絶対無敵の優等生《陰陽師》

彩夏

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波乱の一週間

プロローグ

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陰陽師。

これは怪異と呼ばれる人ならざるものを退治するための職、あるいは力の使い手のことを言う。

陰陽師の最初の、伝説や古文ではなく映像としての近代的な記録をされたのはいつのことだろう。

たしか、いまから百二十年前、一九九〇年の記録だったと思う。

その頃人々は人類の科学技術の一切が通用しない怪異を前にしてなすすべがなく、後の第三次世界大戦と呼ばれた、人と怪異の戦いは怪異の一方的なものとなり、人類の総人口の四割は怪異によって殺された。

世界中の国々はもう国として機能しなくなって行き、アメリカ政府は人類滅亡を断言した。

しかし、その絶望的な状況に終止符をうつ希望光を纏った一人の男が現れた。

その男の名は安倍晴明。

晴明は不思議な「術」を操り、その術は今まで絶対に倒すことの出来なかった怪異を一瞬にして消し飛ばしたのだ。 

晴明の存在はすぐ世界に広まり瞬く間に世界を怪異の危機から一時的に救ったのだった。だが、世界を怪異から守るために世界全体に三年間という制限つきの結界をはった晴明は術の秘を明かさずにこの世から去ってしまった。

先進国はこの三年間の間に怪異に対する何らかの対策に、晴明の使った術の再現という目標を掲げ、研究データの全世界共有というルールを作り上げ、術の研究に励んだ。

術は当初「超能力」や「魔法」と呼ばれ、先天的な力と言う見解が大半を締め、共有・普及は不可能だと言われていたが、アメリカの術研究者、アンドラ・クランチがそれを否定した。

アンドラは術を研究していくなかで「霊子」を見つけたのだ。

「霊子」とは術の基となる力であり、エネルギー体と表現するのが正しい物だとアンドラは言った。霊子は誰の体の中にも存在し、これを操ることができれば術いや、「陰陽術」は使えるようになる、と。

アンドラの発見した霊子は陰陽術再現の様々な鍵となり、他の学者も次々に謎を紐解いていき、ついに二年と半年にして基本的な陰陽術構築の仕方を再現というよりは科学技術を用いて作り出したのだ。

こうして超能力や魔法だと思われていた術は陰陽術として、ほぼ皆無だと思われていた超能力者や魔法使いは陰陽師へと代わり知られていった。 

陰陽師は国を怪異から守るためのヒーロー的存在として、一方で核兵器にも匹敵する力をもつ国の兵士、兵器として二千百十年現在、各国はこぞって陰陽師の教育、育成に力を入れている。

ーー国立東京第一高等学校陰陽師科。

北海道、東京に二校、京都、九州の五つの学校の内の一つだ。

これから語る物語は陰陽師協会日本支部東日本本部のすぐそばにあるその高校の、一人の男子生徒の活動記録。

◆◆◆◆

ーー国立東京第一高等学校、通称東一。

国内では五校しかない専門科、陰陽科があるこの学校は陰陽科の他にも普通科に陰陽開発技術科の三つの科目がある。

普通と陰陽科はそれぞれ独立しており、普通科にも選択科目に陰陽コースがある。(陰陽開発技術科は陰陽科に属する)
入学試験は年々難航を極め、今年の倍率は普通科は2.5、陰陽科は3.6もある。(これでも書類審査通過者のみ)

国立五校と呼ばれる学校は入ることができればその先の将来はほぼ約束されると言われるほどのエリートの中のエリートしか通えない学校なのだ。

そんな学校に文也は新入生代表、要するに入試試験主席で入学を果たしたのだ。

文也は新入生代表と言う立場のせいで入学式が始まる一時間も前から学校に登校していた。

「まだ時間はあるな……」

手首に身に付けている腕時計型の携帯端末で時間を確認すると、近くにあったベンチへと向かい腰をおろした。

昨日一昨日と事情がありろくに寝れていない文也はベンチに腰を掛けたまま目を閉じると、背後に立つ木の影と葉と葉が風にサラサラと揺られる音、そんな心地いい空間が文也の押さえていた睡魔を解放し、眠りへと誘われていった。

「起きてください。新入生さん」
どれ程寝ていたのだろう。ふとかけられた女性の声で文也は目が覚めた。

座ったまま寝てしまっていた文也の前にたっていたのは学校指定の制服ではなく、体のラインを強調するぴったりとした服に薄いブレザーを来ている大人びた少し妖艶なオーラを羽織るように纏った女性だ。

おそらく格好からして教師か……(今のご時世教師なんて職の必要性はAIの教育プログラムによって実技の教員陰陽師以外は皆無になり、学校の運営も生徒会やその他各種委員会がおこのなうため教師の存在は不必要とまで言われるほどなのに……)

「あ、今あなたどうして教師なんかがいるんだ?て思ったでしょ?」

女性は文也の心を読んだかのようなタイミングで大人びた顔からはそうぞうのできなかった子どものような悪戯な笑顔を浮かべた。

「よく言われるから慣れてるんからいいんだけどね~やっぱり最近のご時世は機械とかAIに依存した暮らしが多いきがするのよね~」

「先生はデジタル教育反対のお人なんですか?」

文也が訪ねたデジタル教育とはアナログ、人の手で行う教育ではなく機械での教育を主とする教育法のことをさす言葉だ。

「ええ、まぁね。たしかにデジタル教育の方が効率もいいけど、でもやっぱり人が人と向き合って教える方がいいと思うのよ。あなたはどちらの方がいいと思う?」

「デジタル教育が完全配備されているのはまだ少ないので俺、いや自分はまだアナログ授業しか体験したことがないのでなんとも言えませんね」

政府は再来年までの全国の小中高の学校すべをアナログ教育からデジタル教育に帰ると言っているが、まだその配備は進んでいないのが現状だ。

「そう、難しいことをきてごめんなさいね?あ、それと文也さんの寝起きすぐにしてるこの長話をしたせいでもうすぐで入学式が始まってしまうわ、もうそろそろ会場へと向かった方がいいわよ?」

「そうですか、ありがとうございます」

文也は先生に向かって浅く一礼すると入学式の会場である多目的ホールへと向かおうとしたが、一度引き止められた。

「文也さん!」

少し離れたところから「はい」と返事をする。

「札と術機の常時携帯とは関心しませんよ、我校では校則で委員会に所属する生徒以外は術機または札、陰陽術の展開をするための補助機や術式そのものの常時携帯は認められていません!今回は特別に見逃しますが次はちゃんと取り締まりますよ!」

この発言に文也は驚きを隠せなかった。

勿論、文也は校則を把握していた。だから文也は見つからないために術機や札には認識阻害術式と呼ばれる、光を操作し回りの人間に「視覚的」な認識をできなくする文也がオリジナルで作った術式で、その術式は従来の製品版の認識阻害術式よりも遥かに高スペックなのだ。

「ーーまさか、きずかれるとは……先程の言葉、肝に命じておきます」

まぁ、術式そのものの常時携帯が校則違反なら文也の存在自体が校則違反なのだが……。

文也はそんな事を考えながらもう一度一礼をし直し今度こそ、その場を後にした。

◆◆◆◆

国立東京第一高等学校陰陽科入試試験。

毎年、志願者同士の知力、武力をぶつけ合うこの試験に林文也も受けていた。

前日に面接と筆記試験は終わっているので、残すところはあと一つ。実技試験だけとなっていた。

実技試験は東一が入試で最も重視する部分であり、仮に筆記がゼロ点でも実技試験の内容によっては受かることもできるほどだ。
実技試験の内容はいたってシンプル。

試験官である相手を戦闘不能にすることを目的とした実戦形式の組み手。

そしてもう一つは単に基本的な能力の計測。

基本的な能力は五個あるとされており、

術式処理能力、術式とは人が記憶できる訳がない三万桁の英語と数字の羅列で処理能力はその三万桁の英語と数字を読み込む力のこと。これは人の脳内にある術式計算領域にておこなわれることで、術機を使うことでここにかかる負担を削り計算(読み込み)スピードを速めることができる。 

霊子保有量および想子保有量、人が保有し、使える霊子、および想子(術式を構築するのに必要なもの)には個人差があり、それを数値化して表したもの。

座標演算能力、陰陽術を発動したい場所、展開したい場所の座標を即座に計算する力のこと、これも術式処理能力と同じように術機で計算速度を速められる。 

霊力コントロール力、霊力とは形の定まらない霊子を想子で繋ぎ合わせて六角形にしたもの。こうしなければ術式も処理できない。コントロール力はこの霊力を操る力だ。

陰陽術構築速度、術式を読み込み、発動場所の座標を演算し、霊子と想子を繋ぎ合わせ霊力を術式の答えとなるように構築するまでのスピード。これは術機もそうだが連度の問題で速くなったり遅くなったりする。

そしてこれら全てを術機(陰陽術構築補助機)は術者の代わりにやってくれるのだ。だから事実上術者は演算領域と計算領域をかし、術を選択するだけで術を発動できる。

話が脱線したが組み手のルールは、一つ殺傷性ランクCまでとする。二つどちらかが戦闘不能になれば終了。 三つ制限時間は三分。 四つインデックス(国際陰陽術総辞典のこと、国や世界から正式に陰陽術と認められたものを集めた辞典)に記載されている陰陽術のみの使用とすること。

これだけのルールを守れば打撃でも銃撃でも好きに使っていい。
はっきり言って文也は余裕だった。
試験官などというものに負けるはずがないと。


そんなこんなで十分ほどたち文也は試験官の前に立ち開始の合図を待った。

「スタート!!」

非戦闘試験官が二人に合図を送る。
文也は試験官よりも速くに一歩を音をたてずに風を斬るようにスッと、進んだ。その姿は武術の使い手さながらだ。

二歩目で一気に試験官の懐へと文也が入る。 

文也が試験官へと放ったのはただのつき技、だがそれも当たれば相手を膝まずかせる程の威力はある。しかし、さすが試験官だ。
それをギリギリのところでかわすと、すぐさま距離をとるために自己加速術を使い後ろに下がる。
今度は文也ではなく試験官から踏み出した。その勢いは自己加速術によって増しておりそのままの勢いでタックルをくらうのはまずい。
(やはり試験官だ、対怪異戦闘ではなく対人戦闘がうまい……。闘い方からして軍の人間か)
加速術と衝撃増幅術の併用。これは軍のお家芸だ。
タックルをかわした文也はパンチの衝撃を増幅させる術を削減させる術を使い、相殺しながら受け流している。
(……マニュアル体術、真面目な軍人だな)
臨機応変に対応したパンチからの肘打ち、忘れた頃にやってくる脚、この闘い方は軍のお家芸とは言うが、この試験官の闘い方はマニュアルに忠実な真面目な教科書通りの体術。
(つまらん……)
そう感じた文也はいままで受け流していた攻撃をかわし、再び懐へと入ると今度は試験官のよける暇すら与えずに、思考型の術機で信号番号三番の無形統陰陽術の一つ「波動」を発動させる。 

波動は言ってしまえばただの霊力の波、だがそれをいくつもの種類の波動を重ね、纏わせると攻撃力にもなり、敵の霊力生成を乱すこともできるあらわざだ。

波動を纏わせた手をそのまま試験官の鳩尾へと打ち込んだ。ビギッ!と試験官の肋骨が嫌な音をたてながら後方へ吹き飛ぶ。 

体のほぼ中心に波動を打ち込まれた試験官は腹から胃液を吐き出し、フラフラと足から崩れていき最後には意識を失った。

こうして文也は実技満点、筆記満点と言う偉業を成し遂げ、新入生代表として東一に入学した。

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