幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん

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 それから半年後、私とローゼンベルク伯爵家の婚姻は正式に解消されました。

 父は一言も私を責めませんでした。むしろ「遅いくらいだ」と言って苦笑し、母は黙って私を抱きしめてくれました。マルタは「だから泣けるうちに泣けって言ったでしょう」と笑い、エマは手紙で「今のレティシア様は前よりずっと綺麗です」と書いて寄越してくれました。

 薬舗は以前より忙しくなり、私は調合室を任されるようになりました。ノア先生の診療所とも連携し、女性や子どものための相談窓口も始めています。役に立てるのが嬉しいのは変わりませんが、それはもう誰かに利用される苦しさとは別物でした。

 自分で選んで、自分の足で立っている。

 その実感が、日々の支えになっていました。

 ある初夏の朝、店先で鉢植えの薬草に水をやっていると、ノア先生が白い封筒を手にやってきました。

「おはようございます」

「おはようございます。今日は往診では?」

「その前に、どうしても渡したいものがあって」

 封筒の中には、押し花の栞が入っていました。リュミエールの崖に咲く青い花を丁寧に閉じ込めたものです。以前、私が綺麗だと言った花でした。

「覚えていてくださったのですね」

「もちろんです」

 あまりにも自然に言われて、胸がくすぐったくなります。

 彼は少しだけ緊張した面持ちで、私の前に立ちました。

「以前、焦らなくていいと言いました。でも、やはりきちんと伝えたい」

 風が吹き、鉢植えの葉が揺れます。

「あなたが笑っていると嬉しい。無理をしていないか気になる。薬を選ぶ時の真剣な顔も、子どもにしゃがんで目線を合わせるところも、全部尊敬しています」

 一言ずつ、確かめるように紡がれる言葉。

「もしよければ、これから先もあなたの隣で生きていきたい。ゆっくりで構いません。あなたの人生に、私も並んで歩かせてもらえませんか」

 私は目を閉じて、短く息を吸いました。

 欲しかったのは、こういう言葉だったのだと、心の底から思います。

 理解しろ、ではなく。
 我慢しろ、でもなく。
 便利だからそばにいろ、でもなく。

 ただ、隣を歩きたいと願ってくれる人。

 私は栞を胸元に抱きしめて、微笑みました。

「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 ノア先生――もう、そう呼ぶのも少し遠い気がしました――は、心からほっとしたように笑いました。
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