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21章 いつかまた、その時のために
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涼介は山本の部下に座席から起こされて気がついた。立ち上がると、山本らは後部座席を並び替え、簡易ベッドにしてその上に毛布を置いている。
「ここで休んでください」
涼介ら四人は横になった。車はのろのろと動き出し、近くの公園らしきところに移動した。車が止まり、静かになると涼介は毛布にくるまり眠りに落ちた。
「本当にありがとう。君たちのおかげでこの国は救われた」
翌日、涼介らは都内の病院に入院していた。大事をとって、二日間は検査入院をするように計らわれたのだ。相変わらず口を「へ」の字に結んだ深沢本部長が涼介らを病院に見舞った。不機嫌そうな顔つきは同じでも、声の調子は少し穏やかかな、と涼介は思った。
涼介は体を起こした。
「何が…どんな風になったんですか。済みません、頭がまだボーッとしてて考えられないんで」
ドヤ顔で一歩前に出たのは吉田だった。会議で教育開発プログラムの執行部部長と紹介された人だ。
「君たちの力で奴らを撃退したんだよ。それこそ私たち、いや君たちのためのプログラムが狙っていたものだった。詳しいことは今後説明していくが、君らの力のうちの『衝撃波』とでも言う能力を使ってもらったんだ」
「衝撃波…」
「申し訳ないが、今はそれ以上言えない。まだまだ本格的な訓練は今後の予定だったんだ。今回は緊急措置として君たちに無理を承知でやってもらった。おっと!」
吉田は慌てて付け加えた。「今、衝撃波を再現しようとしてもムリだよ。これも申し訳ないが、新たなマイクロチップで抑制している」
「…」
「今はともかく、ゆっくり体を休めてくれ」
涼介はうなずいた。
退院する前に病院の小さなミーティングルームで山本調査員とその部下ら話し合った。これまでの疑問点を明らかにし、今後のことを考えるためだった。
「ローサと呼ばれていた女性と他の二人は、作戦前にお話ししておいた通り、時空の隙間に飛ばされました。彼らはしばらくさまようでしょうが、いずれは帰り道を見つけて戻ってきます…彼らの本来の世界に。そこからは彼らの世界で適切に対処されるでしょう。テロ計画の調査も全て向こうの世界が行います」
涼介らは静かに聞いていた。ローサらは無事で、また元の世界に戻れると確認してホッとしたのだ。例え犯罪を犯したとしても、それで行方不明になったままでは罰として重すぎると思われた。
涼介には尋ねるべきことがたくさんあった。
「ローサとともに僕が行った世界…。あれは何だったのでしょうか」
「彼ら、ローサと呼ばれた人々の住む世界だと思われますが、違うかもしれない。彼らがどの程度、他の世界に自由にジャンプできるかによります」
「僕の大叔父さんに会わせる、と言われて付いて行きました。大叔父さんにそっくりに見えたけど…違うと思いました」
「専門家の先生にお聞きになった方がいいですね」山本は言った。「でも、私が思うに、それはやはり大叔父さんだったと思いますよ。別の世界での。この世界でのあなたの大叔父さんではなくて」
「ああ、なるほどね。言ってることわかります」
自分の本当の大叔父、この世界に住む大叔父の行方はいつか知れるだろう、と涼介は思った。
「ローサというその人物は、大叔父さんに対するあなたの思いを利用しました。あちらの世界で本来なら起こらない出来事を起こそうとしたのです。あなたが力を発揮したら、その世界の時空に亀裂ができるところでした」
「えっ、あの時ですか? パソコンの前で?」
「そうです。危ういところで踏みとどまってくれましたね」
涼介は深くため息をついた。
「それで僕らはどうなるのですか」
「皆さんは、普通の生活に戻っていただけるでしょう。今回の出来事は政府関係者の尽力により、極秘に扱われてきました。一部の関係者だけが継続して関わり続けますが、それも普通の人々の知らないところで行われます」
確かに、病院のテレビを見てもニュースになっていなかった。涼介らはそれを知り、拍子抜けしたのだ。
葵が心配そうな顔つきで言った。
「でも、また同じことが起きる可能性はありませんか。鏑木さんたちは、そちらの世界も地球の私たちの世界と同じように技術の進歩は起きていると言いました。いずれまた、もっと強力な技術力を備えた人々が侵入してきたら…」
「可能性はゼロではないです」山本は言った。「そのためにもちろん、注意は怠れません。申し上げたように、皆さんに奨学金は継続します。万が一の時にはベテランとしてアドバイスをお願いするでしょう」
「ベテラン?」
涼介は首を傾げた。
「一線を退いて、という意味です。常にあなた方のジュニア世代が見出され、戸惑いながらもあなた方の歩みを辿るのです」
「あ、そうですね」
涼介は納得した。
「もう一つだけ質問が…」涼介は言った。「これは研究者の人々ももわからない、とおっしゃってましたが、なぜこの国、日本に、僕たちのような変わった人間が多いのでしょう」
葵や他の二人も同意でうなづいた。
「研究者の方々でもわからないのですから」山本は珍しく笑顔になった。「私の素人考えですが、ごく普通のダーウィニズムではないでしょうか」
「…」
「適者生存です。日本の特殊な地学的環境には、その環境に適合した生物が多い…。どうですか」
涼介らは肩をすくめた。
了
「ここで休んでください」
涼介ら四人は横になった。車はのろのろと動き出し、近くの公園らしきところに移動した。車が止まり、静かになると涼介は毛布にくるまり眠りに落ちた。
「本当にありがとう。君たちのおかげでこの国は救われた」
翌日、涼介らは都内の病院に入院していた。大事をとって、二日間は検査入院をするように計らわれたのだ。相変わらず口を「へ」の字に結んだ深沢本部長が涼介らを病院に見舞った。不機嫌そうな顔つきは同じでも、声の調子は少し穏やかかな、と涼介は思った。
涼介は体を起こした。
「何が…どんな風になったんですか。済みません、頭がまだボーッとしてて考えられないんで」
ドヤ顔で一歩前に出たのは吉田だった。会議で教育開発プログラムの執行部部長と紹介された人だ。
「君たちの力で奴らを撃退したんだよ。それこそ私たち、いや君たちのためのプログラムが狙っていたものだった。詳しいことは今後説明していくが、君らの力のうちの『衝撃波』とでも言う能力を使ってもらったんだ」
「衝撃波…」
「申し訳ないが、今はそれ以上言えない。まだまだ本格的な訓練は今後の予定だったんだ。今回は緊急措置として君たちに無理を承知でやってもらった。おっと!」
吉田は慌てて付け加えた。「今、衝撃波を再現しようとしてもムリだよ。これも申し訳ないが、新たなマイクロチップで抑制している」
「…」
「今はともかく、ゆっくり体を休めてくれ」
涼介はうなずいた。
退院する前に病院の小さなミーティングルームで山本調査員とその部下ら話し合った。これまでの疑問点を明らかにし、今後のことを考えるためだった。
「ローサと呼ばれていた女性と他の二人は、作戦前にお話ししておいた通り、時空の隙間に飛ばされました。彼らはしばらくさまようでしょうが、いずれは帰り道を見つけて戻ってきます…彼らの本来の世界に。そこからは彼らの世界で適切に対処されるでしょう。テロ計画の調査も全て向こうの世界が行います」
涼介らは静かに聞いていた。ローサらは無事で、また元の世界に戻れると確認してホッとしたのだ。例え犯罪を犯したとしても、それで行方不明になったままでは罰として重すぎると思われた。
涼介には尋ねるべきことがたくさんあった。
「ローサとともに僕が行った世界…。あれは何だったのでしょうか」
「彼ら、ローサと呼ばれた人々の住む世界だと思われますが、違うかもしれない。彼らがどの程度、他の世界に自由にジャンプできるかによります」
「僕の大叔父さんに会わせる、と言われて付いて行きました。大叔父さんにそっくりに見えたけど…違うと思いました」
「専門家の先生にお聞きになった方がいいですね」山本は言った。「でも、私が思うに、それはやはり大叔父さんだったと思いますよ。別の世界での。この世界でのあなたの大叔父さんではなくて」
「ああ、なるほどね。言ってることわかります」
自分の本当の大叔父、この世界に住む大叔父の行方はいつか知れるだろう、と涼介は思った。
「ローサというその人物は、大叔父さんに対するあなたの思いを利用しました。あちらの世界で本来なら起こらない出来事を起こそうとしたのです。あなたが力を発揮したら、その世界の時空に亀裂ができるところでした」
「えっ、あの時ですか? パソコンの前で?」
「そうです。危ういところで踏みとどまってくれましたね」
涼介は深くため息をついた。
「それで僕らはどうなるのですか」
「皆さんは、普通の生活に戻っていただけるでしょう。今回の出来事は政府関係者の尽力により、極秘に扱われてきました。一部の関係者だけが継続して関わり続けますが、それも普通の人々の知らないところで行われます」
確かに、病院のテレビを見てもニュースになっていなかった。涼介らはそれを知り、拍子抜けしたのだ。
葵が心配そうな顔つきで言った。
「でも、また同じことが起きる可能性はありませんか。鏑木さんたちは、そちらの世界も地球の私たちの世界と同じように技術の進歩は起きていると言いました。いずれまた、もっと強力な技術力を備えた人々が侵入してきたら…」
「可能性はゼロではないです」山本は言った。「そのためにもちろん、注意は怠れません。申し上げたように、皆さんに奨学金は継続します。万が一の時にはベテランとしてアドバイスをお願いするでしょう」
「ベテラン?」
涼介は首を傾げた。
「一線を退いて、という意味です。常にあなた方のジュニア世代が見出され、戸惑いながらもあなた方の歩みを辿るのです」
「あ、そうですね」
涼介は納得した。
「もう一つだけ質問が…」涼介は言った。「これは研究者の人々ももわからない、とおっしゃってましたが、なぜこの国、日本に、僕たちのような変わった人間が多いのでしょう」
葵や他の二人も同意でうなづいた。
「研究者の方々でもわからないのですから」山本は珍しく笑顔になった。「私の素人考えですが、ごく普通のダーウィニズムではないでしょうか」
「…」
「適者生存です。日本の特殊な地学的環境には、その環境に適合した生物が多い…。どうですか」
涼介らは肩をすくめた。
了
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