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第一章 幼な妻の輿入れ
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しおりを挟む「ですから、リリア様は類稀なお方と申し上げました。
相変わらずその耳はただの飾りでございますね」
本日も王弟家の教師アリーダがリリアの指導に来ていたので、アーネストは勝手にマティアスの秘蔵のワインを餌にして彼女を部屋に招いた。
マティアスは幼少期から、アーネストもマティアスの侍従に選ばれてから成人するまでの間に何度も彼女の指導を受けている。その授業はなかなか手厳しく、アーネストは正直彼女が苦手だった。しかし、リリアの能力については彼女がこの屋敷の誰よりも把握していた。
「リリアの前で仕事をしたのはあれが初めてではない。内容が分かるようなそぶりをしたことはなかった」
「聞かれてもいないのに殿方の仕事に口を出すなどありえません」
「………たいしたこともない書類に苦戦している姿はさぞ滑稽だったろうな」
やばい。マティアスがグレ気味だ。
「きょ、今日は何の授業だったんですか?
俺、先生の理科の授業は結構好きだったな~」
「本日は舞踏会のマナーでございます。
……自然科学や地政、言語学は、いらした時には既に私の教えることはございませんでした。
王宮や社交場のマナーと、実際の有力者のパワーバランス、女性の社交場で侮られない為の教養などを私の伝えられる限りお伝えいたしました……リリア様も驚くべき努力で応えてくださった。
ただ、悲しいことに、リリア様にはあまり美的センスというものが」
あー。
「器用は器用なんですよ、刺繍も、見本と同じようになら上手に作られます、が、ご自身では図案が浮かばないらしく」
屋敷のインテリアもこうだしな。
「あとダンスが壊滅的で」
壊滅的。流石の自分もその評価をもらったことはない。是非一曲お相手願いたい。
「………俺と逆なら良かったのにな」
マティアスはそのでかい図体に似合わず、装飾品の好みも繊細で、割と絵も楽器も上手い。子どもの頃は姉の刺繍課題を代わりにこなしていたのがばれてアリーダ女史に雷を落とされていた。
「なにを情けないことを」
アリーダがピシャリと言い放つ。
「リリア様のような聡明な方のお心を掴んだと聞いて、暫くお会いしないうちにどんなに成長されたかと思ったら、相変わらずの小僧さんですわね」
マティアスの口が苦虫を噛んだように歪む。
「まったく、リリア様も男を見る目がない」
「別に、リリアの心を掴んだ覚えはない」
「マティアス」
とりあえず夜の営みはなくとも仲の良い夫婦を演じるんじゃなかったのか。
「あ、いや、俺はリリアを正妃にしたいし、尊重するつもりだが、ほら、向こうは選択肢がなかった訳だし」
「マティアス様」
「なんだ」
「マティアス様のお立場なら、リリア様は側妃として業務に活用しつつ、後ろ立てのある正妃を迎えるのが正解と存じます」
「……俺は、妻は一人でいい」
「私は―――レイナード殿下に拾われてお仕えする身、当家の利益を考えることが仕事でございます」
「わかっている。
他の皆も、忠義から助言してくれている」
「―――ですが、リリア様を正妃としたいという御意思を聞いた時には、流石私の教え子、女を見る目があると思いましたわ」
目尻の皺を深くしてアリーダが笑う。
「マティアス様。この件に関し私に助力できることはなさそうですが、陰ながら応援しております」
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