1 / 11
プロローグ(ブランシュ)
「結婚してもお前を愛することなどない」
オスカー様はそう言った。
「お前さえいなければ私は愛するキャサリンと幸せになれたんだ。お前は私たちの仲を引き裂こうとする悪女だ。お前のせいだ!」
馬鹿じゃないの? 私にだって好きな人はいたのよ。
私の好きな人、クロヴィス様は伯爵家の子息だったから侯爵家にたてつくことはできなかった。
私に『一緒に逃げよう』と言ってくれたけど、愛する人の未来を潰したくなかった。
貴族の娘に産まれたばっかりに、好きでもない男と結婚して、嫌な目に合わされながら生きていかなきゃならない。それでも貴族の娘に産まれてしまったのだから諦めるしかない。
キャサリン嬢と結婚したけりゃ私と婚約を解消すれば良かったんだわ。
私は伯爵の娘、オスカー様は侯爵の子息、伯爵家が侯爵家に断れる訳がない。結婚を申し込んできたのは侯爵家。侯爵閣下が頭を下げて頼んできたので父は断れなかった。
共同事業をしていたし、私は人質みたいなものだ。
私たちの仲を引き裂いたのはオスカー様の方よ。愛するクロヴィス様と泣く泣く別れ、私はアカデミーを卒業してすぐにオスカー様と結婚した。
結婚してからは、跡取りを作らなきゃいけないからと初夜はとりあえず済ませたけど、終わってすぐにオスカー様は恋人の元に行ったの。
酷いの閨事だった。まるで陵辱されているようだったわ。
私は出会ってからずっと、オスカー様に人としての尊厳を踏みにじられているような気がする。
義理の両親は良い人だった。私を無理矢理、息子の嫁にしたこともあり、後ろめたもあったのだろうが、私の事をとても大事にしてくれた。
なぜこんな良い人たちの子供なのにオスカー様はあんな人なのだろうと疑問に思ったが、きっとキャサリン嬢には良い人なのだろう。
家や領地のことなど全く感知せず「仕事が忙しい」と帰ってこないオスカー様に代わって、侯爵家の仕事を手伝う私に、義父母は手取り足取り教えてくれた。
私が産んだ最初の子供が娘だったと聞き、屋敷に顔を出したオスカー様は『わざと女を産んだのか? そんなに私と閨事がしたいのか?』と言った。
私は吐いた。神経が高ぶり、衝動的に自死しようとした私に、義母は何度も何度も謝ってくれた。
「あんな息子で恥ずかしい。産むんじゃなかった」と言った。
医者に子供ができやすい日を割り出してもらい、オスカー様に陵辱された。愛など何もない、人間の尊厳も踏みにじられただけだった。
ふたり目の子供は男の子だった。
子供たちはまともな人間になるように育てた。
私は子供たちに好きな人と結婚しろと言った。家の為の結婚ならしなくていい。私のようになってはいけないと言った。
私は義両親と一緒に領地の産業を盛り立てて、利益を出した。
我が領地は潤うようになっていった。
娘のクラウディアを嫁がせ、息子のミッシェルにも幼馴染のサンドラちゃんがお嫁さんが来てくれた。サンドラちゃんの両親もうちの事情はよく知っている。
ミッシェルは小さい頃から義父母や私と一緒に侯爵家の仕事をしていた。私たちはミッシェルに仕事を教え込んだ。義父は全く家に寄りつかず侯爵の仕事もしないオスカー様ではなく、孫のミッシェルに爵位を譲った。
オスカー様は義両親が亡くなったら侯爵を継ぎ、私を追い出し、キャサリン嬢と結婚するつもりだったらしい。
あの日、オスカー様は屋敷にやってきた。
「お前のせいだ! お前が父上をたらし込んで私が爵位を継げないようにしたのだ! やっぱりお前は悪女だ! 死んで私に詫びろ!」
私に向かって走ってきた。きらりと光モノが見えた。
どんと身体に衝撃を受けた。痛みが襲ってきた。
身体の中から赤い液体が湧き出てきた。
「母上!」
「お義母様!」
ミッシェルとサンドラちゃんが駆け寄ってきた。
あぁ、私はオスカー様に刺されたのか。死ぬんだな。私の人生ってなんだったのだろう?
侯爵家の血は繋いだ。ミッシェルは跡取りとしてちゃんと育てた。これでお役ごめんだな。
ふとオスカー様の方を見ると義父や私設騎士に取り押さえられている。
真実の愛の為に私を殺したかったのだろうか?
ふたりで幸せに暮らしていたじゃない。私はあの時、クロヴィス様と引き離され、その後は会うこともなかったのよ。
オスカー様が自分勝手なことをしている間、私は侯爵家の為に生きてきた。
何もしなかったあなたに渡すモノなんて何もないわ。
だんだん目が霞んできた。もうおしまいかしら?
神様、今度生まれ変わることがあるのなら、私はクロヴィス様と結婚したい。
クラウディアもミッシェルもクロヴィス様の子供として産まれてきてほしい。
次の人生は愛し愛されて幸せになりたい。
そして、あの人もキャサリン嬢と結婚すればいい。
クロヴィス様と結婚できず、幸せになれないのならもう生まれ変わらなくていいわ。
またこんな人生なら生きる意味がないものね。
「母上! 母上!」
「お義母様!」
「ブランシュ!」
「ブランシュ!」
「若奥様!」
みんなが私の名前を呼んでくれているのね。
頑張った甲斐があったわね。
みんなありがとう。もう行くわね。
私は目を閉じた。
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は結婚前日に親友を捨てた男を許せない
有川カナデ
恋愛
シェーラ国公爵令嬢であるエルヴィーラは、隣国の親友であるフェリシアナの結婚式にやってきた。だけれどエルヴィーラが見たのは、恋人に捨てられ酷く傷ついた友の姿で。彼女を捨てたという恋人の話を聞き、エルヴィーラの脳裏にある出来事の思い出が浮かぶ。
魅了魔法は、かけた側だけでなくかけられた側にも責任があった。
「お兄様がお義姉様との婚約を破棄しようとしたのでぶっ飛ばそうとしたらそもそもお兄様はお義姉様にべた惚れでした。」に出てくるエルヴィーラのお話。
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
(完)婚約破棄ですか? なぜ関係のない貴女がそれを言うのですか? それからそこの貴方は私の婚約者ではありません。
青空一夏
恋愛
グレイスは大商人リッチモンド家の娘である。アシュリー・バラノ侯爵はグレイスよりずっと年上で熊のように大きな体に顎髭が風格を添える騎士団長様。ベースはこの二人の恋物語です。
アシュリー・バラノ侯爵領は3年前から作物の不作続きで農民はすっかり疲弊していた。領民思いのアシュリー・バラノ侯爵の為にお金を融通したのがグレイスの父親である。ところがお金の返済日にアシュリー・バラノ侯爵は満額返せなかった。そこで娘の好みのタイプを知っていた父親はアシュリー・バラノ侯爵にある提案をするのだった。それはグレイスを妻に迎えることだった。
年上のアシュリー・バラノ侯爵のようなタイプが大好きなグレイスはこの婚約話をとても喜んだ。ところがその三日後のこと、一人の若い女性が怒鳴り込んできたのだ。
「あなたね? 私の愛おしい殿方を横からさらっていったのは・・・・・・婚約破棄です!」
そうしてさらには見知らぬ若者までやって来てグレイスに婚約破棄を告げるのだった。
ざまぁするつもりもないのにざまぁになってしまうコメディー。中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。途中からざまぁというより更生物語になってしまいました。
異なった登場人物視点から物語が展開していくスタイルです。
能ある妃は身分を隠す
赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。
言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。
全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。
妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。
しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。
それを指示したのは、妹であるエライザであった。
姉が幸せになることを憎んだのだ。
容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、
顔が醜いことから蔑まされてきた自分。
やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。
しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。
幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。
もう二度と死なない。
そう、心に決めて。
生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。