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※逃亡
しおりを挟む賊の襲撃に遭ったアシッダール王国の王族リョクアとシュカナは馬車の中で待機していた。
「お、お兄様、もしかして───」
「大丈夫、ここは隣国だよ。
あいつらが手出しできるはずないよ。
たまたまだよ、たまたま。」
震える妹をリョクアは抱き締めて撫で続ける。
こんなときだからこそ彼女が安心できるように優しい声で笑顔を絶やさない。
外からは敵のものか味方のものかわからない怒号や悲鳴、剣と剣がぶつかり合う音などが聞こえてくる。
───ついさっきまでは楽しい旅をしていたのに!!
シュカナはこの状況が悲しくて怖くて兄の服をぎゅっと握りしめた。
すると安心させるように彼は回した腕に力を込めた。
───ダン、ダン、ダンッ
そうしてどれくらいたっただろうか、突然馬車のドアが強く叩かれた。
二人は体が勝手に固まるのを感じた。
「殿下、まだ賊を抑えられているうちに森へ逃げてください!
3名ほどお二人の護衛につけることができますので今のうちに!!」
リョクアはドアを叩いたのが護衛だったことに安堵しすぐさま出る準備をした。
「お兄様···。」
「大丈夫だよ。行こう。」
シュカナは差しのべられた手を取ってリョクアとともに馬車から降りて3人の護衛と森へ走った。
視界の隅で赤い色と倒れた人が見えたが気にしてはいられなかった。
気にしてしまえばそこから動けなくなってしまうから。
息が切れても着ている服が擦りきれてどろどろになっても二人は走り続けた。
途中、護衛が一人、また一人と彼らを逃がすために姿を消した。
「お二人ともこのまま走ってください!」
「そんなっ、あなたまで残るの!?」
「後で追い付きますから!
もう少し走れば皇国の詰所があるはずです!
もう少しです!」
そう叫ぶと、最後の護衛は来た道を戻って行った。
二人はとにかく護衛の言葉を信じて走ることにした。
もう少し、もう少し───
───もうすこしって、あとどれくらい?
わからないがとにかく森の中、道なき道を走った。
「あっ!」
不意にシュカナがつまづいて転んでしまった。
「シュカナ!!」
リョクアはシュカナのもとへ駆け寄って起きるのを手伝った。
しかし、立ち上がろうとしたところで彼女は倒れてしまった。
「シュカナ?」
シュカナは涙でぐちゃぐちゃになった顔をあげて、カラカラの喉から声を振り絞った。
「お兄様···私···、足を怪我しちゃったみたい···」
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