幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん

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5.

 決定的だったのは、結婚一周年の夜会でした。

 王都の有力貴族が集うその夜会は、私たち夫婦の結婚一周年を暗に祝う意味も込められていました。ここできちんと夫婦らしく振る舞えば、白い結婚の噂も多少は薄まる。そう考えて、私は深い藍色のドレスを選び、伯爵夫人として完璧な装いを整えました。

 会場に入ってすぐ、アルフレッドは私の手を離しました。

「シルヴィの姿が見えない。少し探してくる」

「今夜は、私たちの――」

 そこまで言いかけて、飲み込みます。言ったところで、彼の優先順位が変わるはずもありません。

「……お気をつけて」

「ああ、すぐ戻る」

 戻りませんでした。

 私は一人で挨拶をこなし、笑顔を貼り付け、夫婦そろって受けるはずの祝辞にも一人で応じました。何人かの婦人は露骨に同情の目を向け、逆に若い令嬢の中には面白がるような視線を向ける者もいました。

 少しだけ息をつきたくなって中庭へ出ると、噴水の向こうから声が聞こえました。

「奥様を放っておいて、よろしいのですか?」

 シルヴィの声です。甘く細く、男が守ってやりたくなるように計算し尽くされた声。

「レティシアなら大丈夫だ。ああいう女は強いから」

 足が止まりました。

 回廊の蔦の影。そこに、アルフレッドとシルヴィが並んで立っていました。シルヴィは淡桃色のドレスで彼の腕に指を掛け、アルフレッドはそれを拒むでもなく受け入れています。

「でも、公爵令嬢様でしょう? 怒らせたら怖いわ」

「怒るなら怒ればいい。どうせ彼女は伯爵家を捨てられない」

 心臓が、妙に静かになりました。

「彼女は有能だ。屋敷も領地も、ずいぶん整えてくれた。正直、手放す理由がない」

「では、私が伯爵邸に出入りするのではなく……住むようになっても?」

 シルヴィが試すように首を傾げます。

 アルフレッドは一瞬のためらいのあと、低く言いました。

「ああ。レティシアには理解してもらう」

 理解してもらう。

 また、その言葉でした。

 白い結婚も。
 放置も。
 軽視も。
 幼馴染への際限ない庇護も。
 そして、妻の家に幼馴染を住まわせることさえ。

 全部、私が理解するのが当然だと思っている。

 その瞬間、不思議なくらい感情が凪ぎました。

 怒りも悲しみも通り越して、ああ、もう終わりなのだと悟ったのです。
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