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37話 もう勘弁してほしい(キース視点)
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「ザシャ殿、ベアトリス妃殿下がお呼びでございます」
部屋で魔道具を作っていたら、ベアトリスの侍女が俺を呼びにきた。
勘弁してくれよ。またお姫様のお相手かよ。
俺は今はザシャと名乗り、魔法で髪色と瞳の色を変え、ベアトリスが王太子妃としてこの国に嫁ぐ時に国元から連れてきた従者としてこの城にいる。
元は隣国の魔導士。いや、今でも身分は隣国の宮廷魔導士団に所属しているキース・フェラーのはずなのだが不安だ~。
我が国の国王は野心家で近隣国を属国にして、国を大きくしていっている。
なんとかしてこの国を手に入れたいが、この国は軍事力が強く、戦争となれば自国も被害を受けそうだし、下手をすれば負けるかもしれないということで、娘を無理矢理、輿入れさせて、魔道具で魅了し、国を乗っ取る計画を立てた。
そして保険として、この国の王家とは血の繋がらない子供を王太子の子供と偽り産み、その後をその子を国王にして傀儡し、国を乗っ取る計画も進行させていた。
俺はたまたまこの国の王太子と同じ髪色で同じ瞳の色だったせいでお姫様様の腹に種を仕込む係を命じられてしまった。
最初は魔法で俺の種をお姫様の腹に移動させるくらいに考えていたのだが、そんな魔法は無く、リアルに閨事をして孕まさなくてはならないと知り愕然とした。
初めて会ったベアトリスは並みだった。飛び抜けて美しいとか、キラキラ輝いているではなく、あくまで普通の域を超えない。そのうえ、話をしていると、あまり賢くもないし、マナーも王女とは言い難かった。
やはり、王妃や高位貴族の令嬢だった側室から産まれた王女達とは全く違う。
聞けば、ベアトリスの母親は一応貴族で側室のひとりではあるが、行儀見習いにきていた男爵令嬢でその娘がベアトリスなのだそうだ。それなら並みでも仕方ない。
母親が高位貴族の教育を受けていないし、第8王女と順位も下の方のベアトリスは何の期待もされずに自由にさせてもらっていたのだろう。
今回も姉達は婚約者がいたので、ベアトリスに、白羽の矢が立ったらしい。
俺はベアトリスが嫁ぐ前の月の子供ができやすい日の前後1週間部屋に籠って子種を注ぎ続けた。ベアトリスは純潔ではなかったので、すんなり俺を受け入れた。もう俺の子種は残っていないのではないかと思うくらい俺は子種を出し尽くした。
そして嫁ぐ前に懐妊が発覚した。これで俺はお役御免と思っていたら、なぜかベアトリスが俺を気に入ったらしく、従者として連れて行くというのだ。
勘弁してくれよ。俺は野心もないし、ベアトリスにも興味はない。ただ王命で断れず子種を注いだだけだ。俺は魔道具を作ったり、魔法の研究をしていたいだけなんだ。
国王に呼ばれ「知らぬ国に嫁ぎ、淋しい思いをするであろう姫を慰めてやってほしい。ただし避妊は必ずせよ」と恐ろしい王命をもらった。
男娼かよ? ほんとに勘弁してくれよ。小心者の俺は断るけどもできず、今に至るわけだ。
この国に来てからはベアトリスの愚痴を聞き、王家や貴族の悪口を聞き、ベアトリスのご要望にお応えして閨事をするのが俺の仕事になった。情けないことこの上ない。そんな仕事をもう15年もしている。
まぁ、ベアトリスの悪事のために魔道具を作ったり、魔法を使ったりしているのがせめてもの慰めだろうか。
血は繋がっているが全く息子とは思えない我儘馬鹿王子のギルバートは髪色と瞳の色だけ俺に似た。顔や性格はベアトリスやベアトリスの母親に似ているな。怠惰で努力が嫌い。そして偉そうなところは国王に似ている。
俺を実の親だとも知らず、母親の従者だと思っているから、偉そうにこき使う。腹が立つたので、寝ている間に魔法で怖い夢を見せてやったり、ピーピーになり、ご不浄に駆け込まなくてはならないようにしてやっている。
今からまた閨事か。嫌だな。
いっそ逃げようか。
どうやらギルバートは馬鹿すぎて次期王太子の座をアビゲイル姫に取られるようだ。当たり前だ。あちらは本物の姫様だ。キレモノのヘンリー殿下と今は亡き公爵令嬢との間に産まれたのだ。
見た目もお美しく、性格も良く、頭も良い。高圧的な態度も取らず、常に穏やかで、我儘を言って使用人を困らせたりしない。次の王太子に相応しい。
しかし、アビゲイル姫が次期王太子と発表されたら、ベアトリスも俺も国王に消されるかもしれないな。
あ~寝返りたいなぁ。
国王陛下や王太子殿下に本当のことを言ったら保護してくれないだろうか? 保護してくれるなら、知ってることはなんでもペラペラ喋っちゃうよ。
嫌々ベアトリスの名ばかりの従者やってるんだし、旨みも何もないこんな仕事からそろそろ逃げたい。
そうは思っても小心者の俺は何も言わずベアトリスのいう通りにしているだけだ。
いっそ戦争になってあの国を滅ぼしてくれないかな?
仕方ない。ベアトリスのところに行くか。
俺は部屋を出てベアトリスの部屋に向かった。
◇◇◇
「キースさん、逃げたいのでしょう?」
突然、廊下ですれ違った子供に声をかけられた。
王城の廊下を子供が歩いているのも変だが、俺のことをザシャでは無くキースと呼ぶこの子は誰だ?
「私はあなたを助けに来たの。一緒に逃げましょう」
俺は反射的に頷いてしまった。
部屋で魔道具を作っていたら、ベアトリスの侍女が俺を呼びにきた。
勘弁してくれよ。またお姫様のお相手かよ。
俺は今はザシャと名乗り、魔法で髪色と瞳の色を変え、ベアトリスが王太子妃としてこの国に嫁ぐ時に国元から連れてきた従者としてこの城にいる。
元は隣国の魔導士。いや、今でも身分は隣国の宮廷魔導士団に所属しているキース・フェラーのはずなのだが不安だ~。
我が国の国王は野心家で近隣国を属国にして、国を大きくしていっている。
なんとかしてこの国を手に入れたいが、この国は軍事力が強く、戦争となれば自国も被害を受けそうだし、下手をすれば負けるかもしれないということで、娘を無理矢理、輿入れさせて、魔道具で魅了し、国を乗っ取る計画を立てた。
そして保険として、この国の王家とは血の繋がらない子供を王太子の子供と偽り産み、その後をその子を国王にして傀儡し、国を乗っ取る計画も進行させていた。
俺はたまたまこの国の王太子と同じ髪色で同じ瞳の色だったせいでお姫様様の腹に種を仕込む係を命じられてしまった。
最初は魔法で俺の種をお姫様の腹に移動させるくらいに考えていたのだが、そんな魔法は無く、リアルに閨事をして孕まさなくてはならないと知り愕然とした。
初めて会ったベアトリスは並みだった。飛び抜けて美しいとか、キラキラ輝いているではなく、あくまで普通の域を超えない。そのうえ、話をしていると、あまり賢くもないし、マナーも王女とは言い難かった。
やはり、王妃や高位貴族の令嬢だった側室から産まれた王女達とは全く違う。
聞けば、ベアトリスの母親は一応貴族で側室のひとりではあるが、行儀見習いにきていた男爵令嬢でその娘がベアトリスなのだそうだ。それなら並みでも仕方ない。
母親が高位貴族の教育を受けていないし、第8王女と順位も下の方のベアトリスは何の期待もされずに自由にさせてもらっていたのだろう。
今回も姉達は婚約者がいたので、ベアトリスに、白羽の矢が立ったらしい。
俺はベアトリスが嫁ぐ前の月の子供ができやすい日の前後1週間部屋に籠って子種を注ぎ続けた。ベアトリスは純潔ではなかったので、すんなり俺を受け入れた。もう俺の子種は残っていないのではないかと思うくらい俺は子種を出し尽くした。
そして嫁ぐ前に懐妊が発覚した。これで俺はお役御免と思っていたら、なぜかベアトリスが俺を気に入ったらしく、従者として連れて行くというのだ。
勘弁してくれよ。俺は野心もないし、ベアトリスにも興味はない。ただ王命で断れず子種を注いだだけだ。俺は魔道具を作ったり、魔法の研究をしていたいだけなんだ。
国王に呼ばれ「知らぬ国に嫁ぎ、淋しい思いをするであろう姫を慰めてやってほしい。ただし避妊は必ずせよ」と恐ろしい王命をもらった。
男娼かよ? ほんとに勘弁してくれよ。小心者の俺は断るけどもできず、今に至るわけだ。
この国に来てからはベアトリスの愚痴を聞き、王家や貴族の悪口を聞き、ベアトリスのご要望にお応えして閨事をするのが俺の仕事になった。情けないことこの上ない。そんな仕事をもう15年もしている。
まぁ、ベアトリスの悪事のために魔道具を作ったり、魔法を使ったりしているのがせめてもの慰めだろうか。
血は繋がっているが全く息子とは思えない我儘馬鹿王子のギルバートは髪色と瞳の色だけ俺に似た。顔や性格はベアトリスやベアトリスの母親に似ているな。怠惰で努力が嫌い。そして偉そうなところは国王に似ている。
俺を実の親だとも知らず、母親の従者だと思っているから、偉そうにこき使う。腹が立つたので、寝ている間に魔法で怖い夢を見せてやったり、ピーピーになり、ご不浄に駆け込まなくてはならないようにしてやっている。
今からまた閨事か。嫌だな。
いっそ逃げようか。
どうやらギルバートは馬鹿すぎて次期王太子の座をアビゲイル姫に取られるようだ。当たり前だ。あちらは本物の姫様だ。キレモノのヘンリー殿下と今は亡き公爵令嬢との間に産まれたのだ。
見た目もお美しく、性格も良く、頭も良い。高圧的な態度も取らず、常に穏やかで、我儘を言って使用人を困らせたりしない。次の王太子に相応しい。
しかし、アビゲイル姫が次期王太子と発表されたら、ベアトリスも俺も国王に消されるかもしれないな。
あ~寝返りたいなぁ。
国王陛下や王太子殿下に本当のことを言ったら保護してくれないだろうか? 保護してくれるなら、知ってることはなんでもペラペラ喋っちゃうよ。
嫌々ベアトリスの名ばかりの従者やってるんだし、旨みも何もないこんな仕事からそろそろ逃げたい。
そうは思っても小心者の俺は何も言わずベアトリスのいう通りにしているだけだ。
いっそ戦争になってあの国を滅ぼしてくれないかな?
仕方ない。ベアトリスのところに行くか。
俺は部屋を出てベアトリスの部屋に向かった。
◇◇◇
「キースさん、逃げたいのでしょう?」
突然、廊下ですれ違った子供に声をかけられた。
王城の廊下を子供が歩いているのも変だが、俺のことをザシャでは無くキースと呼ぶこの子は誰だ?
「私はあなたを助けに来たの。一緒に逃げましょう」
俺は反射的に頷いてしまった。
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