あたしの兄は、妹です。

DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)

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しょっぱなの次。

夕方の匆匆(そうそう)2

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 帰宅しても相変わらず玄朗佐げんろうざはいなかったが、割られた窓は新品に差し替えられていたし、ガラスの破片さえ残っていなかった。もはや怪現象とも思えず、受け入れて茶の間に入る。あとに、とてとてとケイがついてきた。

「あー疲れた。ダメ。無理」

「お疲れサンマー」

「うあ食べたくない。それ食べたくない」

「よかったねー。夕飯がサンマじゃなくてカレーで」

「……そだ。ルウ入れないと」

 ユーターンして、台所に入りぎわに冷蔵庫からカレールウを取り出し、コンロの鍋まで戻る。ガス台に置いたままのそれに手をかざすと、まだほのかに温かかった。この分なら野菜にも火が通っているだろうし、ルウも割り入れて混ぜるだけで溶けてくれるだろう。

 興味津々きょうみしんしんとななめ後ろから手元をのぞき込んでくるケイは放っておいて、鍋の蓋を開ける。ふわんと漂う根菜の芳香ほうこうに、割ったルウを入れてかき混ぜると、更にかんばしい香りが食欲をそそった。

 においがメカに分かるのか……表情を読もうと真糸は、ケイへ向けて身体からだをひねった。後ろに突っ立っている彼は、相変わらず底知れないへらへらした笑顔だったが。

「はいケイ。これで、かんせ―――」

 彼を見たまま、真糸はぐるりとおたまを一回転させて、鍋から引き上げた。

 その重さに違和感を確信し、振り返る。

 自由の女神(ニンジン一刀彫いっとうぼり)と目が合った。

「アタリ! 残るは、リアル人体パーツ! なにを彫琢ちょうたくしたかというと、ヒントは『毛細血管まで丁寧ていねいに』!!」

「あ゛ーーー!!!」

 声に色があるとするなら、ケイの歓声に上書きされた真糸の絶叫は、まだまだ暮れなずんでいる夕陽の緋色ひいろよりも切なかった―――あたかもそれは、脳天からカレーに汚濁おだくした女神の悲愴ひそうを代弁したかのように。



     □ ■ □ ■ □ ■ □



 その夜。真糸の部屋のゴミ箱に捨てられたメモ帳は、最後のページに更にひと言書き足されたせいで、朝よりも暖色だんしょく指数を上げていた。ただ、上がったパーセンテージといっても、たかが知れている―――りつぶされてはいなかったし、ほんの二文字だけなのだから。

 『松蔭しょういん』と読める、ただそれだけの字なのだから。
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