時空間を駆ける者たち

桐原真保

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3章 涼介らはインディー映画の関係者と話をする

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 映画サークルはその「坂の上の道化師」というインディー映画を見に行った。
 小さな映画館で座席は半分ほど空席だった。
 予想通り、内容はどこかで見たようなものだった。細かいところの作りや色彩が独特な味を出しているものの、内容は「ライ麦畑でつかまえて」にインスピレーションを得たもの、悪く言えば数あるライ麦畑模倣作品だった。感受性豊かで自分の将来が見えない若者が旅をし、人々と様々な交流をするというものだ。
 それでも、見ているうちに引き込まれる映画だった。出会う人々やそのエピソードはライ麦畑の物よりもマイルドで多彩だ、と彼は感じた。
「学校にも家庭にも行き場がなく、自殺をするために断崖絶壁にたどり着き、あわやと言うところで気軽に声をかけられて戸惑う女子学生」
「なけなしの大切なものを盗まれ、明日の食べ物にも困る母子が止むに止まれず盗みをしてしまう」
「都会に疲れた女性が歳を取り、田舎の小学時代の担任を尋ねた。しかし先生は女性のことをよく覚えていなくてがっかりする話」
 どこかで一度は見聞きした、心のどこかに響く切なさを含むエピソードばかりだった。
 特に一つのエピソードに涼介は心を打たれた。
「両親が経済的に不遇な時に田舎の祖父母の家にしばらく預けられていた主人公。祖父は機械いじりが好きで、新しいものに興味津々でコンピューターに関心を示す。主人公が教えてあげると喜んでくれた。祖父の御墓参りでそのことを思い出す主人公」
 それは涼介の大叔父を思い出させた。

 映画を見た後、参加した一年生サークル会員五人は近くのカフェに入った。
「何て言うか、心にグサグサ来る映画だったね。いやだ、心に沁みて来るう、って感じで」葵が彼女独特の表現で感想を語る。「都会ですごく華やかな仕事をしている、って田舎に手紙を書き続けた女の人の話があったでしょ。そのうち歳をとって色々絶望して、結局田舎に帰った人。主人公のタクは女の人が羽振りが良かった時の思い出しかないので懐かしそうに話しかけるんだけど、女の人にひどく拒絶される…。私にも親戚にそんなおばさんがいるから、身につまされるんだ」
 皆は葵の言葉にうなづいている。
「涼介君はどうだった?」
 葵が涼介に話を振る。涼介は大叔父のことに話した。
「僕の大叔父さんは田舎では結構な秀才で、街に出て仕事をしていた。一時は会社も作って羽振りが良かったらしい。でも時代の流れかな。大きな会社が進出して来ると業績が悪化して倒産してしまったらしい。それから苦労して結局田舎に帰ってたんだけど、その時に僕は仲良くしてもらった。で、大叔父さんはコンピューターの勉強をしたいと言ってたよ」
 皆は静かに聞いている。
「僕は高校三年で、受験の直前だった。時々は教えてあげたけど、時間が足りなかった。今思えば、あの時もっと教えておいてあげたら大叔父さんは喜んだのに、と思う」
「大叔父さんは今はどうしてるの」葵が尋ねた。
「行方不明なんだ。借金とか色々あって、ある日姿を消して、それっきりどこへ行ったか誰も知らない」
「…」

 コーヒーショップの入り口付近に賑やかな声がして、6、7人の人々が入って来た。映画の終わった後で舞台挨拶をした、あの映画関係者たちだとすぐわかった。彼らはソファやラブチェアなどが無造作に置かれた一角に思い思いに座った。
 葵が立ち上がり、彼らに近づいて話しかけている。フェドーラ帽に口髭あご髭の洒落た中年男性がサークル仲間を振り返る。葵が嬉しそうな顔をして戻ってきた。
「ご一緒にどうぞだって。さあ、食べ物飲み物を持って移動よ」

 サークル仲間はそれぞれ小さい椅子を引いて、映画関係者たちが会話するのを邪魔しないように、遠巻きにして座った。
「私が映画監督およびプロデューサーの鏑木と言うものです。よろしく」
 フェドーラ帽の男性が話をして周りの人間は静かに聞いていたが、そのうち皆は打ち解けてきた。
 涼介と葵の側にはローサと呼ばれる女性が座った。髪はショートカットではっきりした顔立ち、スラリと背が高く、いかにも映画関係者らしく派手な風貌の女性だった。
「蓮見さんに桐生さんね。気に入っていただいて嬉しいわ。特に印象的だったところを聞いていいかしら」
「いい映画を見た後にいつも起こること何ですけど」涼介は言った。「印象的な場面がしばらく心のスクリーンに焼きついて離れないんです。今回の場面は田舎の祖父がコンピューターを主人公から習うところでした。それは僕の大叔父を思い出させたんです」
「まあ、それは素敵なことね。大叔父さんはお元気?」
 涼介は大叔父の行方が知れないことを言った。
 ローサはゆっくりとうなずいた。

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