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懺悔
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お父様、お母様。私には懺悔しなければならないことがあります。出来の悪い息子で申し訳ありません。国を追われた時ですら役に立てず、銃を持ちながらも震えて立っているだけだった私を、様々な国を放浪する中で、どこにもなじめなかった私を、お父様はさぞ軽蔑なさっていたと思います。お母様は頼りのない息子だと思っていたに違いありません。せめて私が勇ましく戦うことができれば、お母様が愛していた故郷から離れることにはならなかったのでしょう。革命、というものは私が起こしたものではなく、当然、お父様とお母様が望むものではなかったと思いますが、時代の荒波、というものは従って操ることでしか、乗り越えることができないのだと、身をもって知りました。ですからせめて、日本という場所に漂流した私たちは、ここで地に足をつけて生きていくべきだと思ったのですが、お二人とも貧しい暮らしがつらいようでしたね。せめてパンくらいは食べられるようにしたいと、住む場所に神戸を選びはしましたが、やはり長く暮らした国とは随分勝手が違いますから、つらく思うのも無理はなかったと思います。
せめてあの家から宝石やジュエリーをはじめとする金銀財宝を持ち出せればよかったのですが、大荷物では亡命と分かりやすいものです。身一つで逃げ、再び移り住んだ場所で商売を始めるのが、生きるためには必要だったと思います。さて、長くなりましたが、これは懺悔の手紙ですので、謝って赦しを乞わなくてはならないのですが、理由をお二人にはお分かりにならないと思います。もしお気づきになられているのなら、それこそ仰天してしまうのですが、お父様とお母様も私の血筋のことしか気にされていないようですので、最初から書き出していきたいと思います。
私は自分の口から生える牙を、幼いころから恐ろしく思っていました。お父様にはあってお母様にはない牙。私にはあって姉様にはない牙。友達がひとりも持たない牙。それはまるで私とお父様だけが人でない証のように思われました。お父様は晩酌の際には必ずワインを飲んでいましたが、それを見る度に胸の奥がうずくのは、それが酒だからではなく、赤い液体だったからだと思います。白ワインの時はただ臭いと思うだけでしたので。そして、お父様が奴隷を閉じ込めている部屋から出てくる時に、漂わせる匂いに、いつも心を惹かれていました。私が吸血鬼であることを知ったのも、明確に吸血衝動を覚えたのも、十代の半ばに入ってからですが、私はその時からすでに、血というものに興味を持っていたのです。姉様が転んで手のひらを擦りむいた時、消毒と称して、その傷を舐めさせてもらったこともありました。ドレスに包まれていた足は痣を作っただけだったのを、残念に思いました。しかし手のひらから薄っすらと滲む血を口に含んだ時、甘く蕩けるような刺激に身体を支配されたのです。お父様がたびたび漂わせている香りが、姉様からしました。お父様が漂わせている香りは、血を吸った相手の放つ匂いがうつっていたのだと気が付きました。これほどの甘美な時を頻繁に味わっているお父様を羨ましく思い、私はたびたび、姉様に血を強請りました。針仕事をしていた奴隷がうっかり自分の指に針を刺した時も、無邪気な子どもの顔をして血を舐めたのですが、彼女たちの血は美味しくなくて、やはり姉様の血が一番美味しかったのです。お父様は奴隷に血を強請る私を叱ったので、私は仕方なく、隠れた場所で姉様に血を強請ることにしました。まだ十二歳の頃だったでしょうか、乾燥のために唇を割り、血を滲ませた姉様の唇に、そっと口づけました。姉様は驚いて、倒されたベッドの上で暴れようとしましたが、華奢で小柄な姉様を抑え込むのは簡単でした。唇を甘く食んで、血を吸い上げるようにして口づけると、姉様の身体は徐々に力が抜けていって、くたりと崩れました。雪のような白い肌の下から、赤い血液が透けているのが、とても美しく見えました。吸血鬼という生き物の唾液には、飲ませた相手を淫らかな気持ちにさせる作用があるのを、自分が吸血鬼だと知らなかった時の私が知るはずもなく、私は姉様との口づけが甘美であるように錯覚しました。
姉様はお父様がお母様の血を吸い、それから手ひどく抱いているのを、私が淡い吸血衝動を知ったにはすでに知っていたようでした。お二人は隠れてしているつもりだったのでしょうけれど、お二人とも行為に夢中になって周りが疎かになっていたのでしょうね。使用人たちがほんの少し目を離した隙に、姉様はお父様とお母様が交わっているところを見てしまったそうですよ。吸血鬼であるお父様は、本能的に血を最も美味しく感じる人間を、快楽というもので囲い、血を捧げさせていたことになるのでしょうけれど、吸血鬼は純潔を重んじるようですので、姉様だけでなく私を産ませたのは、そこに愛があったからではないか、と思うことにしています。私も姉様も。話は少々戻りますが、姉様はお二人の淫らかな交わりを見た時、自分もお母さまのように扱われるのだ、と悟ったようでした。どうやら姉様は、自分が人ならざる者と人の間に生まれてしまった子だと、そして自分が人間に近く生まれてしまったことに、幼いころから気が付いていたようです。物心ついた時から、姉様は私の歯の形を毎日のように確かめていたように思います。姉様は私が化け物に寄って生まれたことを早々に理解し、諦め、そしてお母様が抱かれているところを見た時に、自分はこうして人ではない生き物たちの餌になるのだ、と理解したようです。姉様の血をねだる僕に、ほんの少しの躊躇いの後、大人しく皮膚を舐めさせていたのは、そういった諦めがあったからのようでした。
姉様は我に返った後、二つ下の弟との口づけに快楽を得たことを、非常に恥じ、恐ろしく思ったようでした。私を突き放してぽろぽろと涙を零している姿に可愛らしさを覚えて、私は歴史の中で、兄弟の中で交わって子どもを作られてきたことが、度々あったことを伝えました。それでも姉様は首を振ったので、私はお父様がお母様にしているように、快楽というもので支配しようと試みたのです。しかし、私は幼く、魅了するにはほど遠いような子どもでした。だからまだその時ではないと思い、あと三年経ってから、それを始めようと決めたのです。僕が自分が吸血鬼だと知ったのは、それからちょうど三年経った頃でした。姉様に私が欲情していることを知らぬお父様が、もったいぶって教えてくださいました。その晩私は姉様の部屋に忍び込み、姉様の夜着の首元をはだけさせて、尖った牙をつきたてました。ぷつりと皮膚がやぶれて、甘く深い香りが口の中いっぱいに広がりました。姉様がやめてと叫ぶ声は、唇で塞ぎました。唇を甘く噛み、舌を引き出し、二人の唾液を混ぜて飲み込ませました。次第に力を失って、呼吸を乱れさせる姉様の服を丁寧に丁寧に脱がせて、私の指を沈ませました。その柔らかさと温かさに溺れて、姉様の可愛らしい声を口づけで飲み込んで、姉様が激しく身体を振るわせるところを何度も確かめました。姉様が疲れ果てて眠るまで続け、それをほとんど毎日のように繰り返しました。すると姉様の態度にも少しずつ、変化が生まれました。私と二人きりの時は、ほんの少し期待を込めた目で私を見るようになったのです。私が唇を近づければ姉様も目を閉じ、抱き寄せれば腕を回してくれるようになりました。それは私の血が持つ力のせいに他なりませんが、私はこの世界でもっともうつくしいとすら思っている姉様の血をもらいうけ、またさらに、好意も奪い取ることができたことに、大きな満足感を得たのでした。
姉様の婚約者が干からびて死んでいたことがありましたね。あれをお父様は、我が家の繁栄を阻もうとする者の力だと推測していましたが、誤りです。私は理由に心当たりがない、知らないと言いましたが、嘘をつきました。あれは私の仕業です。あの男が姉様を手に入れてしまったら、私はもっとも美味な姉様の血を貰い受けることができなくなってしまいます。何より、私に代わってあの男が姉様のうつくしい身体を暴くことが、許せませんでした。だから殺して、姉様を私だけのものにしようとしたのです。これが一つ目の懺悔です。お二人に隠れて、僕は殺人犯になっていました。それを正しいことのように思いこもうとしました。許されないことをした私を、お二人はどう思うのでしょうか。
革命の気配が漂うようになったのは、姉様の二人目の婚約者をお父様が探していた時でしたね。私は変わらず毎夜のごとく姉様の身体と血に溺れていたのですが、お父様とお母様が少しも気が付く様子がなかったので、滑稽に思っていました。屋敷は広く、お二人の寝室から姉様の部屋はひどく離れていましたし、当然使用人の部屋からも奴隷の部屋からも離れていたので、仕方なかったのかもしれません。私は姉様を手ひどく扱った後は必ず、姉様の身体を清めて、服を着せて、自分の部屋に帰っていたので、当然と言われればそうかもしれません。どこかの国に逃げ延びて庶民に堕ちるということは、あのような広い家を喪うことになりますから、私は姉様との交わりが続けられるかどうかを、ぼんやりと心配に思っていました。革命の際に戦おうとしなかったのは、闘ってもあの家が残らないであろうことを理解していたからです。それなら、少しでも安全に過ごせる場所に行って、商売を立て直して、またそれぞれの部屋のある生活に戻って、再び姉様との行為に耽ろうと考えたのでした。私が移り住む場所移り住む場所で、馴染めないと言って、繊細に神経質に装ってみせたのは、すぐに商売の立て直せる土地ではなかったからです。じっくり時間をかければ、再び豪邸を手に入れることが叶うのかもしれませんが、私はお父様よりも商売のセンスがあると自負していますから。ただ、またひとつ、謝らなければならないのが、商売のうまくいく土地であっても、私が我儘を言って引っ越しをさせたことが何度かあったことです。そこは私たちとよく似た見た目の人が多くいました。生活が落ち着くまでは姉様も働きに出ることになるでしょうから、姉様に優しくする人と会うことが考えられます。姉様はうつくしいので、一目見れば大抵の男は虜になってしまいますから、それは避けねばならないと思いました。そこで私がすすめたのは、日本でした。私の国と日本は戦争をしたこともありますし、何よりあの国は島国で、違う見た目の人がいることに慣れていません。きっと差別をしてくれると思いました。しかし建前として、差別をされる土地に行こうとは言えませんでしたから、外国の者が比較的多く住む、神戸を選びました。
私の目論見は外れました。日本の人間は、我々を好機の目線で見ることはあれど、私が想像したほど排他的でもなかったのです。きっと田舎にいけば変わるのかもしれませんが、どうやら、日本は諸外国に追い付こうと必死だったようで、外国の者にきつく当たろうという風潮ではなかったようでした。姉様はそのうつくしさのために、客引きに誘われることがたびたびあり、お金のために引き受けたはいいものの、男に言い寄られて困っているようでした。しかし、時折姉様も、色男に顔を赤らめて帰ってくることがありましたので、私は日本を去る口実を考えなくてはならないと思いました。しかしお父様の商売は軌道に乗り始めていました。私がここにずっと住むつもりで、商売を立て直したからです。我が家は神戸から動けなくなり始めていました。肌の白い、髪の金色の人間が都合よく差別される出来事を作れればいいのかと思い、少しだけ変装をして日本人を殺すのはどうかと考えましたが、恐れる気持ちも行き過ぎれば、暴動に繋がります。か弱い姉様は、そんな暴動に捕まれば、ひとたまりもありません。簡単に捕まって、殴り殺されてしまうでしょう。ひょっとすると、犯されながら殺されてしまうかもしれません。それは何としても避けねばなりませんから、私はもう、姉様を閉じ込めてしまおうと思いました。それが楽だと思いました。
場所は決してお伝えしませんが、近い街、とだけ書いておきましょう。私は私の仕事を抱え、姉様の手を引き、近い街にやってきました。家は大きくはありませんが、私と姉様の二人で暮らすのですから、問題はありません。姉様は初めて知った自由というものを奪われて、ひどく悲しんでいるところですが、やがて忘れるでしょう。しばらくは手足を鎖で繋ぐことになりそうですが、吸血をしてから口づけを交わすと、簡単に私のものになりますので、手足もいずれは自由にしてあげられると思います。きっとお父様の商売は傾き、お母様も暮らしに困ることになるでしょう。そればかり、申し訳なく思います。お金に困るようでしたら、工面することは出来るかもしれませんが、お二人が夢見ていた、軌道に乗った暮らしにはならないでしょう。お父様とお母様を裏切るような真似をしたことを、懺悔させていただきたく思います。
せめてあの家から宝石やジュエリーをはじめとする金銀財宝を持ち出せればよかったのですが、大荷物では亡命と分かりやすいものです。身一つで逃げ、再び移り住んだ場所で商売を始めるのが、生きるためには必要だったと思います。さて、長くなりましたが、これは懺悔の手紙ですので、謝って赦しを乞わなくてはならないのですが、理由をお二人にはお分かりにならないと思います。もしお気づきになられているのなら、それこそ仰天してしまうのですが、お父様とお母様も私の血筋のことしか気にされていないようですので、最初から書き出していきたいと思います。
私は自分の口から生える牙を、幼いころから恐ろしく思っていました。お父様にはあってお母様にはない牙。私にはあって姉様にはない牙。友達がひとりも持たない牙。それはまるで私とお父様だけが人でない証のように思われました。お父様は晩酌の際には必ずワインを飲んでいましたが、それを見る度に胸の奥がうずくのは、それが酒だからではなく、赤い液体だったからだと思います。白ワインの時はただ臭いと思うだけでしたので。そして、お父様が奴隷を閉じ込めている部屋から出てくる時に、漂わせる匂いに、いつも心を惹かれていました。私が吸血鬼であることを知ったのも、明確に吸血衝動を覚えたのも、十代の半ばに入ってからですが、私はその時からすでに、血というものに興味を持っていたのです。姉様が転んで手のひらを擦りむいた時、消毒と称して、その傷を舐めさせてもらったこともありました。ドレスに包まれていた足は痣を作っただけだったのを、残念に思いました。しかし手のひらから薄っすらと滲む血を口に含んだ時、甘く蕩けるような刺激に身体を支配されたのです。お父様がたびたび漂わせている香りが、姉様からしました。お父様が漂わせている香りは、血を吸った相手の放つ匂いがうつっていたのだと気が付きました。これほどの甘美な時を頻繁に味わっているお父様を羨ましく思い、私はたびたび、姉様に血を強請りました。針仕事をしていた奴隷がうっかり自分の指に針を刺した時も、無邪気な子どもの顔をして血を舐めたのですが、彼女たちの血は美味しくなくて、やはり姉様の血が一番美味しかったのです。お父様は奴隷に血を強請る私を叱ったので、私は仕方なく、隠れた場所で姉様に血を強請ることにしました。まだ十二歳の頃だったでしょうか、乾燥のために唇を割り、血を滲ませた姉様の唇に、そっと口づけました。姉様は驚いて、倒されたベッドの上で暴れようとしましたが、華奢で小柄な姉様を抑え込むのは簡単でした。唇を甘く食んで、血を吸い上げるようにして口づけると、姉様の身体は徐々に力が抜けていって、くたりと崩れました。雪のような白い肌の下から、赤い血液が透けているのが、とても美しく見えました。吸血鬼という生き物の唾液には、飲ませた相手を淫らかな気持ちにさせる作用があるのを、自分が吸血鬼だと知らなかった時の私が知るはずもなく、私は姉様との口づけが甘美であるように錯覚しました。
姉様はお父様がお母様の血を吸い、それから手ひどく抱いているのを、私が淡い吸血衝動を知ったにはすでに知っていたようでした。お二人は隠れてしているつもりだったのでしょうけれど、お二人とも行為に夢中になって周りが疎かになっていたのでしょうね。使用人たちがほんの少し目を離した隙に、姉様はお父様とお母様が交わっているところを見てしまったそうですよ。吸血鬼であるお父様は、本能的に血を最も美味しく感じる人間を、快楽というもので囲い、血を捧げさせていたことになるのでしょうけれど、吸血鬼は純潔を重んじるようですので、姉様だけでなく私を産ませたのは、そこに愛があったからではないか、と思うことにしています。私も姉様も。話は少々戻りますが、姉様はお二人の淫らかな交わりを見た時、自分もお母さまのように扱われるのだ、と悟ったようでした。どうやら姉様は、自分が人ならざる者と人の間に生まれてしまった子だと、そして自分が人間に近く生まれてしまったことに、幼いころから気が付いていたようです。物心ついた時から、姉様は私の歯の形を毎日のように確かめていたように思います。姉様は私が化け物に寄って生まれたことを早々に理解し、諦め、そしてお母様が抱かれているところを見た時に、自分はこうして人ではない生き物たちの餌になるのだ、と理解したようです。姉様の血をねだる僕に、ほんの少しの躊躇いの後、大人しく皮膚を舐めさせていたのは、そういった諦めがあったからのようでした。
姉様は我に返った後、二つ下の弟との口づけに快楽を得たことを、非常に恥じ、恐ろしく思ったようでした。私を突き放してぽろぽろと涙を零している姿に可愛らしさを覚えて、私は歴史の中で、兄弟の中で交わって子どもを作られてきたことが、度々あったことを伝えました。それでも姉様は首を振ったので、私はお父様がお母様にしているように、快楽というもので支配しようと試みたのです。しかし、私は幼く、魅了するにはほど遠いような子どもでした。だからまだその時ではないと思い、あと三年経ってから、それを始めようと決めたのです。僕が自分が吸血鬼だと知ったのは、それからちょうど三年経った頃でした。姉様に私が欲情していることを知らぬお父様が、もったいぶって教えてくださいました。その晩私は姉様の部屋に忍び込み、姉様の夜着の首元をはだけさせて、尖った牙をつきたてました。ぷつりと皮膚がやぶれて、甘く深い香りが口の中いっぱいに広がりました。姉様がやめてと叫ぶ声は、唇で塞ぎました。唇を甘く噛み、舌を引き出し、二人の唾液を混ぜて飲み込ませました。次第に力を失って、呼吸を乱れさせる姉様の服を丁寧に丁寧に脱がせて、私の指を沈ませました。その柔らかさと温かさに溺れて、姉様の可愛らしい声を口づけで飲み込んで、姉様が激しく身体を振るわせるところを何度も確かめました。姉様が疲れ果てて眠るまで続け、それをほとんど毎日のように繰り返しました。すると姉様の態度にも少しずつ、変化が生まれました。私と二人きりの時は、ほんの少し期待を込めた目で私を見るようになったのです。私が唇を近づければ姉様も目を閉じ、抱き寄せれば腕を回してくれるようになりました。それは私の血が持つ力のせいに他なりませんが、私はこの世界でもっともうつくしいとすら思っている姉様の血をもらいうけ、またさらに、好意も奪い取ることができたことに、大きな満足感を得たのでした。
姉様の婚約者が干からびて死んでいたことがありましたね。あれをお父様は、我が家の繁栄を阻もうとする者の力だと推測していましたが、誤りです。私は理由に心当たりがない、知らないと言いましたが、嘘をつきました。あれは私の仕業です。あの男が姉様を手に入れてしまったら、私はもっとも美味な姉様の血を貰い受けることができなくなってしまいます。何より、私に代わってあの男が姉様のうつくしい身体を暴くことが、許せませんでした。だから殺して、姉様を私だけのものにしようとしたのです。これが一つ目の懺悔です。お二人に隠れて、僕は殺人犯になっていました。それを正しいことのように思いこもうとしました。許されないことをした私を、お二人はどう思うのでしょうか。
革命の気配が漂うようになったのは、姉様の二人目の婚約者をお父様が探していた時でしたね。私は変わらず毎夜のごとく姉様の身体と血に溺れていたのですが、お父様とお母様が少しも気が付く様子がなかったので、滑稽に思っていました。屋敷は広く、お二人の寝室から姉様の部屋はひどく離れていましたし、当然使用人の部屋からも奴隷の部屋からも離れていたので、仕方なかったのかもしれません。私は姉様を手ひどく扱った後は必ず、姉様の身体を清めて、服を着せて、自分の部屋に帰っていたので、当然と言われればそうかもしれません。どこかの国に逃げ延びて庶民に堕ちるということは、あのような広い家を喪うことになりますから、私は姉様との交わりが続けられるかどうかを、ぼんやりと心配に思っていました。革命の際に戦おうとしなかったのは、闘ってもあの家が残らないであろうことを理解していたからです。それなら、少しでも安全に過ごせる場所に行って、商売を立て直して、またそれぞれの部屋のある生活に戻って、再び姉様との行為に耽ろうと考えたのでした。私が移り住む場所移り住む場所で、馴染めないと言って、繊細に神経質に装ってみせたのは、すぐに商売の立て直せる土地ではなかったからです。じっくり時間をかければ、再び豪邸を手に入れることが叶うのかもしれませんが、私はお父様よりも商売のセンスがあると自負していますから。ただ、またひとつ、謝らなければならないのが、商売のうまくいく土地であっても、私が我儘を言って引っ越しをさせたことが何度かあったことです。そこは私たちとよく似た見た目の人が多くいました。生活が落ち着くまでは姉様も働きに出ることになるでしょうから、姉様に優しくする人と会うことが考えられます。姉様はうつくしいので、一目見れば大抵の男は虜になってしまいますから、それは避けねばならないと思いました。そこで私がすすめたのは、日本でした。私の国と日本は戦争をしたこともありますし、何よりあの国は島国で、違う見た目の人がいることに慣れていません。きっと差別をしてくれると思いました。しかし建前として、差別をされる土地に行こうとは言えませんでしたから、外国の者が比較的多く住む、神戸を選びました。
私の目論見は外れました。日本の人間は、我々を好機の目線で見ることはあれど、私が想像したほど排他的でもなかったのです。きっと田舎にいけば変わるのかもしれませんが、どうやら、日本は諸外国に追い付こうと必死だったようで、外国の者にきつく当たろうという風潮ではなかったようでした。姉様はそのうつくしさのために、客引きに誘われることがたびたびあり、お金のために引き受けたはいいものの、男に言い寄られて困っているようでした。しかし、時折姉様も、色男に顔を赤らめて帰ってくることがありましたので、私は日本を去る口実を考えなくてはならないと思いました。しかしお父様の商売は軌道に乗り始めていました。私がここにずっと住むつもりで、商売を立て直したからです。我が家は神戸から動けなくなり始めていました。肌の白い、髪の金色の人間が都合よく差別される出来事を作れればいいのかと思い、少しだけ変装をして日本人を殺すのはどうかと考えましたが、恐れる気持ちも行き過ぎれば、暴動に繋がります。か弱い姉様は、そんな暴動に捕まれば、ひとたまりもありません。簡単に捕まって、殴り殺されてしまうでしょう。ひょっとすると、犯されながら殺されてしまうかもしれません。それは何としても避けねばなりませんから、私はもう、姉様を閉じ込めてしまおうと思いました。それが楽だと思いました。
場所は決してお伝えしませんが、近い街、とだけ書いておきましょう。私は私の仕事を抱え、姉様の手を引き、近い街にやってきました。家は大きくはありませんが、私と姉様の二人で暮らすのですから、問題はありません。姉様は初めて知った自由というものを奪われて、ひどく悲しんでいるところですが、やがて忘れるでしょう。しばらくは手足を鎖で繋ぐことになりそうですが、吸血をしてから口づけを交わすと、簡単に私のものになりますので、手足もいずれは自由にしてあげられると思います。きっとお父様の商売は傾き、お母様も暮らしに困ることになるでしょう。そればかり、申し訳なく思います。お金に困るようでしたら、工面することは出来るかもしれませんが、お二人が夢見ていた、軌道に乗った暮らしにはならないでしょう。お父様とお母様を裏切るような真似をしたことを、懺悔させていただきたく思います。
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