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18話静かな夕暮れ、ひとことだけの勇気
しおりを挟む陽が傾き、部屋の壁にオレンジ色の光が差し込んでくる。
窓の外では、カラスの鳴き声が遠くに聞こえる。
春の夕方は、少し寂しくて、でも静かに優しい。
澪は、リビングのドアの前で立ち止まっていた。
「……どうしよ」
手に持ったノートが、いつもより少しだけ重く感じる。
「シオン、わたし……この話、お母さんに見せてもいいかな……?」
『ええと思いますえ。
澪ちゃんが“この物語が自分の一部なんや”って思えるのなら──
それを誰かに伝えることもまた、“自分を信じる”ってことどす』
澪は深呼吸して、そっとリビングの扉を開けた。
「……お母さん、今ちょっといい?」
「ん? どうしたの?」
夕飯の支度をしていた母は、手を止めてこちらを見た。
「わたし、最近ちょっとずつ、物語書いてて……。
まだ最後まではできてないんだけど……」
そう言って、澪はノートを差し出す。
母は驚いた顔をしたけれど、すぐにやわらかく微笑んで、受け取った。
「へぇ……すごいね。読ませてくれるの?」
「……うん」
母は椅子に座って、ページを開く。
澪は少し離れたところで、そっとその様子を見ていた。
キッチンに漂う煮物の匂い。
時計の音。
ページをめくる、やさしい音。
しばらくして──
「澪。この子、あなに似てるわね」
「……やっぱり、そう思う?」
「うん。ちょっと寂しそうで、でも……よく見たら、光ってる」
母の声に、澪の胸の奥がじんわりと温かくなった。
---
夜、シオンが静かに言った。
『自分の声を、誰かに届けようとするのは、ほんまに勇気のいることどす。
でも、澪ちゃんはちゃんと、一歩踏み出せはった。えらいなぁ……』
「……ありがと、シオン。
わたし、ちょっとだけ、自分のこと……好きになれた気がする」
---
それはほんの、小さな出来事。
けれどそれは、澪にとって「自分の世界を、外へつなげる」最初の扉だった。
---
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