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第2話「この村では、名前をつけてはいけない」
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手紙の文面を何度も読み返す。
たった一行。けれど、まるで心の奥を撫でられたように、言葉が響いていた。
――「はじめまして。あなたが来るのを、ずっと待っていました」
私は、手紙を机の上にそっと置いた。
何かが始まる気がして、でも、何も起きないかもしれない気もする。
この村の空気は、そういう“曖昧”でできている。
ドアの向こうで、カラランと鈴の音がした。
「……誰か来た?」
私は玄関の扉を開ける。そこには、小柄な女の子が立っていた。
年の頃は十歳くらいだろうか。青い髪に白い帽子、麦わら色のバッグを肩にかけている。
「あのー……ここ、郵便小屋ですよね?」
「……はい。今日から、管理人をしています」
「よかった!」
ぱあっと彼女の顔が明るくなる。
「お願いがあります! 手紙、預かってもらえませんか?」
「もちろん。宛先は……?」
彼女は小さく首を振る。
「……宛先は、“まだ決まってない”んです」
私は思わず、黙ってしまった。
だけど彼女は、まるでそれが当然であるかのように、淡々と続けた。
「この村では、“名前をつけてはいけない”んです。
ものにも、人にも。だって――名前があると、消えてしまうから」
その言葉を、私は理解できなかった。けれど、彼女の瞳には、真剣な色があった。
「だからこの手紙も、“宛て先のないまま”渡しておきます。いつか、届くと信じて」
私は黙ってうなずき、手紙を受け取る。
封は閉じられていたが、ほんのりと、ラベンダーの香りがした。
少女は礼を言って去っていった。名前も名乗らず、足音も残さず。
手紙の束が二つ。
私の分と、あの子の分。
この村には、時計がない。名前もない。けれど、
たしかに、誰かの思いだけが、ここに届きつつある。
(つづく)
たった一行。けれど、まるで心の奥を撫でられたように、言葉が響いていた。
――「はじめまして。あなたが来るのを、ずっと待っていました」
私は、手紙を机の上にそっと置いた。
何かが始まる気がして、でも、何も起きないかもしれない気もする。
この村の空気は、そういう“曖昧”でできている。
ドアの向こうで、カラランと鈴の音がした。
「……誰か来た?」
私は玄関の扉を開ける。そこには、小柄な女の子が立っていた。
年の頃は十歳くらいだろうか。青い髪に白い帽子、麦わら色のバッグを肩にかけている。
「あのー……ここ、郵便小屋ですよね?」
「……はい。今日から、管理人をしています」
「よかった!」
ぱあっと彼女の顔が明るくなる。
「お願いがあります! 手紙、預かってもらえませんか?」
「もちろん。宛先は……?」
彼女は小さく首を振る。
「……宛先は、“まだ決まってない”んです」
私は思わず、黙ってしまった。
だけど彼女は、まるでそれが当然であるかのように、淡々と続けた。
「この村では、“名前をつけてはいけない”んです。
ものにも、人にも。だって――名前があると、消えてしまうから」
その言葉を、私は理解できなかった。けれど、彼女の瞳には、真剣な色があった。
「だからこの手紙も、“宛て先のないまま”渡しておきます。いつか、届くと信じて」
私は黙ってうなずき、手紙を受け取る。
封は閉じられていたが、ほんのりと、ラベンダーの香りがした。
少女は礼を言って去っていった。名前も名乗らず、足音も残さず。
手紙の束が二つ。
私の分と、あの子の分。
この村には、時計がない。名前もない。けれど、
たしかに、誰かの思いだけが、ここに届きつつある。
(つづく)
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