青眼の烏と帰り待つ羊

鉄永

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3部

自分が育てた後輩にいいかっこしてやるのが、狡くて良い先輩なんじゃない?

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 ある日、彼女は死んだ。人の死はやっぱりあっけない。
 別の仕事に行ったらしい彼女は、その先で死んだそうだ。詳しい話は聞かされず、詳細は分からない。
 マンションの部屋に戻れば、部屋に彼女のいた跡だけがすっぽり無くなっており、彼女は何かを悟ってその仕事に臨んだのかもしれないと思った。
 お見事だなぁ、という感想を思わず抱いてしまった。
 自分もいつかこうなるし、そうありたいとさえ思ってしまう。
 良い手本で、良い先輩で、最後まで猫のようなひとだった。
 これからは彼女ありきで成り立っていた自分の仕事の手際を、彼女がいなくても成り立つように上手く擦り合わせていかないといけない。
 そのうちに、まだ鼻に残る彼女のタバコの残り香も消えるだろう。


  ***


 ああ、下手したら死ぬな、とかずさは思った。
 仕事の概要を映したスマホの画面を指でなぞる。
 届いた仕事の宛先は律日のものなのだが、かずさは時折こうして勝手に律日に依頼された仕事をふるいにかけていた。
 最近は律日も腕を上げたのでわざわざこんなことをしなくてもよくなっていたのだが。
 ふと、律日が時折動向を追っている少女のことを思い出した。
 接触するようなそぶりも無いところを見るに、よほど大切な相手なのだろう。
 身代わりになってやろうとか、そんなことは思わないけれど、かずさはその仕事のメールに、自分のアドレスから受諾の返信をして、律日宛だったメールの情報は削除していた。
 目の前で同じくスマホを弄る律日の顔を眺める。
 随分と背が伸びて、少年から青年に成長した自分の後輩は、最初の頃の轢かれたカラスのような惨めさは感じなかった。
 実は、律日を捕えていた宗教団体を襲ったのは自分だった。
 特にそれに罪悪感を覚えたことは無いけれど、まさか火を付けられるとは思わず、余計な死人を増やしたのは自分のミスだった。
 その死人の中に、明らかに『撃たれて死んだ』男たちと、死体の見つからない二人の子ども。
 辛くも現場を後にし、あるいは、と考えた想像は、期待以上の事実と共に路地裏に落ちていた。
 だから、これはその時の、彼が起こした偶然への称賛みたいなものだ。
「なんです?」
「なんでも」
 顔を上げて首を傾げる律日から目線を外す。
 スマホをポケットに仕舞い、律日が頼んだ粗挽きソーセージのパイを手に取って、ソーセージだけを口で抜き取りながら咀嚼して飲み込む。
 特に怒る様子もなく「お腹すいてた?」とのんびり言う彼に「そうみたい」と頷いて、余ったパイの部分だけを元通り律日の皿に戻す。
「美味しかった?」
「うん。美味しかった」
「あはは」
 律日は「良かったです」とへらりと笑い、かずさが残したパイにかじりついた。
 
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