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第12話「この村では、最後の一通だけが“名前”を持っている」
しおりを挟む今日も、手紙は届いていた。
けれど、違っていた。
封筒には、はっきりと“宛名”が記されていた。
――「高城 美沙」
それは、私の名前。
この村に来てから、誰もその名を呼ばなかった。
私自身も、心の中から遠ざけていた名だった。
封筒の中には、便箋と、もう一つ――小さなキーホルダー。
懐かしい、駅の売店で買ったもの。私が最後に、誰かに渡せなかった“贈り物”。
便箋には、こう書かれていた。
「私は、あなたの手紙を受け取っていたよ。ただ、返事を書くのが怖かっただけ。あなたを、ひとりにしてしまって、ごめんなさい」
筆跡を見た瞬間、胸の奥が一気にざわめいた。
それは、高校時代の友人――私が最も信じ、そして最も深く傷ついた人の文字だった。
あの頃、私は一通の手紙を出した。
「助けて」とも「話を聞いて」とも書けずに、ただ「また、会えたらいいね」と書いた中途半端な手紙。
返事は、なかった。
それが、私の心を“壊した”と思っていた。
だけど――違った。
返事は、遅れて届いただけだった。
時間も空間も、たぶん世界すら越えて。
私は静かに、便箋を読み終えた。
そして、小さく笑った。
「……ありがとう。遅れてなんかないよ」
ポストの横に立つ少女が、そっと言った。
「ようやく、“名前”のある手紙が届いたね」
私はうなずく。
「最後の一通。これは、返事じゃなくて、“再会”だね」
この村では、名前を持った手紙は、ひとつだけ。
それは、もう一度“自分”に会うための手紙。
今まで書けなかった言葉を、ちゃんと届けるための手紙。
私は机に向かい、新しい便箋に名前を書いた。
――宛先:高城 美沙
――差出人:わたし
「会いたかったよ」
それだけを書いて、私は、ポストに入れた。
風が吹き、空がひときわ明るくなった。
(つづく)
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