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6章 奇妙な黒服男の登場は不穏なきざし?
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その二日後の水曜日、授業を終えた涼介は課題のレポート作成のために図書館で数時間を過ごした。午後遅く図書館を出た。
帰り道、いつもの商店街を通りながら妙な気配を感じた。誰かが自分を見ている気がする。涼介はそのままゆっくり歩いた。もう少し行くと右手に路地がある。そこへ抜けて回り道してまた元の道に出ることができる。
路地に来た時に涼介はぱっと振り返った。商店街を歩く買い物客たちの向こうに、黒い背広に薄い色つきメガネの男の姿があった。
「なんだい、まるでB級漫画に出てくる悪役じゃないか、ふざけたヤツ!」
と涼介はつぶやいた。
涼介は素早く路地に入ると小走りに駆け出した。50メートル程走ると左に曲がり、そのまま早足で歩く。商店街の通りに平行して歩く涼介だが、次の左への曲がり角が見えて来た時、どうしようか迷った。まだあの妙な男がいるのではないか。
涼介は左に曲がり、商店街の本通りに出た。
黒服の男はいなかった。
携帯が鳴る音で涼介は目が覚めた。その夕方、下宿の夕食のメンチカツ定食でご飯を腹一杯おかわりしたら、部屋に戻った後寝てしまったらしい。
携帯の表示は「葵」と出ている。映画同好会の仲間、桐生葵だ。
「涼介くん。もう下宿に帰っているよね」
「ああ。自分の部屋にいる。何か?」
「ねえ、涼介くんも手紙を受け取ったでしょ、委員会からの」
「えっ、ああそうか…」
当然のことだ。葵も小学六年の時に同じプログラムを受けていたのだ。ということは、他にも何人? 確か40人ほどだったか。
「手紙っていうかアンケートが来てから何日かあとだけど、うちの家に電話がかかって来たの。その人が言うには、詳しいことは言えないけどプログラムの継続と追跡調査が必要で、協力をお願いするかもしれないって。それで今日、うちの家に委員会の人が来たのよ」
「何と、家に来たのかい!」
「うちの親は昔からああだったから。飛んでるっていうか」
そうだった。涼介は思い出すと両肩から力が抜けるのを感じた。
プログラムに選出された子供達の家庭が多かれ少なかれ困惑する中、桐生葵の親は違った。彼らは超常現象などの異様なことが好きで、そもそも、それが縁で大学時代に知り合ったらしい。娘が異様な能力を持つかもしれないと感じていて、教育開発プログラムに選出された時はワクワクしたという。選ばれた子供達の親の中で、このプログラムのただ1組の親の会としてバックアップを了承したとも聞く。
「で、委員会は涼介くんにも会いたいんだって。今夜遅くに携帯に連絡するって言ってたわ」
「ふん…。やなこった」
あの黒服はその前振りか。
「そんなこと言わないで、話を聞いてあげて。どうして私に先に連絡して来たかわかる? 涼介くんが拒絶すると思ったからよ」
「あったりまえじゃん」
「どうしても大切なことらしいわ。大げさかもしれないけど、私たちだけじゃなく周りの人々にも関わることらしい…。お願い」
ただ事じゃなさそうだな。葵の話を聞くうちに涼介の気持ちは軟化した。老人たちの気まぐれか名誉欲で始めたプログラムだと思っていた。しかしここにきて復活させようとしている。それも親の会に頭を下げてだ。
「わかった。その人たちが来たら、話だけは聞くことにする」
「良かった」
葵はホッとため息をついた。涼介は会話の終了ボタンを押した。
帰り道、いつもの商店街を通りながら妙な気配を感じた。誰かが自分を見ている気がする。涼介はそのままゆっくり歩いた。もう少し行くと右手に路地がある。そこへ抜けて回り道してまた元の道に出ることができる。
路地に来た時に涼介はぱっと振り返った。商店街を歩く買い物客たちの向こうに、黒い背広に薄い色つきメガネの男の姿があった。
「なんだい、まるでB級漫画に出てくる悪役じゃないか、ふざけたヤツ!」
と涼介はつぶやいた。
涼介は素早く路地に入ると小走りに駆け出した。50メートル程走ると左に曲がり、そのまま早足で歩く。商店街の通りに平行して歩く涼介だが、次の左への曲がり角が見えて来た時、どうしようか迷った。まだあの妙な男がいるのではないか。
涼介は左に曲がり、商店街の本通りに出た。
黒服の男はいなかった。
携帯が鳴る音で涼介は目が覚めた。その夕方、下宿の夕食のメンチカツ定食でご飯を腹一杯おかわりしたら、部屋に戻った後寝てしまったらしい。
携帯の表示は「葵」と出ている。映画同好会の仲間、桐生葵だ。
「涼介くん。もう下宿に帰っているよね」
「ああ。自分の部屋にいる。何か?」
「ねえ、涼介くんも手紙を受け取ったでしょ、委員会からの」
「えっ、ああそうか…」
当然のことだ。葵も小学六年の時に同じプログラムを受けていたのだ。ということは、他にも何人? 確か40人ほどだったか。
「手紙っていうかアンケートが来てから何日かあとだけど、うちの家に電話がかかって来たの。その人が言うには、詳しいことは言えないけどプログラムの継続と追跡調査が必要で、協力をお願いするかもしれないって。それで今日、うちの家に委員会の人が来たのよ」
「何と、家に来たのかい!」
「うちの親は昔からああだったから。飛んでるっていうか」
そうだった。涼介は思い出すと両肩から力が抜けるのを感じた。
プログラムに選出された子供達の家庭が多かれ少なかれ困惑する中、桐生葵の親は違った。彼らは超常現象などの異様なことが好きで、そもそも、それが縁で大学時代に知り合ったらしい。娘が異様な能力を持つかもしれないと感じていて、教育開発プログラムに選出された時はワクワクしたという。選ばれた子供達の親の中で、このプログラムのただ1組の親の会としてバックアップを了承したとも聞く。
「で、委員会は涼介くんにも会いたいんだって。今夜遅くに携帯に連絡するって言ってたわ」
「ふん…。やなこった」
あの黒服はその前振りか。
「そんなこと言わないで、話を聞いてあげて。どうして私に先に連絡して来たかわかる? 涼介くんが拒絶すると思ったからよ」
「あったりまえじゃん」
「どうしても大切なことらしいわ。大げさかもしれないけど、私たちだけじゃなく周りの人々にも関わることらしい…。お願い」
ただ事じゃなさそうだな。葵の話を聞くうちに涼介の気持ちは軟化した。老人たちの気まぐれか名誉欲で始めたプログラムだと思っていた。しかしここにきて復活させようとしている。それも親の会に頭を下げてだ。
「わかった。その人たちが来たら、話だけは聞くことにする」
「良かった」
葵はホッとため息をついた。涼介は会話の終了ボタンを押した。
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