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12月31日 16時50分の危機
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駅前から少し外れた場所にこじんまりとした花屋がある。
そこに働く若い店主の名前は撫川。
グレーのトレーナーに赤いエプロン。優しげで綺麗な顔立ちの青年だ。
撫川は今年の営業は本日の15時までと決めていた。
だが客は開店と同時に引っ切り無しにやって来て、撫川は狭い店内に所狭しと置いてある予約の花束やアレンジメントフラワーを次々と客に手渡していき、漸くさっき電話の駆け込み注文があった花束作りへと着手した。
31日15時10分。
予約の客は10分遅れで花束を取りに来た。
正月らしく松と南天を使った見事な撫川の大作を受け取ると、
互いに良いお年をと挨拶を交わし、撫川は今年最後の客を見送った。
closeと書かれたボードを入り口に下げると、どっと疲れが襲ってくるが、気持ちを奮い立たせて散らばる店内を猛然と片付けて行く。
それもその筈、今年の春に同棲し始めた刑事の久我がそろそろやって来る時刻なのだ。
カランコロン。
何処か懐かしい音を立て、夜気と共に店のドアが開らかれた。
「悪い!遅くなった!後藤さんが暴れちゃって宥めるのに大変で…大変で!」
ガタイの良い久我が店に入ってくるだけで狭苦しく感じるが、
そんな事すら愛おしいとばかりに撫川は久我へと抱きついた。
「お帰りなさい。ご苦労さまでした!僕の方も今終わとこ」
「ただいま。蛍、君も大変だったな」
久我は華奢な撫川を抱きしめてクリスマスからの彼の忙しさを労った。
さすが新婚夫婦。二人は抱き合いながらリップ音を立ててお帰りのキスを交わした。
「わっ!久我さん唇冷たい!冷え冷えだ!」
「だろう?冷えた俺をもっとあっためてくれないか?」
動き回って少し熱を帯びた撫川の頬に久我は冷たい己の頬を擦り寄せる。ついでに頬や首筋やあらゆる場所に口付けた。
「やん、くすぐったい、……あ、ん、ダメ。お出かけできなくなるからっ」
久我からの求愛行動に撫川の身体の体もボルテージが上がって来る。このままだと花屋の冷たい作業台に易々と押し倒されてしまいそうで、撫川はやんわりと久我の胸を押しとどめた。
「一緒になって初めてのお正月だから今夜は二人で年越しそばを食べて鐘を突くって…」
「君の指を食べて君を突くのじゃダメ?」
「もうっ、すぐそう言うこと言う!」
少し怒ったフリをしている撫川の指を久我は纏めて握り締め、色気を含む熱っぽい眼差しで撫川を見つめながら中指をちゅと吸い上げた。
「あ…っ、」
思わず色っぽい声が撫川の唇から漏れた。
久我は撫川の反応を伺いながら形の良い爪先を甘噛みし、ゆっくりと生暖かい己の口腔へと導いた。
ぬるりとした久我の口腔内が撫川の指腹を擦り立て、その刺激と隠微な光景にズクッと撫川の下肢が熱く疼いた。
お出かけの決意が一瞬萎えかけたが、この日の撫川は欲望に負けてはいなかった。
「ダーメ!ダメダメだめ!今日はダメ!僕、お蕎麦食べたら着物とか着て初詣もしたいんだ!」
「ええ?!初詣は良いとして着物は無理じゃないか?」
折角盛り上がったのにとぶーたれた久我の目の前に撫川がジャン!と小さなチラシを見せつけて来た。
久我はじっと目を凝らす。
「藤城呉服店、31日の着物レンタル、着付け承ります。
17時まで営業…?」
「えっ?17時?17時までなんて書いてあった?」
「よく見ろ、ほらここに小さく書いてある」
撫川はチラシを凝視し、店の時計をチラと見た。
現在17時50分。俄に撫川は焦り始めた。
「ダメだ!早く行こう!」
「え?!マジで?!」
「マジだから!早く!行こう!」
「マジでぇ?ここは一つ諦めてイチャコラしない?」
「後で!!」
甘いムードは吹き飛んで、久我は撫川に急き立てられながら店を飛び出すハメになっていた。
二人は果たして間に合うのか?!
そこに働く若い店主の名前は撫川。
グレーのトレーナーに赤いエプロン。優しげで綺麗な顔立ちの青年だ。
撫川は今年の営業は本日の15時までと決めていた。
だが客は開店と同時に引っ切り無しにやって来て、撫川は狭い店内に所狭しと置いてある予約の花束やアレンジメントフラワーを次々と客に手渡していき、漸くさっき電話の駆け込み注文があった花束作りへと着手した。
31日15時10分。
予約の客は10分遅れで花束を取りに来た。
正月らしく松と南天を使った見事な撫川の大作を受け取ると、
互いに良いお年をと挨拶を交わし、撫川は今年最後の客を見送った。
closeと書かれたボードを入り口に下げると、どっと疲れが襲ってくるが、気持ちを奮い立たせて散らばる店内を猛然と片付けて行く。
それもその筈、今年の春に同棲し始めた刑事の久我がそろそろやって来る時刻なのだ。
カランコロン。
何処か懐かしい音を立て、夜気と共に店のドアが開らかれた。
「悪い!遅くなった!後藤さんが暴れちゃって宥めるのに大変で…大変で!」
ガタイの良い久我が店に入ってくるだけで狭苦しく感じるが、
そんな事すら愛おしいとばかりに撫川は久我へと抱きついた。
「お帰りなさい。ご苦労さまでした!僕の方も今終わとこ」
「ただいま。蛍、君も大変だったな」
久我は華奢な撫川を抱きしめてクリスマスからの彼の忙しさを労った。
さすが新婚夫婦。二人は抱き合いながらリップ音を立ててお帰りのキスを交わした。
「わっ!久我さん唇冷たい!冷え冷えだ!」
「だろう?冷えた俺をもっとあっためてくれないか?」
動き回って少し熱を帯びた撫川の頬に久我は冷たい己の頬を擦り寄せる。ついでに頬や首筋やあらゆる場所に口付けた。
「やん、くすぐったい、……あ、ん、ダメ。お出かけできなくなるからっ」
久我からの求愛行動に撫川の身体の体もボルテージが上がって来る。このままだと花屋の冷たい作業台に易々と押し倒されてしまいそうで、撫川はやんわりと久我の胸を押しとどめた。
「一緒になって初めてのお正月だから今夜は二人で年越しそばを食べて鐘を突くって…」
「君の指を食べて君を突くのじゃダメ?」
「もうっ、すぐそう言うこと言う!」
少し怒ったフリをしている撫川の指を久我は纏めて握り締め、色気を含む熱っぽい眼差しで撫川を見つめながら中指をちゅと吸い上げた。
「あ…っ、」
思わず色っぽい声が撫川の唇から漏れた。
久我は撫川の反応を伺いながら形の良い爪先を甘噛みし、ゆっくりと生暖かい己の口腔へと導いた。
ぬるりとした久我の口腔内が撫川の指腹を擦り立て、その刺激と隠微な光景にズクッと撫川の下肢が熱く疼いた。
お出かけの決意が一瞬萎えかけたが、この日の撫川は欲望に負けてはいなかった。
「ダーメ!ダメダメだめ!今日はダメ!僕、お蕎麦食べたら着物とか着て初詣もしたいんだ!」
「ええ?!初詣は良いとして着物は無理じゃないか?」
折角盛り上がったのにとぶーたれた久我の目の前に撫川がジャン!と小さなチラシを見せつけて来た。
久我はじっと目を凝らす。
「藤城呉服店、31日の着物レンタル、着付け承ります。
17時まで営業…?」
「えっ?17時?17時までなんて書いてあった?」
「よく見ろ、ほらここに小さく書いてある」
撫川はチラシを凝視し、店の時計をチラと見た。
現在17時50分。俄に撫川は焦り始めた。
「ダメだ!早く行こう!」
「え?!マジで?!」
「マジだから!早く!行こう!」
「マジでぇ?ここは一つ諦めてイチャコラしない?」
「後で!!」
甘いムードは吹き飛んで、久我は撫川に急き立てられながら店を飛び出すハメになっていた。
二人は果たして間に合うのか?!
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