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ゲーセンと黒い服の女

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「退屈!退屈!退屈!!」

メドピアがベッドの上を転がり回りながら子供のように駄々をこねる。

「だぁーもううるせぇなぁパソコン貸してやってるだろ!?」

「もう遊び尽くしたのじゃ!RPGもシューティングも推理ゲームも!」

「ならオンラインゲームでもしろよ!終わりがないからしばらく楽しめるだろ?」

「そ、それは...ずかしいじゃろ...」

「なんだって?」

「恥ずかしいんじゃ!見知らぬ人とげーむをするのが!!」

メドピアは顔を赤らめ恥ずかしそうにそう言う。
その仕草はまるで貴女のような、子供のような可愛らしいくも思える仕草だった。


「神話の存在が乙女かよ!」

「うるさいうるさい!!しょうがないじゃろ!他人と関わることなんて姉様達とあいつぐらいしか無かったんだから!」

「今わしの塩らしい仕草のぎゃっぷにくらっとしたじゃろ!?」

「誰が数千歳のロリババアなんかにくらっとするか!そんな事言ってると置いてくぞ!」

その可愛さにやられてしまいそうになっていた俺は二人きりを急に恥ずかしくなり外に出る。

「なんじゃ急に、あ、もしかしてわしの魅力に気づいて二人きりが恥ずかしくなったか?お主も案外童よのー すまんがワシ自分の身長以上の男NGなんでぇ 気持ちは嬉しいけどすまんのー」

「だから誰がロリババアなんかに恋するか!!それにお前の身長以下ってショタじゃねぇか!このショタコンがよぉ。」

そう言いながら顔を歪めなにかを創造するメドピア。
こんな変態ショタコンを一瞬でも可愛いと思っていたとは一生の不覚だ。


「はたからみれば親子か兄妹なのに話して会話が下劣なのよねぇ。」



様々な色を出すゲームや笑い声。
そしてUFOキャッチャーで遊ぶ子供達。
そんな歓迎を俺たちは受ける。
「ここがげーせんというやつか。ぎらぎらしとって雅というか下品というかでもその下品さがいいのぉ!」

「そうかぁ?俺はなれちまって下品とかなんも思わねぇけどな。」

確かに言われてみれば少し下品かもしれない。
だがこれがゲームセンターの魅力でもあるのだろう。
上品に着飾ったゲームコーナーなどだれもよらないし楽しめないだろう。


「まぁ、感じることは世代によって異なるからのーそれより金じゃ金!金寄越さぬか!」

「はいはい1000円までな。」

「しけとるのぉ!ワシの契約者ならもっとどかっと出さんかい!」

「子供にはそれぐらいが十分なの。」

「誰が子供じゃ!さっきまで婆扱いしとったくせに都合が良いときだけ子供扱いしよって!まったくこれだから最近の若人は...」
 
お金に不満をいいながらとぼとぼ歩いていく。
その様子はまさに老人そのものだった。

「若人って...それもう死語といってもいいぐらいだぞ。」

「このげーむ一緒にやるぞ隆一!」

「はいはい」

俺はゲームの銃を取り、コインをいれる。
このゲームはよくあるシューティングゲームで、次々と現れるゾンビを撃ち、ヒロインを助けるといったものだ。


 「だぁーなんじゃこいつ強すぎるじゃろ!何発頭に当てたと思ってるんじゃ!いきなり強くしすぎじゃもっと段階を踏まぬか段階を」

ゲームオーバーの画面を背景にメドピアは文句を垂れる。
確かにボスは一気に強くなり固くなったように感じた。

「まぁ、この理不尽さもアーケードゲームの醍醐味だからな」

だがこういったワンコインではクリア出来ない難易度もこういったゲームの魅力だ。
友達と文句を言い合いながら追加でコインを入れて続きを楽しむ。
これがアーケードゲームの魅力でもある。

「理不尽さもあるがここまで負けてるのはお主が下手なせいでもあるぞ!何回弾外すんじゃ!この糞えいむ!」

「しょうがねぇだろあんまり銃を使うゲームやらねぇんだから!それにその単語どこで覚えたんだよ。」

「わしも昨日初めてこの手のゲームやったばっかなんじゃが?? はぁーワシの才能恐ろしいわー。これ頭の上に置いたリンゴとか撃ち抜けちゃうんじゃないかのぉ?」

調子に乗ってどやっとした顔でそういい放つ。
こいつの頭にリンゴを乗せて頭を狙ってやろうかと思えるぐらいのイラつく顔だ。

「調子に乗りやがって...俺が得意なゲームがあればぎゃふんと言わせてやれるのに」

「ちょっといい?」

俺がメドピアと揉めていると後ろから声がかかる。
その声で振りかえるといつかみた黒い服に身を包んだ女だった。

「あぁ、すみません。ほらメドピア退くぞ。」

「お主一人でやるのか?これは二人向けのげーむじゃぞ?」

「こらなんて失礼なことを!すみません俺の妹が...」

俺は失礼なことをいったメドピアの頭を抑え謝らせる。
それにこのゲームには確か一人プレイもあったはずだ。
それをやるのだろう。

「だれが妹じゃ!それよりなんならワシが手伝ってやってもいいぞ!こいつよりマシそうじゃしの」

「大丈夫。一人で十分。」

そういい放つと彼女は200を入れ、二つの銃を持つ。
その様はまるで昔の海賊の絵か、西部劇のガンマンを思い起こさせるほどきれいなものだった。

「おぉ、二丁拳銃。」


彼女の二丁拳銃がどんどんゾンビ達を倒していく。
リロードタイミングも完璧だ。
片方の銃に一定の弾を残したままリロードしている。
普通なら両方撃ち尽くしてもたもたやっている間にゲームオーバーというのが常だ。

「「「おぉ!」」」

いつの間にか出来ていたギャラリーから歓声が上がる。

「うめぇ!」

それはお世辞などではなく心のそこから出た賛美の言葉だった。

「ふぅ、任務完了。」

そういい放ち銃を台座に戻す。

「あんたすげぇよ。もしかしてこのゲームのプロだったりする?」

「プロ?こんなクソゲーにプロなんているの?
ラスボスになった途端固くなりすぎ。急所に複数発当てないと怯まないし。絶対ワンコインでクリアさせる気がない。」

彼女は文句を言いながら手荷物を持ち立ち去ろうとする。

「それをワンコインでクリアするおまえも大概だけどな。」


「だって私最強だから。」

無表情で何処かで聞いたことがあるような台詞を吐き捨て去ろうとする彼女。

「なぁなぁ次はワシとやらんか!?」

そんな彼女の前に立って彼女を止めたのはメドピアだった。
どうやらメドピアも彼女のかっこよさというかうまさに心引かれたらしい。

「?いいけど 介護プレイにならない?」

「任せておけ!ワシもこのげーむのウィリアム・テルと呼ばれる女じゃ!」

「!? それは楽しみ。」

明らかな嘘を彼女は信じ、ワクワクした顔でゲームへとお金をいれる。


「負けたー このげーむを作ったやつ魔物か!?」

魔物みたいな奴がそれをいうかと思ったが彼女の目もあるのでいわないで心に止めておいた。

「ウィリアム・テルどうしたの?調子悪かった?」

煽りともとられる言葉を心配そうな顔で告げる。
その顔をみれば煽りの意図はなく本当に心配しているのが分かる。

「いやー 実は腕を怪我しておってのー利き手と逆でやってたからのー」

メドピアはいった手前嘘を突き通すためにさらに嘘をつく。

「本当!?それでこの点数は凄いわよ!」

「そうじゃろ そうじゃろ!?」

彼女は尊敬の眼差しをメドピアに向ける。
その眼差しをうけ更にどや顔するメドピア。
俺は馬鹿というか純粋な彼女を騙しているメドピアに憤りを感じ、本当のことを告げる。

「嘘つけ。お前利き手右手だろ。」

「ばらすなー」

「嘘だったの!?」

彼女は本当に驚いた顔を見せる。
最初の無表情はなんだったのか様々な顔を見せて少し面白いなと思った。

「すまんなー 騙してワシは実はウィリアム・テルじゃなくてただの魔弾の射手じゃ。」

どこのオペラだよまったくと、俺は心の中で毒づいた。

「?魔弾!?本当!?かっこいい!」

彼女は目をキラキラかがやかせ、まるで変形ロボットをみた子供のようだった。

「お主騙されやすいのー ういやつめ!」

その純粋な顔にメドピアも心を射たれたのか、椅子に立ち頭を凄く撫で回す。 

「くすぐったいよやめて。」

やめてと言っているが彼女の顔は凄く嬉しそうで尻尾があるなら振り回しているだろう。


「やめんぞー こんなにういやつは初めてじゃー」



「こしょばい!でも案外悪い感じじゃないかも...ほらそこ笑わない!」

その可愛らしい光景にやにやしていた俺に言ったのか
恥ずかしそうな顔で怒る。
怒られたので俺は一旦その場を離れる。


 「おらよ、ウィリアム・テルさんとアンボニー」

俺は買ってきたスポーツドリンクを彼女らに投げ渡す。

彼女はしっかりとキャッチし、メドピアはキャッチしそこない顔に衝突した。

「?アンボニー?誰?」


「お主の事じゃよ!二丁拳銃使いというイメージがある偉人からじゃ。」

メドピアは鼻を抑えて俺を殴りながら彼女にそう言う。

「なるほど...でも私は偉人といわれるほどじゃ...」

彼女は恥ずかしがっている顔を見られたくないからか下を向く。


「気にすんなただのあだ名だ。」

「そうじゃ、わしのウィリアム・テルみたいなもんじゃ。」

「お前は自称だけどな。」

「こらー 余計なこと言うなー そんな事より次は何のげーむで遊ぶ?」

目を煌めかせメドピアは彼女の手をつかみ、笑顔でそう言う。
ここだけを見ていると本当の子供のように思えた。

「!?まだ遊ぶの?」

彼女は予想外だったのか驚いた顔をする。

「嫌じゃったか?」

目をうるうるさせながらメドピアは悲しそうにいう。
こう言うところが本当にあざといなと思った。

「嫌じゃない。むしろ私みたいな人と遊んでくれて嬉しい。」

「当たり前じゃろ!友達じゃからな!」

メドピアは屈託のない笑顔でそういい放つ。


「?友達?いつから?」

「一緒に遊んだら友達って相場はきまっておるんじゃ。そうじゃろ隆一!」

「あぁ、そうだな。」

「友..達..友達。」

彼女は嬉しそうな顔でメドピアと俺を見る。

「そんなに喜んでくれるのか?良かったの!隆一初めての友達じゃぞ!」

「だれがぼっちだ! そんなこというおまえは初めての友達だろうが!」

「そういえばそうだった!」

皆は笑い、漫画ならこれで終わりそうな感じを醸していたその瞬間。

「観察対象と馴れ合うとはやはり人形は欠陥品だったか。」

冷たい声が響き渡る。
俺はその冷たい声を聞いて振り返った時、
凍えるような冷たい視線と圧倒的な力を感じた。
あの男とは違う感じだ。
あの男には不気味さと妙なあたたかさがあって恐ろしかったが、
こいつから感じられるのは圧倒的な冷たさと恐怖。
背中にナイフに突き立てられたような寒気がする。

「レン!? 彼等はボスが考えるほど危険人物じゃ!」

こんな冷たい奴と知り合いな彼女を改めて何者かとか考えるがそんな余裕がないほど圧倒的な寒さ。

「それはお頭が決めること。人形が判断することではない。」

「さっきから聞いてればワシの友達を人形 人形と!こやつはちゃんとした人間じゃ!」

人間の俺が言うべきなのにメドピアが先に言い放つ。
どこかで言わなくて安心してしまった自分にイラつく。


「怪物が人間を語るか笑止。」

「怪物と呼んだな小僧!!」

怪物と呼ばれる事を嫌うメドピアは蛇を出しとびかかる。
だがその動きは前に味わったより緩慢に感じられた。

「力の差を感じれぬ怪物はもはや怪物とは言わぬ。ノミよ。」

「なんでじゃ!もっと...力がでる...はずなのに」

「貴様らがいた神域とここは違う。それも気づかぬ間抜けとは。」

「止めて!友達をこれ以上虐めないで!」  

彼女はメドピアの目の前に身体を出し守ろうとする。

「友達? ノミを友達と呼ぶとはやはり欠陥品か。」

「ノミじゃない!」

彼女は友達を侮辱されたことに怒ったのかさっきまでの冷静な様子と違い、激昂してどこからか取り出した銃を構える。
だが弾は発射されず、呆然と立ち尽くす。


「人形が人間に叶うか!」

そういい放ち寒さを放つ男は彼女を殴り飛ばす。

「くっ、やっぱり攻撃でき...ない。」

「お前だけは力の差が分かっているようだな。どうする小僧、逃げるのなら見逃してやってもいいぞ。」

まるでゴミをみるような目で冷たくそういい放つ。
確かに逃がしてはくれるだろう。
俺をゴミとしか思っていないのだから。
だが俺の心がそれを許さなかった。
友を侮辱されたことと大事な友を傷つけられた事をガソリンにして凍ってしまった闘志を無理矢理燃やす。

「友達をこんな風に扱われてだまって逃げれるほど大人じゃねぇよ!」

そう俺は震える心を隠しながら激昂し、奴に近づく。

「ほぉ、感情任せに突っ込んでくるか。もっと冷静だと思ったんだがな。いや、必死に恐怖を押し殺しているのか?」

「に...にげ..」

彼女は力の差を良く分かっているから止めようとするがここで止まってしまえば俺の心は再び凍ってしまう。
それを俺の心が許さなかった。

「大丈夫だ!こんなやつすぐ倒して救急車よんでやるからな!」

俺は彼女の目を閉じさせ空元気でそう言い放つ。
もっとかっこつけていいたかったがそんな余裕はない。
つけいる隙があるならこいつが俺をゴミとしか思っていないことだ。
そこにかけるしかない。

「救急車を呼ばれるのはどちらか...」

そう言いながら奴は近づいてくる。
俺も歩みを止めない。
もうすぐ両方の間合いに入る。
逃げるなら今だと俺の恐怖が警告するが俺の心がそれを許さなかった。

『人間の偉大さは、恐怖に耐える誇り高き姿にある』 
                プルタルコス
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