少ししょっぱくて、でも心地よかった。

 そして、宿選び。
 今度もサイコロ。
 出た目は「民宿」。

 古い木造の建物。玄関には、チリン、と涼やかな音を立てる風鈴が揺れていた。
 女将さんが、優しい笑顔で迎えてくれる。

 部屋には、畳と、どこか懐かしい匂いがした。窓の外には、海が見えた。

「なんか、田舎のおばあちゃんちみたい」

 紗良が、美月の腕にしがみつくようにして言った。
 その言葉に、美月は少しだけ、胸が温かくなった。
 紗良にとって、故郷の家が「帰る場所」ではなかったからこそ、この民宿が「おばあちゃんち」のように感じられることが、美月にはひどく心温まることだった。同時に、美月は紗良を連れ出したことへの罪悪感から、この旅がいつか終わり、ふたりの穏やかな時間が失われてしまうことへの恐怖を感じ始めていた。
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