『灼熱の太陽針の月★絶海の孤島』

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お笑い四銃士の筈だった

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何処かで聞き覚えのある音だった。
空気を切り裂くような音と共に鋭く何かを打つような音。
 夢と現の狭間にいたノーランマークは、その音に合わせるように背中に鋭い痛みが走った気がして飛び起きた。
 それはすぐに夢だと分かったが、あの時ラムランサンに打たれた背中の傷痕が疼いていた。
 その背中は汗でベタつき何とも不愉快な寝覚めだった。
 枕元の時計に目をやると何時もの起床時間より五分早い。
 その五分が肉体労働者に成り下がった身の上には、ことの他貴重だった。
 深い溜息をつきつつノーランマークはのろのろと身を起こした。
 その時、再び鋭い音が鳴り響いて反射的に身が縮まった。

「何だ何だ…クソっ!」

 二度寝には短く、起きるには惜しい微妙な時間帯だ。
 だがそんな事も言ってはおられずに簡単に身支度を整え、部屋の外に飛び出した。
 またしても鋭い唸りが響き渡り、それが鞭の唸りだとノーランマークは確信した。
 それは台所の方から聞こえて来た。

「わあっ!凄いまたヒットですね!さすがラム様。百発百中ですね」

 何事かと台所に飛び込むと、朝っぱらから騒々しく手まで叩いて喜ぶイーサンの姿と、その傍らで鞭を振り回しているラムランサンの姿があった。

「お前ら、何やってるんだ朝っぱらから。オレの貴重な睡眠時間をどうしてくれるんだ!」

「おはようノーランマーク。起き抜けにイーサンの悲鳴が聞こえたのでね」

 ラムランサンはたいがい東南アジア風の長いサロンを身につける事が多かった。
 均整の取れた立ち姿は、神秘的なアジアの神を思わせる。
 今日も朝からそんな隙のない佇まいでノーランマークの前に穏やかな顔で立っていた。

「凄いんだよ!ラム様の鞭は本当に凄い!朝台所に来てみたらゴキブリの家族が運動会してたんだ。そこでラム様が素早く逃げ惑うゴキブリを目も止まらぬ速さでビシバシと仕留めたんだ。ね?ラム様」

 床を見ると点々とゴキブリがひっくり返って絶命している。
 その光景にイーサンだけでは無くラムランサンまでも手を叩いて喜んでいたのだ。
 あまりの下らなさにノーランマークは脱力した。

「鞭もよもやこんな事のために使われるとは思ってもみなかったろうなあ。なるほど、オレも練習台の1匹だったと言う事か」

 ノーランマークはチクリと嫌味を言ってラムランサンを見遣った。

「ああそう言えば最近、手応えのないゴキブリを一匹、はねた気がするが…今朝のゴキブリ達の方が多少骨があったかな?」

 嫌味のお返しとばかりに、涼しい顔でチラリとノーランマークを一瞥する。
 それが誰のことを言っているのかは一目瞭然だった。悔し紛れにすかさず言い返した。

「ついでに片付けて行ってくれませんかね。いくらゴキブリとは言え放置プレイは気の毒だ」

「ハハっ!嬉しそうな変態ゴキブリも稀にいるみたいだが?」

 ノーランマークとラムランサンの間で静かな嫌味合戦が繰り広げられているのも知らずにイーサンはせっせと転がっているゴキブリ掃除をしていた。

「朝早くから楽しそうで良いですねえ。皆さん、おはようございます」

 カップを乗せたソーサーを手に、紅茶をかき回しながら台所にロンバードが現れた。

「おはようございます、ロンバードさん。ラム様にゴキブリ退治をして貰っていたんです」

 イーサンは自分で捕まえたような自慢げな顔で、チリトリに拾い集めたゴキブリ達をランバードに披露した。

「これはこれは、まあ良く肥えて。早速、ホウ酸団子を作りませんと、あっという間に増えますからね。何処かにきっと巣があるんですよ。1匹見かけたら何千匹とか誰かが言ってましたよ。はて、誰でしたかねぇ?
…さて、今日のお天気は…」

 惚けた物言いで紅茶を啜り、台所に置いてあるラジオのスイッチを入れると、微かなノイズの向こうから、淡々としたニュースを読む声が、切れ切れに聞こえて来た。

[……ました………氏は、アモン首相の兄で、一部には国家転覆を図っていた首謀者では、と言われる人物でした。彼の死亡事故によりアモン首相は………]

 一瞬、その場の空気が張り詰めたのが分かった。
 微妙だったニュースの声が音楽にすり替わる。
 ロンバードが咄嗟に電波の調節をするふりで違うチャンネルに合わせたのだ。
 ロンバードの声色は変わらなかった。ラムランサンの表情も眉一つ動かない。
 けれどニュースが流れた瞬間、確実に空気が張り詰めたのをノーランマークは肌で感じ取った。

「なあ、これって、このニュースってあの首相が‥‥兄貴をついに‥‥」

「ノーランマーク。このラジオ、後で電池交換をお願いしますよ」

 間髪入れずにロンバードが明らかに言葉を遮った。まるで黙れとでも言うように。
 あの時話していた兄殺しが実行されたのだ。改めてノーランマークの背中に冷たいものが流れた。
 首謀者は紛れもなくアモン首相その人だ。
 そして己はそれを知っている。
 ラムランサンに視線をやったが、特に何も変わらない。
 しかし纏った空気の色が明らかに違うとノーランマークは感じ取っていた。

「ラム様、そろそろお戻りを。朝食をお持ちしますので。イーサン、ラム様の食器は念入りに磨く事。ゴキブリ退治の後ですからね」

「勿論です。ラム様、卵はスクランブルが良いですか?目玉にしますか?」

 恐らく何も知らないイーサンが今の空気には救いだった。
 ラムランサンは短く「スクランブルを」と、言っただけでロンバードを伴い自室へと引き上げて行った。

 この日は朝からイーサンの悲鳴で騒がしかったが、夜はラムランサンの悲鳴が城に響き渡ることになるのだった。


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