百合綴り『それで、いい』~美月と紗良~

大山田

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第二十四話:ありがとうの夜

 民宿のお風呂は、時間制の共同風呂だった。
 広くはないけれど、タイルの模様や、木の桶が懐かしく、ふたりは静かに湯に浸かった。

「なんか、昔のおうちみたいだね」

 紗良が言った。その声は、美月が以前感じた、どこか怯えた声ではなく、温かくて、穏やかだった。
 湯気に包まれながら、ふたりは、何も話さずにただ温まった。

 夕食は、漁港の街らしく豪華だった。
 刺身、焼き魚、貝の味噌汁……。食卓には、海の幸が溢れていた。
 他の宿泊客とも自然に会話が弾んで、紗良は少しだけ、笑顔が増えていた。
 美月は、そんな紗良の姿を横で見ながら、心の中で、安堵の息をついた。

 部屋に戻ると、浴衣に着替えた紗良が、神妙な顔でこちらを見ていた。

「ねぇ、先生」

 紗良は、美月の手を取り、その手のひらに、自分の頬をそっと寄せた。
 その感触は、少しだけひんやりしていて、でも、美月の心に直接触れるようだった。

「ありがとう。連れ出してくれて」

 その言葉は、小さく、しかし美月にとっては、何よりも重い、心からの言葉だった。
 美月は、少し驚いて、でもすぐに微笑んだ。

「いいのよ。ほら、またくっついて寝よ? おいで」

 美月がそう言うと、紗良は少しだけ涙ぐんだ。その瞳に、美月はもう迷いや恐怖の色ではなく、ただひたすらな愛と信頼を感じた。それは、美月にとって、何よりも嬉しく、そして、何よりも重いものだった。

 畳の部屋。ふかふかの布団。
 扇風機の音が、静かに、優しく回っている。
 ふたりは、くっついて寝た。

 ふたりの心も、
 ふたりの身体も、
 少しずつ、少しずつ、過去の傷からほどけていくように。

 夜の漁港は、静かだった。遠くで潮騒の音が聞こえる。
 でも、部屋の中には、ふたりだけの、確かな温もりがあった。

 それは、もう「依存」ではない。

 互いの存在を、ただ、必要とし合う、優しい温かさだった。

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