零れ落ちる想いの花

花霞

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私を想って……

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 暫く泣いた後落ちついた友雪に、美姫は先に帰るように促し、1人、公園の街灯の下に立っていた。

暗くなってしまった公園に美姫を1人でいさせたくないと、友雪が心配そうに言うのを少女は家がすぐそこだから大丈夫だと言い切り、何度も何度も振り返る青年の背を、笑顔で見送った。

少女は青年が見えなくなった後、口元を抑えてその場にしゃがみ込んだ。せり上がってくる悪心に眉根を寄せ、必死にそれを飲み込もうとするが、喉元まで上ってきた異物が気管を圧迫し、たまらず吐き出した。

 ゴホゴホと咳き込み、砂利の上へと落ちた吐瀉物を目にして美姫はくしゃりと顔を歪める。

「さいっあくっ」

 吐き出された言の葉は目の前に広がる小ぶりの花に向けられている。震える手で黄色い花を1つ摘まんで持ち上げた。独特の形をした小さな花の花弁は大部分が鮮やかな黄色だが、中心部が茶色く、その部分だけを見ると、蝶のような模様に見える。

「……パンジー」

 呟きと同時にその花をギュッと握りつぶし、少女の口から嗚咽が零れ落ちる。嗚咽と共に再び花を吐きだし、溢れた涙はくしゃくしゃになった花弁を濡らしていく。


 少女の脳裏を掠めるのは、辛そうな顔をして目の前から去った幼馴染の姿。美姫は苦し気に息を吐き出し、ノロノロと立ち上がって、空を見上げる。

 雲ひとつない紺色の空には、キラキラと輝く星と、明るく公園を照らす白銀の月。茶色の瞳に映し出されたその風景は、嫌になるくらい、綺麗だった。

 いっそ雨でも降ってくれたらいいのに、と少女は内心で独り言ち、とめどなく流れる涙を拭うことなく、その場に立ち尽くす。


 そしてグルグルと先ほどのやり取りが何度も頭の中に浮かんでは消えていく。横目で盗み見た、彼の緊張した顔。精一杯告げた言葉。自分の気持ちを認識して悲痛な色に染まった顔。それら全てが壊れたフィルムみたいに何度も何度も再生されていた。

 再び襲ってきた吐き気に抗うこともなく、色とりどりの花を吐き散らす。口の中に残った花びらを噛み、口に広がった苦味にまた涙が落ちた。


 分かっていた事だった。
 覚悟していた事だった。
 でも彼が否定してくれないかと、ちょっとだけ期待してしまったのだ。


 ……自分でとどめを刺したくせに。


「……馬鹿、だなぁ」

 自分に向けて放たれた言葉は、吐き出された花々の上に落とされた。
 眼前に広がる花はそのほとんどがパンジーだった。少女はポケットにしまってあった花言葉辞典を開き、その意味を瞳に映した。



――『私』を想って……



 ボロボロと涙を零しながら少女は笑う。笑いながら泣いて、この恋の花は咲くことなく枯れるのだと、足元にある花を踏みつけた。
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