銀の髭、黄金の眼

遠影此方

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私は、どこにいるのだろう。

塔から離れた暗闇に、どこか懐かしい温度を感じる。

視界に現れたのは、草原だった。

天には月が煌めき、強い風が地の面を凪いでゆく。

私はその中で、一人立っている。

服装は変わらない。

白いワンピースは母から贈られた唯一つのもの。

靴は履いてはいない。

地の面を裸足で踏みしめるのは好きだから。

大地は優しい。

草原が、私の足を受け止める。

頬をなでる風はなぜか温かい。

今は夏なのだろうか。

遠くに、金色の髪が視界に映る。

私よりも大きく、たおやかなその足取り。

草原の中で、母は私に笑いかける。

私はその人に向けて駆けてゆく。

しかし、しばらくして、その足取りがやけに重い事に気付く。

どれだけ懸命に腕を動かし、地面を蹴っても。

母のそばに追いつかないのだ。

私は焦る。

なぜか、今追いつかなければ、母にもう二度と会えないような気がしたのだ。

四年前の面影は、幻影のように遠くで揺らぐ。

月光だけが、草原を優しく照らす。

私は、懸命に足を動かしてゆくうちに、私のうちの何かが、枷のように外れてゆく感覚を味わう。

そして次の瞬間、その枷は私の中で重い音を立ててはじける。

同時に、体は草原の中に駆けてゆく。

草むらの影を踏み越えて。

私は、母の元へとたどり着く。

母は、澄んだ金色の目をしている。

そばに佇んだ私に、何かをささやくが、その内容を私は聞き取る事が出来ない。

なぜか私は、母の目の前で大声を上げて泣いていたのだから。

こみ上げる感情は寂しさと悲しみに満ちている。

母は、私に別れの言葉を言おうとしているようだった。

その口元は寂しげに笑う。

私は母に向けて、両手を伸ばす。

掴むように、すがるように。

しかし、ひときわ強い風が吹くと、その金色の幻想は花びらが散るように掻き消えてしまう。

強く生きなさい、トリシャ。

最後に残された母の言葉が、胸の中で鐘の残響のように残っていた。
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