掌編小説まとめ

椿叶

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人形の糸

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 糸の切れた人形は動かない。
 薄く紅の塗られた唇は望めば愛の言葉を囁いてくれたのに、今は何を言えども唇を引き結んだままだ。触れれば指の形に合わせて変わっていったそれは、次第に冷たくなって柔らかさも喪っていく。
 ただ本物の愛の言葉を引き出したかっただけなのに、その機会さえ捨ててしまった。人形を繋いでいた糸を切ったのは他でもない自分なのに、喪われていく温もりが恐ろしかった。
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